世界の車窓から

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オーストラリア編 撮影日記

シドニー中央駅で出発を待つXPT
旅は一期一会で
今回のオーストラリアの車窓に通底するテーマとして、知られざる歴史を取り上げていきたい、ということを前回の取材日記に書いた。表のテーマは「歴史」で決定だが、今回は裏のテーマを披露させていただきたい。
実は、オーストラリアの車窓を担当するのはこれがはじめてだ。ロケ出発の前に、以前放送したオーストラリアの車窓に目を通したのだが、ちょっと手ごわいかもしれない、簡単じゃないなという印象を持った。行き先が、日本ではまだ馴染みが薄いところであるとか、日本とは大きく異なった文化や習慣を持っているとか、あるいは、ラテン系とでも言うのか陽気でノリが良かったりするとまとめやすいのだが、オーストラリアはそのどれにも当てはまらない。しかもこれまで、オーストラリアの車窓は5回もやっているという。
どうしたら、独自色を出して面白くすることができるのか、ちょっとモヤモヤした気分で飛行機に乗った。
シドニーからブリスベンへ、実際に列車に乗って撮影をはじめると、やはりである。まずは、列車の窓が開かない。ま、これは高速列車だから仕方がない。今回は運転席の取材NG。近年は安全のため難しくなっているという。風景はどこまで行っても牧場。広大ではあるが、単調だ。車内はどうかというと、乗客が極めて少ない。幹線でも空席が目立つ。日本だったら大赤字だろう。一番困ったのは、撮影NGの人が少なからずいること。客席でカメラを回すことがためらわれるような雰囲気も漂う。でも、こういう逆風の場こそが海外取材の醍醐味、と解釈するくらいの気持ちの用意はしていた。さらに今回は、これまでの取材法を改めることにした。一人ひとり撮影OKの確認を取った上で、こちらから積極的に話しかけ、その人とコミュニケーションを取ることにした。ただ単に座っているところを撮影しても面白くない。会話の内容は、どこに何しに行くの、など他愛のないものだが、それによって、取材班と乗客とが、ささやかではあるが互いに気持ちを通じ合い、列車で旅する者同士の一期一会感を表現できないだろうか、と思ったからである。従って今回は、取材班と人々との会話シーンが時々登場するのであった。
ディレクター 浦野 俊実
夕暮れ時の静かな車内
ワーキングホリデーでデンマークから来た青年