スマデータ投票
モバイルサイト
メールマガジン
ケイジバン
番組へのご意見
最新号のTOP


Smaクリニックがスタートして以来、視聴者から700通を超える医療事故・医療ミスの体験メールが寄せられました。
年間およそ2万6000人と言われる医療事故による死亡者。この数は交通事故による死亡者の3倍に相当します。
そこで、今回のSmaクリニックは「もし医療事故が起こったら…」と題し、医療事故に遭遇した時の対処法を考えていきます。
医療ミスに関する相談はこちら・・・
患者の権利オンブズマン(福岡)
  092−643−7577
午後1時〜3時・毎週(火)・(水)のみ。
(月)(水)(金)は予約制の面談を行なっているとのこと。
・ホームページはこちら
 http://www.patient-rights.or.jp/

医療事故市民オンブズマン・メディオ(東京)
  ・ホームページはこちら
03−5358−2255
(月・水・金 午後1時〜5時)
 http://www.hypertown.ne.jp/medio/

医療事故情報センター(名古屋)
  052−951−1731
(月)〜(金) 午前9時30分〜午後4時30分
・ホームページはこちら
 http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/

陣痛促進剤による被害を考える会(愛媛)
  代表:出元 明美 (でもと あけみ)
0898−34−3140(携帯:090−7126−4141)
・ホームページはこちら
 http://homepage1.nifty.com/hkr/higai/hyousi.htm
 静岡県の産婦人科医院で、生まれたばかりの赤ちゃんが3時間後に心肺機能不全で死亡しました。が、ここには数々の腑に落ちない点がありました。まず出産の際に、分娩室が吐く息が白くなるほど、温度が低かったこと。そして、赤ちゃんの容態が悪化したにもかかわらず、院長がすぐに総合病院に搬送しようとしなかったこと。そこで、病院側のミスを疑った両親がスタッフに「カルテや資料を見せてほしい」と頼んだところ、スタッフは拒否したのです。結局、退院するまで病院側から出産に関する記録を見せてもらうことはありませんでした。退院後、ようやく両親のもとにカルテのコピーが届きましたが、実はこのカルテは改ざん済みのもの。つまり、書き換えられていたのです。赤ちゃんが苦しんで「うめき声を出していた」という記録が書き換えられ、容態が比較的良好であったように記されていたり、保育器の中の酸素量が不足気味だったのが、酸素は十分足りていたように直されていました。では、このカルテ改ざんはなぜ発覚したのでしょうか。実は、最初に「カルテが見たい」と言って拒否された時、不審に思った両親がスタッフの目を盗んで、カメラでカルテの写真を撮っておいたのです。その写真の内容と、改ざん後のカルテが明らかに違っていたことで、医院のミス隠ぺいが明らかになりました。
 ミスがバレてしまうことを恐れるあまり、自分勝手な医師たちが最大の証拠となるカルテを改ざんしてしまう――これは、しばしば起こっていることです。2人の逮捕者を出した東京女子医大の事件も、まさしくそのケース。12歳の少女の心臓手術中、停止している心臓の代わりに血液を循環させる人工心肺装置にトラブルが発生。医師たちがこれに対応できず、少女は脳に障害を負い、3日後に死亡しました。手術後、少女の顔は異常なまでにむくんでおり、この異変に疑問を感じた家族が担当医に説明を求めましたが、彼は「原因はわかりません」と繰り返すばかり。そしてミスの発覚を恐れたのか、担当医はカルテの改ざんに動き出しました。少女が亡くなる前日、脳の障害がないように見せかけようと、担当医が看護師長に「記録を全部書き換えて欲しい」と頼んだのです。看護師長はこれに従い一部を改ざんするが、それ以上の書き換えを拒否。しかたなく、担当医自ら13カ所にわたって改ざんを加えました。その後、担当医の上司である主任教授から「カルテを持って来い」という指示があったので、書き換えられたカルテを見せたところ、教授はそれを黙認。なんと病院ぐるみでミスの隠ぺい工作が行われたのです。
 つまり、自分や家族が医療事故に遭った時に病院を責めると、慌ててカルテを改ざんされてしまいかねないのです。
 しかも今の日本には、厳密に言うと、カルテ改ざんを裁く法律はありません。東京女子医大の改ざんは『証拠隠滅』の罪に問われましたが、ある意味これは特例。さらにもうひとつ大きな問題は、日本では病院にカルテ開示の義務がないということ。つまり患者さんが希望しても、病院が「見せません」と言えば、それが通ってしまうんです。
 一方、アメリカの病院では医療事故が起こると、あるスタッフが動き始めます。そのスタッフとは『リスクマネージャー(危機管理スタッフ)』。リスクマネージャーとは、病院の危機管理や医療事故の調査を行うスタッフで、アメリカの大病院には必ず何人かが常駐しています。1995年、マーティン・メモリアル医療センターで起こった悲劇に対し、誠意を貫き通したリスクマネージャー、ドニー・ハースの例を紹介しましょう。7歳の少年ベン・コルブ君は、耳鼻科の手術でできたアザを取り除くため、簡単な手術を受けることになりました。が、耳鼻科医が麻酔の注射をした直後に、ベン君の心拍数と血圧が突然上昇。原因不明のまま、容態は悪化し続けました。医師たちは手術を中止して、必死の蘇生措置を行いましたが、ベン君の意識は戻らず、24時間後に息を引き取りました。事故の報告を受けたドニーは動き出しました。彼はまず医師から状況の説明を受け、注射器など証拠となるものを押さえました。そう、リスクマネージャーは、自分が務める病院で何らかの事故が起こった場合、その内部調査を徹底的に行い、真相を究明するのが使命なのです。ドニーはこうした調査に加え、ベン少年の遺族を精神的にサポートするようにも努めました。彼女は遺族に会い、「全力を上げて、息子さんが亡くなった原因を突き止める」と約束をしたのです。彼女は調査を進める過程で、スタッフの手順が前後すると、薬品の取り違えが起こる可能性があることに気付きました。そして数日後、少年に打たれた注射器に別の注射用の薬品が入っていたという検査結果が出たのです。これにより、少年の死が病院のミスによるものであることが証明されました。ドニーは手術に立ち会った麻酔科医とともに遺族のもとを訪れ、医療ミスのすべてを打ち明け、病院を代表して心から謝罪しました。彼らの誠意ある対応に家族は納得、その日の内に両者の間に和解が成立したのです。そして、ドニーらは「二度と悲劇を起こさないために、全力を尽くす」ことを誓いました。
 何よりも大切なのは、悲劇を繰り返さないこと。ミスを隠蔽してしまうと、必ずまた同じことが起こります。でも、ミスを明らかにして深い反省が行われていれば、事故の再発を防止することができるのです。実際にこの事件後、マーチン・メモリアル医療センターでは、薬品の運ぶ手順やスタンバイのやり方を改善して、薬のとり違えを予防しています。このように『ミスから学ぶ』という姿勢が大切なのです。
 では、『ミスから学ぶ』意識がまだまだ定着していない日本で、もしあなた自身や家族が医療事故に遭い、病院の対応が不誠実な場合には、まず何をしたらいいのでしょうか。
 この場合、被害者や家族は病院と戦わなければなりません。そのためには病院のミスや過失を証明する必要があり、何よりまずカルテや検査結果など、証拠となるものを押さえる必要があります。でもそうした知識をもたない人たちはどうすればいいのでしょう? まずはプロに相談して下さい。現在、日本各地に医療事故の被害者を支援・救済するさまざまな団体があり、電話やメールで相談を受け付けています。事故に遭ったらまず、こうした団体になるべく早く連絡を取り、状況を詳しく説明。すると病院からカルテを入手したり、時には遺体を解剖したり、その状況下で最初に取るべき対処法を教えてくれます。ただカルテを押さえる行為は、裁判所への申請など手続きも大変。そこで、そうした手続きを代わりにやってくれる、医療事故に詳しい弁護士さんを紹介してくれるのです。病院と一戦を交える限り、訴訟に発展する可能性もあります。でも、明らかに相手に非があると確信するなら、決して泣き寝入りはしないで下さい。また、日本の病院の中にも患者さんの利益を第一に考え、カルテの開示や事故対応に熱心に取り組んでいるところもたくさんあります。患者側も病院選びの段階で、こうした『カルテは患者のもの』、『ミスから学ぶ』という意識をもった病院をチョイスすべきです。
 医療とは患者のためにあるもの。だからこそ、情報公開やリスク管理は、これからの日本の病院にとって「常識」となっていく必要があるのです。
 医療事故は誰にでも起こる可能性があります。国立保健医療科学院部長の長谷川敏彦氏は「年に2万6千人は医療事故で亡くなっている」と推定しました。もしかしたら、皆さんが考える以上に高い確率で、医療事故は起こっているのです。では、このような事故に遭わないように必要なこととは? それは、患者さんがとにかく賢くなること。どんなに優れた医療でも100%安全な医療はありません。医療を受けるときに、患者さん自身も治療や手術に伴う危険性と安全性を、正確に確認することが大切なのです。そのためには、治療に関する様々な問題や危険性を含む情報を、積極的に公開してくれる病院や医師を選んで下さい。例えば、検査や手術の前にビデオを見せたり、患者さんにも理解できるように分かりやすい文書を渡す病院があります。こんな病院であれば、患者さんは自らの治療や検査等の詳細を知ることが出来ます。また、そんな時に大切なのは危険性を含む可能性についても十分な説明があることです。その上で、納得できる方法を選ぶことができるわけです。病院と患者さんが正しい情報を共有すること――これが、可能な限り最も安全な治療や手術を受ける第一歩です。患者さんもお任せ医療から脱却し、よりよい治療と安全は医療者と一緒に作り出すものだということをしっかり認識してください。
(写真家/医療ジャーナリスト 伊藤隼也氏・談)
Copyright(C)2002
TV-ASAHI
All Rights Reserved.