

2012年5月29日
福島第一原発事故で故郷を奪われ、厳しい避難生活を続けるなかで亡くなる人たちがいる。こうした人たちに東京電力は、何らかの報いはできているのか。実は、東電は、避難に伴う死亡者への賠償について、一律の基準を定めていない。肉親を失った悲しみに加え、個別の交渉の負担が被災者に重くのしかかる。賠償をめぐって傷ついていく遺族の姿を追った。
福島市に住む松崎洋子さん(48)は去年6月、父・君雄さんを亡くした。君雄さんは、福島第一原発から4kmの双葉厚生病院に入院していた。事故を受けた避難で明らかに体調が悪化していったという。福島市内の病院に転院した君雄さんは、3カ月後に亡くなった。当時の君雄さんの日記には、『昨夜から寝付かれず』『だるいですね。息苦しくてたまりません』など、容体の悪化が綴られていた。避難によって死が早まったのではないか。松崎さんの相談に東京電力の担当者は、賠償を請求する用紙の『その他』の欄に賠償金額を書けばよいと事務的な口調で説明。続く言葉に松崎さんは耳を疑った。「賠償金額は“言い値”で書いてください」と言われたという。松崎さんは「200万とか1000万円とか、その人の命の値段をつけられない。金額ではない。責任を認めて欲しいという部分が一番」と話す。松崎さんは、結局、『算定できず』と書いて書類を提出した。交渉から半年、今も東電からの回答はない。福島原発被害弁護団・笹山尚人弁護士は「交通事故で被害者と加害者が話し合いするときに、加害者が『自分の被害の値段を決めて書いていいですよ。それに応じて私の方で考えますから』というような話し合いはしない」と指摘する。
東日本大震災で“震災関連死”と認定されたのは、現在1632人。そのうち福島県が761人を占めている(3月末時点、復興庁調べ)。渡辺隆さん(66)の母もその1人だ。富岡町の病院に入院していた渡辺さんの母は、事故後、郡山を経て、会津若松の病院に移ったが、去年4月3日に亡くなった。富岡町からは、避難生活で持病が悪化したと、震災関連死と認められた。東京電力には、去年10月、松崎さんと同様、金額を入れずに賠償を請求すると、葬儀代など実費だけを請求するよう連絡があった。渡辺さんは「東電には、我々に対して誠意というものは一つもない」と憤りを隠せない。
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