世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

スウェーデン・ノルウェー編 撮影日記

別れの風景
スウェーデンの原風景ダーラナ地方
ストックホルムから北西へ、列車で2、3時間の距離にあるダーラナ地方。スウェーデン人の心の故郷と称される場所である。都会で暮らす人々にとって、夏休みをダーラナ地方のサマーハウスでのんびりと過ごすことが、ステイタスともされているらしい。列車で出会った人々は皆、口々にそう言っていた。
スウェーデンの人々の、再会の喜びと別れの悲しみの感情表現は激しい。列車での物語を積み上げて行く上で、そこは是非とも撮影したいところ。だが、こちらが思わず赤面してしまう程、激しいのだ。カップルは人目もはばからず、お互いじっと見つめ合い、ときに目を潤ませ、そしてきつく抱擁し、長いときには数分にも及ぶ情熱的なキスを交わす。家族同士でさえも、熱いキスとまではいかないが、ときに夢にまで見た再会であるかのように、ときに今生の別れであるかのように、感情を爆発させる。北欧の人々にとって、短くも待ちわびた夏という季節がそうさせるのか。だとしたら夏は本当に魔性の季節なのかもしれない、などと、そうした光景をじっと撮影しながら、ふとひとり思いを巡らせていた。
夏のダーラナ地方には、人々に負けないくらい情熱的な花々が咲き誇っていた。どれもこれも赤や黄色、紫などの、これでもかと言わんばかりの発色をしている。それは、ビビットなカラーの自然をモチーフにしたデザインの北欧雑貨にもよく表れている。訪れたテキスタイルの工房も例外ではなかった。北欧の冬は、長く厳しく、辺り一面の景色をグレー一色に染め上げてしまう。だからこそ、夏の生き生きとした自然をデザインに取り込むことが伝統なのだと、工房のオーナー夫人が身振り手振りで、情熱的に語ってくれた。夏とは、北欧の人々にとって、それほどまでに恋い焦がれる特別な季節なのだと。ならば、人々が見せる情熱的な愛情表現も納得がいくというものか。
ディレクター 松井悟
テキスタイル工房ヨブスのオーナー夫人
ヨブスの布を使った商品