大越健介の報ステ後記

ここで国会のお話をひとつ
2022年10月22日

 とても大事なことなのに、このところ、われわれ番組スタッフの間で、「どうもこの日の項目のアタマに持ってくるには弱いかな」とか、「目新しいテーマが出ているわけじゃないしね」、などという弱めの印象とともに語られてきたのが、国会のニュースである。
 野党側の追及も迫力に欠けるし、政府側の答弁も紋切り型に終始するきらいがある。番組で取り上げても視聴者に関心を持って見てもらえるようには思えず、伝える僕の方も、「ここでちょっと国会のお話でもひとつさせてもらいます」とでも言うような、あるいは「恐縮ですがお時間を拝借しますね」とでも言うような、やや遠慮がちにニュースを紹介するようなところがあった。

 ところが、この週は違った。10月17日の月曜日から金曜日まですべて、衆参の予算委員会の論議や、法案をめぐる与野党の協議など、国会のニュースが番組に「でん」と座り続けた。
 この春から、報道ステーション専従となったあるニュースデスクが、「こんなこと、僕が報ステのデスクをするようになってから、初めてですよ」と感慨深げに語った。政治部の記者歴が長く、しんどい永田町取材に心血を注いできた彼にとって、政治ニュースが番組の表舞台に立つことは、それまでの努力が報われ、やりがいを感じることでもある。僕も政治取材は山ほどやった方なので、その気持ちがとてもよくわかる。

 確かに彼の言うとおりの一週間だった。
 旧統一教会に対し、初の「質問権」の行使による調査に踏み込むという、前例のない総理発言をわかりやすく解説しようと、演出に懸命に工夫を凝らした月曜日。総理がついに教会の解散請求を視野に入れたのかと思いきや、そうでもなさそうな発言に戻った火曜日。いや、やはり前言撤回、180度の答弁修正をして見せた水曜日。教会と「政策協定」と言えるような確認書を取り交わしていた自民党議員がいることがわかり、騒然となった木曜日。
 そして、与野党が喧嘩ばかりしていても始まらないと、自民・公明・立憲・維新の4党が、被害者救済の法整備に共同で着手した金曜日。永田町は久しぶりにニュースの表舞台であり続けた。

 だが、角度を変えて考えてみると、この一週間は、永田町に場所を借りての、旧統一教会のニュース一色だったとも言える。
 悪質な霊感商法など、ずっと問題を抱えながらも、社会の意識の下に沈み込んでいたこの教会の存在が、まさかの安倍元首相の銃撃事件によって、一気に再認識されるに至った。マインドコントロールとは何か、信教の自由とは何かといった、人間の心の領域に関わる問題に政治がどう向き合うかが突き付けられたのだ。

 この問題にアプローチすることがどれほど難しいかは、岸田首相の発言が大きくぶれたことを見ても分かる。ぶれたこと自体ほめられたものではないし、理論武装の弱さは、岸田首相を支えるスタッフのもろさを示す証しにも見える。政権の先行きに不安材料が加わったと見る向きもある。
 ただ、この問題の副産物のようにして、与野党協議の場が立ち上がったことは前向きに受け止めてもいいと思う。

 与野党協議、という言葉は、国会がいわゆる「ねじれ状態」だった時にはよく聞いた。与党が、例えば衆院で多数を占めていても参院では多数を占めていない状態では、単純に多数決で考えれば法案は成立しない。そこで野党の意見を聞く必要に迫られたのが「ねじれ」国会の特徴だった。それが、安倍政権以降、与党が衆参ともに安定的に多数を占めるようになり、与野党の対話がめっきり減っていた。与党の「おごり」もちらついた。
 今回は、旧統一教会の問題で窮した政府・自民党が、野党にもすがらざるを得なかったというのが実態かもしれない。しかも、与野党の間にはなお意見の隔たりがあるし、与野党協議の行方は不透明だ。
 それでも、被害者救済は急がなければならない。つまりは、与野党ともに真価が問われるということになる。

 そこで、この一週間を改めて振り返ってみる。
 政治も、われわれマスメディアも、旧統一教会に振り回された面はある。教会が抱える問題を知りながら放置してきた責任を、今になって問われていると言われればその通りだ。
 一方でこんな声も聞く。国会ではもっといろいろな議論が行われている。物価高と円安に振り回される日本経済。中国や北朝鮮といった強権国家のリスクにどう向き合うかという安全保障上の問題。ウクライナ情勢も風雲急を告げており、国会ではこうしたことも連日取り上げられている。番組でももっとそうした国会論戦を紹介すべきではないか・・・。
 それもまた然りだ。しかし、結果として、旧統一教会一色に政治ニュースが染まったとしても、そこにはやはり理由があると思っている。

 そもそも人々の心の領域にどう向き合うかは、政治の本質的な問題なのだ。今回は旧統一教会という問題の多い宗教法人と、法人との深刻なトラブルを抱える人々の救済をめぐっての議論だが、もっと広く考えれば、内心の自由とは何かについて考え、政治がどこまで立ち入ることができるのかを議論する貴重な機会ともなっている。自由と民主主義を重んじる日本に住むわれわれにとっては不可欠なことなのだ。だとすれば、経済や安全保障という今日的な問題に優先してでも、番組で取り上げる価値はあるのではないか。

 ちょっと大上段の議論になってしまった。やたらと難しい言葉を使い、力みかえっている自分に気付く。
 でも、それくらい大事な問題と考えていることをご理解ください。
 次回は、もう少し肩の凝らない話を書ければと思います。ウチのネコの粗相(そそう)の話とか。あっ、それは前に書いたっけ。

(2022年10月22日)

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