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わたしの「相棒」
〜相棒好きアナウンサー 矢島悠子 ひとつの相棒論〜
わたしの思う「相棒」は切っても切れない腐れ縁の友人とか、肌身離さず持っている物ではない。意味が違う。
「相棒」を愛してやまないものの一人として、ひとつ言うならば、わたしの「相棒」はまだ見ぬ人である、ということだ。
わたしにとって、特命係のふたりのような関係に当たる人はまだ存在しない気がする。
かつて放送されていた永遠の刑事ドラマのひとつ、「あぶない刑事」にも相棒が描かれるがあのユウジとタカとは明らかに違う関係なのである。
タカとユウジのような、フランクだけど熱い友情とは違う。
こちらの「相棒」はただの仲良し二人組ではない。
警視庁ふたりだけの特命係。
それが相棒のふたりの別名である。
杉下右京(相棒好きはみんな右京さんと呼ぶ)と亀山薫(相棒好きはみんな薫ちゃんと呼ぶ)は、対等の関係ではない。
そこには確かな師弟関係が存在している。
けれどもお互い尊敬しあい、その個性を尊重している。
今でこそふたりはお互いを「相棒」として強く認識しあう仲であるが、シーズン1,2などのはじめでは、まだお互いをそこまで信頼してはいないシーンも描かれている。
薫ちゃんは右京のことを、神経質で細かい上司と思っていたし
右京は薫ちゃんのことを、すぐに熱くなる単純な男だと思っていた。
では、ふたりに共通した、そして決定的なものとは何か!?
曲がったことを良しとしない、悪と徹底的に向き合う姿である。
警視庁の中でも、このふたりを越える人はいない。
絶対的な正義こそがふたりを結んでいる。
これ以外には何もない。
時に鋭すぎるナイフのように
時に凍えた身体をやんわりと溶かすブランケットのように
ふたりはわたしたちに真っ直ぐに正義を突きつける。
その為であれば、自らの立場を失いそうになることも厭わない。
たとえ真実がどんなに醜くて痛みを伴うものであっても、この特命係のふたりなら誤魔化すことなく、目の前に提示してくれるという信頼感。
ここには特命係とわたしたちの相棒的信頼感があるのである。
2対∞の関係が常に描かれているのである。
デイリーのニュースの中にはそんなカッコイイ奴らは登場しない。
みんな言い訳ばかり。人のせいばかり。時代のせいばかり。
だからみんなが待っている。どこかでまだ信じていたいのだ、揺るがない正義を。
権力に屈しない精神を。それがたとえ架空であっても、だ。
それぐらい、今のわたしたちは正義という言葉に迷走してしまっているように思う。
どんなに頭をひねってみても、やはり「相棒」のような関係をずっと貫いてきたパートナーがわたしにはいない。
でも、瞬間・瞬間にはいる気がする。
たとえば、リアルタイム(この時間キッカリにCMに入りますっていう時だ)を背負ったニュースを読んでいるとき、残り10秒をカウントしてくれているADさんとわたし。
たとえば、お散歩ロケ中に、良いハプニングを「撮って!」と思った瞬間、瞬時に捉えてくれるカメラマンとわたし。
この人がいなくては、にっちもさっちもいかなかった。
よかった、うまくいった。
胸を撫で下ろす。こんな瞬間がときどきある。
そういう時はだいたい、目を見合っている。信じる。相手を信じる。
目に見えないバトンをつなぐような、そんな感覚になる。
うまくいくときは話さなくても、わかりあえたのがわかる。
緊張で手が震えても、あぁこの人となら大丈夫だと思える。
こんな瞬間が本当に時々、ごく稀にある気がする。
これは瞬間的な「相棒」的体験なのかもしれない。
警視庁特命係の「相棒」とは、気高い精神でもって正義を貫いてきた「姿勢」のようなものだとわたしは考える。
人生の良き伴侶を探すのももちろん大切なことではあるけれど、
こういった瞬間的な「相棒」を少しずつ増やしていけるのはとても大切な人生の目標でもあるように思う。
また自分自身が、いつか誰かにとって、きちんと「相棒」と呼べるような役割を果たせるようになることもまた然りである。
わたしのまだ見ぬ「相棒」へ。
どうか君もまた、どこかで誰かとそんな相棒的瞬間を迎えていておくれ。
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・・・これを書いてからしばらく経って、「相棒」的体験が増えた。
ここに追記したい。
先日、「相棒」劇場版のプレミア試写会の司会をさせていただいた。
そのときわたしは(幸運なことに!!)相棒の出演者の皆さんと同じ部屋でスタンバイをしていたのである。
周りが「相棒」。
こんな体験が出来るなんて、思っても見なかった。
目を白黒させながら、出番を待っているとみんなに囲まれていた水谷さんが真っ直ぐこちらを見ていることに気がついた。右京さんが何かを推理するときのような表情をしながら、その顔に似つかわしくないポーズをしているのだ。
親指を立てて「グッド」のサイン。
「ガンバッテネ」と言われているような気持ちになった。
わたしは嬉しさと照れで何も言えなくて、こくりと頷き、頭を下げることしか出来なかった。
そのあとすぐ、わたしは寺脇さんをチラッと盗み見た。
すると、寺脇さんもこちらを振り返ったところだった。
薫ちゃんの、あの真っ直ぐ熱い視線で、口を真一文字にしめて、頷いた。
そしてやはり、親指を立てて「グッド」のサイン。
「ダイジョウブダヨ」と言われているような気持ちになった。
とたんに胸の中がザワザワと音を立てたあと、鳥肌が立った。
わたしも頷いた。
原稿を持つ手に力がきゅっと入った。
これこそが 「相棒」的瞬間 だ。
本当におこがましいけれど、その瞬間ふたりには信じてもらっている気がした。
水谷さんや寺脇さんには新人の時からインタビューなどをさせてもらっている。
どれだけ「相棒」好きなのかは、もうきっと十分にふたりもわかってくださっているのだろう。
わたしがこの映画化を、誰にも負けないくらい楽しみにしていること。
そして今からそれをもっとたくさんの人と共有しようとしていること。
ふたりと同じ気持ちでいることを、わたしもその瞬間、信じていた。
言葉が交わされないうちに、思いが伝わっている。
相手のことを、ただなんとなく信じている。
それはもっともすばらしい「相棒」的瞬間なのだ。
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さて、次は久保田アナウンサーにバトンタッチ。
久保田さん、教えてあなたの相棒!!
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