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イタリア・フランス編 撮影日記

コルシカの橋を行く
芋虫列車を追いかけて
コルシカ鉄道の列車にはなんとも言えない愛嬌がある。白色ベースで丸っこいデザインの車体が常に2両編成で走っていて、そのずんぐりむっくりの風体がどこか芋虫を連想させるし、ディーゼル車なのでボボボボボというちょっとこもった排気音を響かせて走るのも可愛らしい。
そろそろコルシカの旅も終わりに近づいていた9月の上旬。予定していた取材項目はほぼ撮影が済んでいたけれど、列車の走行カットの撮影が後回しになっていた。あと2日のうちに10カットくらい撮らないと編集的に足らない!という見込みだったので、僕たち撮影隊は夏休みの終わりに溜まった宿題を片付けて行くような心境でこの芋虫列車を追いかけることになった。
その日最初に狙っていたのはコルテとアジャクシオの間の山間部にあるポイント。橋の上を通る列車を近距離から撮影したかったのだが、現場に到着してみると個人の家の敷地に入らないと撮れそうにない。「あー、どうしよう!」と困っていたら、外が騒々しいのに気づいたその家のマダムが玄関から出てきた。コルシカ出身の我らがドライバーニコラを先頭に立たせて交渉してもらい敷地に入れてもらう撮影隊。
庭に入って行くと、列車が通る橋の下に薪のオーブンがある。煙が出ていたら面白いカットなると思ったけど列車の通過予定の時間が迫っている。マダムに聞いたら今日は日曜日だからパンでも焼いて遅い朝食にするつもりなんだとか。え、そうなの!?だったらすぐはじめませんか!!そんなやり取りをして釜に火を入れてもらっていると、他の家族の皆さんもゾロゾロ起き出して来た。1歳になるお孫さんもいる。おはようございます!せっかくだから皆さんもオーブンの前に集まってください!とかなんとかバタバタやっているうちに芋虫列車がボボボボボと響かせながら橋の上を走りすぎて行った。今の、カメラ回ってたよね?
そういえば、こんなふうに普通の家族の姿をカメラに収められたのはコルシカ島に来てはじめてだった。期せずして島の素顔をもうひとつ撮り足すことができた。
ディレクター 伊藤 正憲
芋虫のようなコルシカの列車
山間部を抜ける列車