拗ね者(すねもの)として
2022年08月14日

 収穫期を逃したゴーヤ(苦瓜)と対話した。

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 「こんなふうにまっ黄色になってしまったのは、お前のせいだ。オレの旬は去ってしまった。ツヤツヤの深緑で、シャキッとした食感と独特の苦みがオレの持ち味だったのだ。ゴーヤ・チャンプルーになるなり、冷水を浴びて鰹節と一緒に醤油をかけられるなりして、ビールのお供になってやってもよかったのに。しかし、それもかなわない。あんたのせいですっかり完熟してしまった。さあ、どうしてくれる」。
 「申し訳ない。悪いのは確かに僕だ。しかし、いまの君はちょっと毒々しすぎるな。完熟したゴーヤも料理できないことはないらしいが、残念ながらやり方がわからない。そんな地面の近くに実がなっているなんて思わなかったんだ。まあ・・・あとは自然の成り行きに任せよう」。

 「そりゃないだろ!」という嘆き節を聞かなかったことにして、僕はその1メートルくらい上で実をつけていた、つやつやの深緑色をしたゴーヤを収穫し、おいしくチャンプルーにしていただいたのであった。「拗ねてやる…」という完熟ゴーヤの捨てゼリフがむなしく響く。

 拗ねてしまったゴーヤを見ながら、それはそれでカッコいいと僕は思う。
 記者の仕事についてから、僕はずっと心の中で「拗ね者」でありたいと思ってきた。権力におもねることなく、社会全体が右を向いたら左を向いてみて、「皆さんそれで本当にいいんですか」などと釘を刺してみる。逆もまたありだ。人並みに正義漢はあるつもりだが、実はひねくれたところのある自分には、そうした社会貢献の仕方が合っているのではないか。
 僕が好きなジャーナリストに、読売新聞社会部出身の本田靖春さんという人がいる。若いころ本田氏の「不当逮捕」という作品を読み、検察という巨大権力機構とそこに切り込む記者をめぐるノンフィクションに感動した。その本田さんの絶筆が「我、拗ね者として生涯を閉ず」という著作であり、それ以来、自分も「拗ね者」の端くれでありたいと思ってきた。

 しかし、拗ね者の出番が少ないご時世である。
 異常気象が常態化した。このところ、伝えるニュースは連日、ゲリラという形容が普通になった大雨や、体温を越える猛暑など、災害に関係するものが圧倒的に多い。加えてこの週末には台風までやってきた。
 そうなると、伝える側としては拗ねている場合ではない。気象予報士の眞家泉さんとともに、繰り返し気象情報を伝え、真正面から警戒を呼び掛ける。夜遅い番組だけに、この時間特有の呼びかけの仕方もある。大雨や土砂災害が警戒されるときは特に、「外に避難するとかえって危険な場合があります。家の二階部分など、少しでも高い所への垂直非難を!」などと、何度伝えたことか。

 しかも、コロナ禍が続いている。デルタ株などと比べ重症化しにくいというオミクロン株の特性を踏まえ、国による行動制限はない。だからこそ、ひとりひとりの責任ある判断が必要となる。
 「三密を避け、マスク着用、手洗いの励行。各々できることをしっかりやりましょう」。
 これも放送の中で何回呼びかけたことか。しかし、こちらも大真面目に何度でも繰り返さなければならない。これもまた拗ねていいテーマではない。

 それでも、命と健康に直接かかわる問題の一方で、やっぱり拗ね者精神をできるだけ発揮したい。
 政治家の皆さん、ちゃんと仕事していますか?旧統一教会に祝電を送っていた皆さん、関係する会合でニコニコと挨拶していた皆さん、献金を受けていた皆さん、本当に知らなかったのですか?「政治家という仕事柄、仕方なかった」という言葉が、万能の免罪符だとでも思っていませんか?
 世の中、そんなに寛容ではない。僕もそんなに物分かりは良くない。

 ウクライナに侵攻したロシアという国に対しては、拗ね者どころか、正義の突貫小僧となって立ち向かいたい。プーチン大統領の開き直りは看過できない。彼が起こした蛮行は、歴史の法廷できちんと裁かれなければならない。世の中がこの悲惨な出来事を忘却のかなたに追いやらないよう、しつこく報道し続ける。それは番組の使命でもある。

 さて、そんな僕ではありますが、10月からはこれまでの週4日の登板に加え、金曜日を含む週5日登板で臨むこととなりました。妻からは「歳を考えなさいよ」と、再三釘を刺されますが、正しい拗ね者としてがんばりますので、引き続きよろしくお願いします。

 台風が去った家庭菜園を見に行った。黄色く拗ねたゴーヤをそっとのぞいてみた。もう実は割けて中から真っ赤なタネが顔を出していた。

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 ちょっと気の毒だったが、これが自然の摂理だ。「オレのことどうしてくれる?」と突っかかる元気もなさそうだ。待てよ。ゴーヤの実はそもそも雌花につくものだから「オレ」では失礼か。まあいいか。
 おそらく種は地中に埋もれ、来年の5月か6月には芽を出すはずだ。そしたら株を植えかえ、丹念に育てて、また壁面に這わせるとしよう。世代はこうしてめぐる。
 僕もそういうことを考える年齢となった。もうすぐ61歳の誕生日を迎える。

(2022年8月14日)

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