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スペイン編 撮影日記

カセータが並ぶ大通り
本気で楽しむフェリア
セビーリャの街はフェリア・デ・アブリル(春祭り)の期間中、華やかな雰囲気に包まれる。何より目立つのは、フラメンコの衣装として知られる伝統のドレスを纏った女性たち。背中が大きく開いた細身のドレスを、どの世代の人も素敵に着こなしている。男性もスーツや伝統の衣装をきちっと着ていて、装いを見ただけで祭りにかける思いの強さがひしひしと伝わってくる。
19世紀半ばに家畜の見本市として始まったこの祭り。見本市はもう行われていないが、 広大な祭りの会場を行き交う、馬車や馬に乗った人たちが、150年前の雰囲気を醸し出す。さらに独特の雰囲気を見せるのは、カセータと呼ばれる仮設の小屋。カラフルな装飾が施された小屋には番号がついていて、それぞれ友人や親戚、企業などのグループごとに過ごす会員制のスペースになっている。基本的には招待された人しか入れないが、誰でも入ることができるカセータもいくつか用意されている。建ち並ぶかセータの数は1000近くあり、番号を頼りに目的のカセータを目指すのだが、たどり着くまで想像以上に時間がかかった。中に入ると、テーブルと椅子が並んでいて、その奥に演奏や踊りを披露する舞台がある。1週間の祭りの期間中、飲んで踊って陽気に過ごす。それが、この祭りの醍醐味なのだ。私たちが取材したのは午後の時間帯。どのカセータも祭りを楽しむ人たちの熱気に包まれていたが、夜になると、もっと沢山の人でごった返し、朝までセビリャーナスという伝統の踊りを踊り続けるらしい。夜の雰囲気も見てみたかったが、夕方から他の場所に移動して撮影をしなければならず、見ることはできなかった。
次の日の朝、乗車した高速列車AVEの車内は気だるい雰囲気が漂っていた。どうやら朝まで踊り明かした、祭りの帰り道という人が多く乗っているらしい。夜の祭りの熱気は見ることができなかったけれど、ちょっとお疲れの様子の乗客たちの姿を見て、改めて、“日常を忘れ、楽しい時間こそ手抜きをせずに、本気で楽しむ”というスペインの人たちの心意気を感じることができた。そういうところが、‘情熱の国スペイン’といわれる所以なのかもしれない。
ディレクター 渡部博美
カセータは親族や友人と過ごすプライベート空間
ドレスアップした子供たち