

2010年8月17日
北朝鮮は去年11月30日を境に、通貨単位を100分の1にかえる“デノミ”を断行した。しかし、交換できる上限を旧貨幣で10万ウォン(2500円相当)までと限定したため、それ以上のお金は一瞬にして紙くずとなった。アジアプレスの石丸次郎氏は、「国民の財産を取り上げ、十数年間に進んだ市場経済化をもう一度、統制経済に戻すため、市場に打撃を与えようということで、デノミを断行したのではないか」と話す。突然始まったデノミ。経済の混乱に拍車をかけ、人々の生活を圧迫している。北朝鮮の生身の情報を伝える雑誌「リムジンガン」の記者・金東哲(キム・ドンチョル)氏が、混乱を極める国内の生々しい現状を極秘取材した。
平壌から北東へ100kmの平安南道(ピョンアンナムド)の街。“サービ車”と呼ばれる乗り合い車は、庶民の足だ。客を乗せる車の営業は違法だが、政府機関が小遣い稼ぎのために車を貸し出している。日本の警察にあたる保安省の車の側に、保安員がついている。車を貸す一方で、賄賂を求めるのが、これまでの常套手段だった。保安員が賄賂を要求したところ、乗り合い車の責任者が、「どういうつもりだ。警察の星をつけているからって偉いのか。何様のつもりだ」と罵倒。保安員は胸を押され後ずさり。運転手の男たちも加勢して、保安員を追いやった。公衆の面前で権力機関への反抗。これまでは考えられない光景だ。国家の統制力は弱体化し、人々の不平や不満が高まりを見せている。
公設市場でも争いは起きていた。豚肉を安くするよう交渉した男性客に対し、店主は「自分だけ得して他人の物をタダで持っていこうなんて泥棒だ。ズボンをはいている男のくせに、スカートでもはけ」と苛立ちを見せていた。皆、生きるのに必死だ。国営企業からの給料は滞りがちで、食糧配給も麻痺。これまで人々は市場で商いをして日銭を稼いでいたが、いま、その生活を支える場が窮地に陥っている。市場には、調味料や釜などの生活必需品が並んでいるが、商品が高々と並べられていた2年前に比べると、商品は激減し、人の往来も乏しい。これまでの蓄えが没収されたため、流通が麻痺。市場に物が出回らなくなり、品薄状態になっている。デノミ実施時には、米の公定価格は1kg約20ウォンに設定されていたが、6月末時点で1kg550ウォン。半年あまりで27倍に高騰した。