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春の台湾 潮風・新緑・恋の香りを辿る旅編 撮影日記

青い海を背景に電車の到来を待つ
絶景スポットを探せ!
今回の旅で、最も美しい映像が撮影できるのではと期待していたのは、台湾最南端の路線・南廻線だった。台湾海峡や太平洋といった海のすぐそばを走る “台湾で最も車窓がきれいな路線”とも言われる区間だ。南廻線はもともと一日の列車運行本数が少ない。ともなると、列車の走行シーンの撮影チャンスも自然と限られてくる。その為、万全の体制で列車を迎えるべく、撮影場所は入念にリサーチ。青い海とマンゴー畑と列車が一緒に撮影できそうな場所に当たりをつけて、余裕を持って2時間くらい前に現場へと向かった。
撮影候補地は3か所。南廻線の周辺は小さな町しかなく、マンゴー畑とスイカ畑が広がる。目の前に広がる青い海。聞こえてくるのは潮風で揺られるマンゴーの葉の音。本当に気持ちがいい地域で、自然と期待が膨らんでいった。
しかし、撮影はその気持ち良さに全くひたる余裕がなくなるほど大変なものとなった。撮影候補地までの道が、未舗装&極細の農道ばかりで、予想以上に移動に時間がかかってしまったのである。迫る列車の通過時間。2か所目に到着した時点で、残り20分前。最後の撮影場所まで3キロ。このままだとロケ前からずっと期待していた絶景ポイントを撮り逃してしまう。焦りに焦りまくった我々は、ある一つの方法を決断した。その方法は撮影隊を残し、ディレクターの僕が一人カメラを持って、次の撮影場所まで走って撮影するというもの。
地図を片手に山道を一人激走。機材を背負って見知らぬ南国の地を走る走る。
そんな一刻を争う時に、僕は道に迷ってしまった。台湾の山道で迷子。もはやこれまでと、一瞬あきらめかけた僕の前に、マンゴー農家のおじさんが近づいてきた。
見るからに困っていた僕を心配してくれたのだろう。
これはチャンス!このおじさんに道を聞くしかない!
僕はジェスチャーを交え、必死に道を尋ねた。
「電車、カメラ、ベストショット、場所プリーズ」
出てきたのは、ほぼ日本語。でもここは優しき台湾人。直ぐに意味を理解してくれ、丁寧に道を教えてくれた。おじさんが教えてくれたのは、僕が最初に行こうとしていた場所とは少し違った山の上だった。もう信じるしかない。とにかく走りに走った。結局、おじさんが勧める撮影地に到着したのは、列車が通過するほんの30秒前。全身汗でぐっしょりの僕の前に広がっていたのは、青い海とマンゴー畑が織りなす南廻線の絶景だった。途中で諦めていたら、マンゴー農家のおじさんがいなかったら、絶対に出会えていなかった絶景。本当に感謝しかない。
いつの日かまたこの絶景の地に来よう。そう胸に秘め、僕は次なる地へと向かった。
ディレクター 小野田治矢
台湾で唯一「普快車」が走る南廻線
エアコンがない旧型客車も魅力のひとつ