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ドイツ編 撮影日記

タンポポ畑を行く
タンポポのお花畑の正体
アウグスブルクから列車に乗り込み、終着駅のフュッセンをめざす。ドイツロケの最終章だ。フランクフルト近郊からメルヘン街道に沿って撮影を始めたのは春のはじまり。木々の芽吹きの季節で、まだ花はほとんど咲いていなかった。あれから1か月近くが経過し、フュッセンへ向かう列車の沿線は黄色い絨毯を敷いたかのよう。一面タンポポのお花畑である。とても綺麗なのだが、厳密に言うとこれはお花畑ではない。タンポポが咲く前は緑の草原だった。
番組の制作過程に、石丸さんのナレーションを録音する作業がある。最初のナレーション録りの時、石丸さんから「車窓にうねる緑の草原のようなもの、あれは何?」と訊かれたことがあった。素朴な疑問である。緑の草原には、農作業する人がいるわけでもなく、家畜も見えない。牧場なら牛や馬などが見えるはずだ。しかも緑の草原は、ドイツ中どこに行っても展開している。ドイツの車窓の風景と言えば、まず緑の草原なのである。
フュッセン行の列車を撮影している際、その正体が判明する機会に遭遇した。緑の草原はタンポポの花で黄色い草原に大変身。そこに1台の大型トラクターがやって来る。と、思う間もなくトラクターはタンポポをなぎ倒して行く。お花畑はあっという間にタンポポの墓場と化した。実はここは牧草地なのである。刈り取ったタンポポの花や草は乾燥して牛などの家畜に与えるという。そこに1羽の大きな白い鳥がやって来た。遠目に黒と赤い羽毛が視認できる。シュバコウというコウノトリの一種である。刈り取った直後の草原は、エサとなるねずみが見つけやすい。そのためドイツのコウノトリは、人間は警戒するが、トラクターは怖がらないという。
コウノトリはドイツの国鳥で、昔から幸運を運んでくると信じられてきた。春になるとアフリカ方面から繁殖のため飛来する。つまり、幸せを運ぶ春の使者である。これはいいことがありそうだ。案の定、最後を飾るフュッセン周辺での撮影は又とない晴天に恵まれた。残雪を頂くアルプスの峰々、高原を渡る春の風、そしてタンポポのお花畑、そのすべてが美しかった。ここで一句。
「アルプスのお山の草に寝ころびて 空に吸われし 59の心」
 失礼しました!
ディレクター 浦野 俊実
フュッセンの穏やかな風景
壮麗なノイシュヴァンシュタイン城