世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

モンゴル編 撮影日記

馬に乗るお父さんとお母さん
ゲルの宿泊
今回のロケでとても楽しみにしていた事があった。遊牧民のゲルへの宿泊だ。宿泊を受け入れてくれたのは、遊牧民で6人家族のムンフバットさん一家。宿泊中に感動したのは、一家全員がとても働き者だという事だ。韓国の大学に通う長女と17歳の次女は常に母の手伝いをして動き回っているし、家畜の世話を任された19歳の長男は遅くまで働きっぱなし。更に朝一番に起きだしては馬の世話をしている。
そしてもう一つ感動したのは、父親への尊敬の念が家族から自然に伝わる事だ。食事の配膳は必ず父親から。料理も父が一口つけてから。常に同じ空間で生活し、父の仕事を間近に見ているからこそ、自然と父への尊敬の念が生まれるのだという。幼い子を持つカメラマンのH氏が細い目でその様子を眺め、「…ここは理想郷か?」と呟いていたのがとても愉快だった。
…のだけれど、ちょっと面白い事が宿泊中に起こる。我々が撮影で遅くなり大急ぎでゲルに戻っている道中、草原で親戚たちと酒盛りをしている一家と遭遇した。お祭りの時期という事もあってご主人はもう超ご機嫌。けれどその後ろにいる奥さんの表情が、何やら険しいのだ。どうやら夕飯が遅くなるから帰ろうと急かす奥さんの言葉に、ご主人がまるで耳を貸さなかったのが原因らしい。ゲルに戻るとご主人は急に居心地が悪そうにし、奥さんはというと…無言の怒りを背中で語っている。思わず撮影隊(全員男子)も小さくなるその怒りの背中は、日本の母のそれと全く同じ。とうとうご主人は、同じゲルにいるのが気まずくなり、そそくさと長男の手伝いに外へ出てしまった。幼い子を持つカメラマンのH氏が細い目でその様子を眺め、「やはり理想郷など無いのだな。」と満足げに呟いていたのが、いやはやとても愉快だった。
ディレクター 萩原 翔
遊牧の仕事を父から学んでいる長男
泊めてもらった家族