雨季のカンボジア〜青く輝く田園を走る 撮影日記

- 水面に浮かぶように見えるアンコール・ワットの西参道
- アンコールにて
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アンコール遺跡の撮影に徹する7月下旬のある日。まずは「朝日を背負うアンコール・ワット」を撮りに、5時前には西参道の聖池前へ行って場所取りを完了させました。日の出は5時47分。空模様は曇り。残念ながら今日は太陽が出そうにありません。しかし空が段々と青みがかり、雨が降ってきて、輪郭をはっきりと見せ始めたそれは、しっとりと陰りがあり、厳かなオーラがありました。
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アンコール・ワットは珍しい「西向き」の寺院。ヒンドゥー教の神ヴィシュヌに捧げられており、ヴィシュヌ神は「西」を司る神であるため、西向きに建てられたとされます。アンコール・ワットの内部を撮るなら、順光になる午後帯が良いので、午前中は別の遺跡、「バイヨン寺院」「タ・プロ―ム」の撮影へ。その頃には朝の雨雲はどこへやら。カンカン照りとなりました。事前に聞いてはいたものの、一つひとつの遺跡が想像以上に広大で撮影クルー3人ともひどく消耗。
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「タ・プロ―ム」からの帰り道、何人もの職人たちが列になって座り込み、石畳の道を補修する光景を目にしました。きっと建設当時も鳴っていたであろう、「カンカンカン」という石を叩く繊細な音色に心を奪われながら車へ引き返す時。タイ国境の係争地で武力衝突が起こったというニュースを、コーディネーターのソティさんから知らされました。ここからたった数百キロ先で、戦闘が始まってしまったということのあまりの唐突さに、面食らいました。こののどかで平和で豊かな情景とのギャップに心が追い付きませんでした。
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午後になって再び訪れたアンコール・ワット。思った以上のスケールと、緻密すぎるレリーフ、太陽の差す角度まで計算された建築。終始、圧倒されました。観光客で賑わう寺院で、仏像に祈りを捧げていた一人の女性は、国境付近から西へ逃れる道中、無事を祈るためにアンコール・ワットへ寄ったのだと話してくれました。紛争のニュースや寝不足もあいまって、頭も体もフラフラでしたが、その疲労感も含め、途方もないアンコール遺跡の記憶が刻まれました。
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(7月の武力衝突は5日後に停戦、10月に和平合意に至りましたが、12月には再び国境で緊張が激化しました。)
- ディレクター 中村 仁美

- 朝のアンコール・ワット

- タ・プロ―ムの入口で