宮嶋泰子 スポーツ古今東西

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ボイスサンプル
身長
156cm
出身地
富山県高岡市生まれ鎌倉市育ち
出身校
神奈川県立外語短期大学付属高等学校→
早稲田大学第一文学部フランス文学科
入社年月日
1977年4月1日
星座
山羊座

2014/7/23    進化し続ける室伏広治 ロンドンからリオ、さらに東京へ

7月16日水曜日、びっくり仰天の記者会見がありました!
ハンマー投げの室伏広治選手と言えば先日の日本選手権で前人未到の20連勝を成し遂げ、2020東京オリ・パラ組織員会の理事等を務めながら、2020年の東京も現役選手として狙っていると言われていましたが、どうやらそれが実現しそうな発表でした。

御茶ノ水にある国立大学法人東京医科歯科大学に今年10月「スポーツサイエンス機構」が設置されますが、そのセンター長として室伏さんが特任教授として招聘されることが発表されたのです。室伏選手はこんなことを言っていました。「自分が持っているスポーツ科学と東京医科歯科大学が持っているスポーツ医歯学をミックスして、現在活躍しているベテラン選手の力をさらに高め持続させるようなシステムを構築していきたい」「今行われているトレーニングは20代の選手を対象に作られているような気がするので、30代、40代向けのトレーニング方法も開発していきたい。」「現在二番手にいるような選手たちに、新たな方法を提示することで、トップの仲間入りができメダルが狙える可能性もあると思う」などなど、常々考えてきたプランが披露されました。

これまで中京大学の准教授とアスリートを両立してきた室伏さんですが、組織委員会の仕事などで忙しくなることもあり、拠点を中京大学があった愛知県の豊田から東京に移すことが一つの大きな転換点になったようです。これから2020年を目指して、スポーツ医歯科学とスポーツ科学を融合した国内初の拠点大学となる東京医科歯科大学での記者会見を見ながら、東京オリンピックまであと5年という緊迫感をひしひしと感じてしまいました。室伏さん、キャリアも前人未到の域に入ってきました!

そういえば、室伏さんのロンドン五輪に向けたトレーニングも実に斬新、当時の最先端のものを取り入れていました。このウェブでまだお伝えしていなかったことを思い出しました。それでは2012年7月の報道ステーション・プレイバックとまいりましょう。

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2011年8月29日、韓国テグで行われた世界陸上。
室伏広治選手は36歳で、大会史上男子最年長優勝を飾りました
一体なぜこの快挙を成し遂げることが出来たのでしょうか。

そこには驚くべき意識改革と、肉体改造がありました。

アメリカ西海岸、サンノゼ。
室伏さんは、37歳で迎える4度目のオリンピック、ロンドン大会への準備を、この町で行っていました。

宮嶋:「4年ごとの練習っていうのは?」
室伏:「ずいぶん違うと思います。今回の4年というのは、身体の部分に興味が移っていってると思います。若い時と同じような体の使い方では成績は残せないこともありまして。」

室伏さんのウォーミングアップは実に奇妙です。硬いボールをぎゅうぎゅうと筋肉に押し付けるようにして筋肉をほぐしたり、よつんばいになって、片足を上げるなど、他ではほとんど見ることのない奇妙なトレーニングが続きます。

室伏:「今行っているのは最先端の取り組みだと思います。これやっぱり、脳にどういう風に体が動くかと言うのを覚えさせるんですね。」

米国、アリゾナ州フェニックス。

宮嶋:「室伏選手のトレーニング方法をがらりと変えるきっかけを作ったのが、ここアスリーツパフォーマンスです。」

「アスリートパフォーマンス」はプロフットボールやメジャーリーグの選手をはじめとし、世界中からトッププロが新しいトレーニング方法を求めてやってくる民間のトレーニング施設です。室伏選手はここに2009年2月に初めて脚を踏み入れました。

「アスリートパフォーマンス」ではスポーツを3つの段階に分けて考えています。

それぞれのスポーツの技術 スキル。Skill
それを支える筋力、柔軟性など、パフォーマンス。Performance
そして、最も基本となるのが、動作、ムーブメントです。Movement
きちんとした動き方Movementがスポーツの基本になるという考え方です。

ムーブメントは、人間が生まれながらに備えている赤ちゃんの動きを基本にしています。
さすがの室伏選手もこうした考え方に接したのは初めてでした。

衝撃を受けた室伏選手は、次々に文献に当たり、さらには、この理論の提唱者であるチェコの神経科医コーラ博士から直接教えを請うために、単身プラハにまで渡ったのです。

プラハで学んだ、赤ちゃんの動きのトレーニング、
リハビリにも使われているその理論を室伏さん自身が解説してくれました。
キーワードは腹圧・コアです。

室伏:「赤ちゃんの姿勢って筋力が無いのに、なんでまっすぐ立てるかと言うと、腹圧があるからなんです。腹圧とは、背中、おなか、骨盤底筋群、横隔膜と四方からがちっと押し合っている状態を言うんです。」

赤ちゃんは、おなか中のコアの部分がしっかりしているために、筋力が弱くても手足だけでするすると動いていきます。効率のよい動きなのです。

これは赤ちゃんがおもちゃを取る動作です。

赤ちゃんのように、おなかの中のコアの部分を固定させて、手足だけを伸ばします。
大人の骨格になる過程で自然と失われる機能を、再び呼び戻し、その動きを脳に覚えこませるのですから、簡単ではありません。

室伏:「今まで使っていないような筋肉を呼び起こしていくような作業が多いですよね。」

赤ちゃんの動きが出来るかどうかをチェックするなかで、なんと、室伏選手の意外な弱点が明らかになってきたのです。

3年前、室伏選手の動きのチェックをした理学療法士の日系三世 ロバート・オオハシさんが説明してくれました。

熊のポジションで脚を動かすときに、その弱点は見つかりました。

ロバート:「右足で支えて、左足を上げると、あっちょっと腰が回りますね。」

左脚で支えているときは、腰はほとんど動きませんが、右脚で支えるときは、腰が回ってしまいます。室伏選手は左と右で、脚の使い方が異なることがわかったのです。

理学療法士によって動きの癖や弱点が見つけ出された後、室伏選手の指導はパフォーマンスコーチにゆだねられました。担当になったのは、咲花正弥さんです。

咲花:「左右のバランスが悪いと言うのは怪我をしやすい体なんです。」
宮嶋:「室伏さんの場合には具体的にどこがどうだったんでしょう。」
咲花:「右のでん筋が弱かったと言うのが、明らかな彼の欠点というか弱点でしたね。」

ハンマー投げは左足を中心にした回転運動です。これを繰り返すうちに、左と右のお尻の筋力のバランスが崩れてきたのです。

26歳の世界陸上銀メダルから29歳のアテネオリンピック金メダルまで破竹の勢いだった室伏選手が、30歳を境に、腰痛などの故障に見舞われ続けた理由のひとつがここにあったのです。

 

2000 25歳 シドニー五輪9位、
2001 26歳 エドモントン世界陸上  銀メダル
2002 27歳 パリ世界陸上      銅メダル
2004 29歳 アテネ五輪       金メダル、

2005 30歳 世界選手権ヘルシンキ    欠場
2006 32歳 アジア大会ドーハ      欠場
2007 32歳 世界選手権大阪       6位
2008 33歳 北京五輪          5位
2009 34歳 世界選手権ベルリン     欠場

右のお尻の使い方を変え、左右のアンバランスを矯正するために、この3年間、こうした奇妙なトレーニングを地道に続けてきました。

ムーブメント、パフォーマンスの次に来るのがSkill, ハンマー投げの技術です。
技術をチェックしてくれるのは、スウェーデン出身のトーレ・グスタフソンコーチです。

腹圧を意識して鍛えてきた結果、投げ方もずいぶんと変わってきました。

若い頃はパワーにまかせ、背筋を使って、のけぞりながら投げるフォームでした。
<T:1999年スーパー陸上>

今は、胴体のコアがしっかりし、右のお尻の筋肉も機能してきたことで、地面をけった力が、効率よくハンマーに伝えられるようになってきたのです。

そして、もうひとつ、ロンドンに向けての秘策がありました。

室伏:「北京(五輪)は疲労が抜けていない感じでしたね。ハンマー投げは投げる瞬間に350キロ以上の力が身体にかかりますから、それを毎回毎日毎日投げていると、やはり疲労はたまってきます。それをどうやって除くかと言うのが重要なことですよね。」

37歳、いかに疲労を回復するかが大きなテーマです。
練習後に必ず向かうのはトーレコーチのオフィスです

宮嶋:「失礼します。ありがとうございます。これから何をなさるんでしょう。」
室伏:「これからストレッチング」。

カイロプラクティックのトレーナでもあるトーレさんが渾身の力で肩甲骨の下に指をいれて、ほぐしていきます。

そして・・・・
裸になった室伏さんの背中をみてびっくり。

カッピングと呼ばれる、皮膚をガラス玉に吸着させることで血行をよくしていく古来からの治療法を行っていたのです。

さらにこの後、とんでもない荒療治が待ち受けていました。

トーレさんは大きなボンベの口に棒を突っ込んでかき回しています。ボンベの口からはもわもわと気体が立ち上っています。
トーレ:「これは液体窒素です。ほら、棒のまわりが凍っているでしょう」
宮嶋:「わあ・・冷たい!」

液体窒素を使うクライオセラピーという療法です。

マシーンの中の温度がどんどん下がり、マイナス90度になったところで、室伏さんが入ります。

マイナス120度を越しても平然としている室伏選手。
このクライオセラピーでは、皮膚の表面だけがつめたくなり、筋肉は冷やされないそうです。
なんとマイナス160度まで下がります。

3分間、冷凍庫に入って、平然と出てきました。

トーレさんがこの療法を説明してくれました。
トーレ:「皮膚が冷たさを察知すると、死なないように血液が内臓の中心部に集まっていきます。脳がパニックになったときの反応ですね。3分後、外に出たときには、血液は皮膚や筋肉などすべての血管に一気に戻っていきます。血液が流れることで老廃物が消失し、乳酸も分解され、細胞もよみがえります。ねえ、ちょっとクレージーでしょう?」

いったい本人はどんなふうに感じているのでしょうか。

宮嶋:「マイナス160度はどんな感じですか?」
室伏:「いやあ、終わってから気持ちいいですね。一気に血流が良くなるので、すごく軽くなる感じがします。」

今シーズン最初の試合は、日本に戻って参加した6月8日の日本選手権でした。

理学療法士のオオハシさん、そしてトーレコーチも一緒です。

あいにくの雨模様でしたが、オリンピック本番をイメージしながらじっくりウォーミングアップ。

雨のときにどう対処するかは重要なポイントです
室伏さんは、初めて出場したシドニーオリンピックで雨の過ごし方を間違え、苦い経験をしたことがあります。
サークルのチェック、靴の選び方、自分のコンディションの保ち方。すべてがロンドンに向けてのリハーサルです。

すべるサークルの中で、1投目、
2投目 と徐々に感触をつかみ、距離を伸ばしていきます。
3投目で 72m85をマーク。

 
このあと、激しい雨に、残り3投をパス。
それでもこの日本選手権余裕の18連勝。
19歳のときから負けなしの快記録達成です。

トーレ:「雨が降りすぎていて、オリンピックの前ですから危険回避する必要がありました。」

ロバート:「今日はじっくりウォーミングもして、いい状態をつくれました。」

室伏:「支えがあって今この年齢まで出来ていますから、こうしてチャレンジできることがうれしく思います。」

この3年半、理学療法士やパフォーマンスコーチ、さらには技術コーチとともに、互いに情報を交換し合いながら、ひとつの目標に向けてまい進してきた室伏広治さん。

ロンドンオリンピックでの室伏さんのテーマは何なのでしょう。

「チームワークでしょうね。今回はね!この年になってオリンピックにまたチャレンジできるなんて、とっても幸せですね。」

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編集後記
トップアスリートの競技年齢が伸びている現在、オリンピックを一つの区切りに、4年ごとに自分の身体の声を聴きながら練習方法を変えていくことは今や当たり前になってきたようです。その最先端を走り続け、年齢に応じたトレーニング方法を模索していく室伏さん。今から2年前、ロンドンオリンピックに向けたこの取材をした時でさえ、赤ちゃんのコアを意識した斬新なトレーニング方法に圧倒されたことを覚えています。さらに今、2014年東京医科歯科大学で新たな医歯学の研究と自らのトレーニング科学を合体させようとしているのです。2020年まで本当に目が離せなくなってきました。

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