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スペイン編 撮影日記

アルカサル・デ・サン・フアン近郊を走るタルゴ
混雑ゆえの出会い
アルカサル・デ・サン・フアンから乗り込んだ長距離列車タルゴは、混雑していた。乗客の多くが目指すのは、終点セビーリャ。明後日から開かれる、春祭り(フェリア・デ・アブリル)へ行くのだという。始発のバルセロナからセビーリャへ列車で行くには、マドリード経由で高速列車のAVEに乗るのが1番早い。だいたい5〜6時間で行けるのだが、ローカルルートを走るタルゴは、始発から終点までおよそ12時間。祭りの期間、AVEは全て満席になり、止む無く半日がかりの移動となった人がタルゴには多く乗っていた。長時間の移動は大変だろうなと乗客たちを見ていると、偶然隣り合わせた乗客と話し込んだり、カフェ車両で気分転換をしたり、混雑ゆえに訪れた状況や人との出会いをかえって楽しんでいるように見えた。
実は、この春祭りの大混雑、私たちも巻き込まれていた。セビーリャの滞在先がどうにも見つからなかったのだ。祭りに行く人は相当早い段階で予約をするらしく、近郊の街も含めホテルは全て予約で埋まっていた。そんななか見つかったのは、セビーリャから35キロ東に位置する街カルモナにある、修道院だった。一般客の宿泊も受け入れているらしい。
撮影を終えてたどり着いたのは、小高い丘に白壁の家が建ち並ぶ、静かな街。細い路地で荷物を降ろしていると、シスターたちが出てきて一緒に荷物を運んでくれた。優しさに感動しながら中に入ると、明るい中庭の周りに宿泊者用の部屋が並んでいる。当然ながらお祈りをする礼拝堂もあるという。部屋は、ベッドとシャワーとトイレのある、とてもシンプルな作り。‘外出する時は、必ずシスターに一声かける’というルール以外は、普通のホテルとさほど変わらない。夕食のサービスはないが、朝食はシスターたちが用意してくれた。パンにあたたかいコーヒー、ハムやチーズ、果物までテーブルに運んでくれる。ロケも終盤、スタッフ一同疲れもたまってきた頃だったが、シスターたちの慈悲深い対応に心洗われ、さわやかな気持ちで撮影に向かうことができた。思えばこれも、セビーリャの混雑ゆえに訪れた、すてきな出会いなのでした。
ディレクター 渡部博美
カフェ車両
コーヒー片手に盛り上がる女性たち