長野・中川村
~めんそーれ!信州の沖縄そば~

去年の秋、故郷・沖縄県のソウルフード、ソーキそばの店『沖繩茶屋 仲谷』を開いた新城鐘大さん(51歳)と、パートナーの外間紀子さん(51歳)が主人公です。なんとお店があるのは、ビーチもトロピカルな花々も無い、中央アルプスを望む信州の山あい中川村。そしてお店がある建物は、築200年は経つとされる、地元で知られた立派な古民家で、村に突如として現れた沖縄空間に村人たちはみな驚き、喜んでいます。
沖縄県出身の鐘大さんは、社会人になると転勤で東京へ。「起業したい」という夢があり転職、製造業や販売業など様々な業種に挑戦しました。そして31歳の時、ついに沖縄でスムージーを製造販売する会社を起業します。一方、地元で保育士をしていた紀子さん。転職しようと履歴書を出したのが鐘大さんの会社でした。“誕生日が全く同じ”ということに運命を感じた鐘大さんは「一緒にお仕事をしなさい」とお告げが来たような気持ちになり紀子さんを採用。頑張り屋さんでいつも朗らかな紀子さんは、職場を明るくしてくれる存在でした。その魅力に、いつのまにか癒されるようになった鐘大さん。その後、公私ともにパートナーになった2人は、共に農業にも興味があり、自社農園の野菜や果物で作るスムージーは大人気となりました。しかし、4年前のコロナ禍で事態は一変。客足が激減し、会社が危機的状況に陥ったのです。そこで2人は「沖縄を飛び出しどこか田舎で暮らしたい」と考え、全国各地から移住地を探すことに。偶然、地域おこし協力隊員を募集していた長野県の中川村を知ったのです。“農業の村”という部分に魅かれ、2年前、思い切って移住。村の臨時職員として採用され、田んぼの管理や農作物の加工の仕事をすることになりました。その時、
住まいとして紹介されたのが、空き家となっていた古民家。「ここに住みたい」「どうすれば家を活かせるのか?」と考えた2人は古民家で暮らすうち、店を始めることを決意。昨年、村の仕事を辞め“故郷・沖縄をテーマにした店”を始めることに。お向かいに住む大工の宮下明芳さんと厨房を改装し、11月に『沖繩茶屋 仲谷』をオープンしました。“仲谷”とは、古民家に昔から伝わる屋号で、家に敬意を表して店名としました。店はいつも、地元のお客さんでにぎわい、鐘大さんが研究を重ね作り出したソーキそばを皆が絶賛。「こんな山の中で沖縄料理が食べられるなんて!」と喜び、信州の村には沖縄の風が吹き抜けています。そんな人々の集いの場を作り出したお2人。地域の人々に歓迎され、きっと歴史あるこの家も喜んでくれていることでしょう。



『沖繩茶屋 仲谷』の看板メニューである「炙り軟骨ソーキそば」。豚骨や昆布・カツオ・イワシ・サバ節からとるダシのうまみが凝縮された黄金色のスープが、沖縄から取り寄せたモチモチの麺に絡みます。さらに、鐘大さんが2日かけて仕込む軟骨ソーキは骨までプルプル、トロットロ。お箸でほろほろと崩れる柔らかさです。お客さん方は、「最後の一滴までスープを飲み干してしまう」「お肉が柔らかくて美味しい」「定期的に食べたくなる味」と大絶賛。中には一度も沖縄に行ったことが無いというお客さんも多く、「ここで初めて沖縄そばを食べた!」という方は「こういうのが沖縄そばなんだ、美味しい」と目を輝かせていました。お2人の中川村の友人・石川さんご夫婦曰く「ここは中川村のリトル沖縄」だそうで、お2人が信州の地に吹き込んだ沖縄の風が、訪れる人々皆を笑顔にしています。



お向かいに住む宮下明芳さん、久子さんご夫婦は、鐘大さんと紀子さんの心強い味方。移住したばかりの頃、宮下さん夫婦は沖縄からやってきた鐘大さんと紀子さんを心配し、色々サポートしてくれました。大工である明芳さんは、『沖繩茶屋 仲谷』をオープンするにあたり、厨房の改装を手伝ってくれました。実は鐘大さんと紀子さんが住む前から長年、仲谷の家を管理してきた明芳さん。向かいに『沖繩茶屋』が出来たことを「俺は家が近くだからたくさん来られる」と大喜びです。さらに、妻の久子さんは毎日玄関先に自家製野菜を届けてくれます。この日もゴーヤやナスなどたくさんの夏野菜が玄関を守るシーサーの前に置かれていました。宮下さん夫婦を「中川村のお父さん・お母さん。隣にいるというだけですごく安心。」というお2人。古民家がつないでくれた宮下さんご夫婦とのご縁に感謝し、これからも大切にしていこうと誓う鐘大さんと紀子さんです。



お2人の朝はいつも、1歳の愛犬・カリィとの散歩から始まります。“カリィ”とは、沖縄の方言で「めでたい・喜ばしい」という意味。おめでたい席では「カリィ~」と言いながら乾杯するそうで、なんとも素敵な名前です。でかけるとまずは、お向かいの宮下さんに挨拶をし、集落をゆっくり一周します。この日、たどり着いたのは、お2人が大好きな場所「飯沼の棚田」。村を代表する景勝地です。「中川村には、のどかさや人の温かさがあり、じんわりとくる幸せや喜びを感じることができる」と話す鐘大さん。沖縄のエメラルドグリーンの海も素晴らしいですが、棚田の美しい緑も大好きだと言います。そんな風景を眺め、鳥や虫たちの声を聴きながら、いま改めて中川村に住む喜びを噛みしめているというお2人です。



築200年以上経つという“仲谷”の家。中川村では有名な古民家で、かつては大きな庄屋だったそうです。家主の塩澤さんに頼まれ、長年建物を管理してきたお向かいの大工・宮下明芳さんは「材料の大きさや梁組みなど、建築の技術がすごい」と先人の技に関心します。釘を使わずに組まれた木材が、長年この家を支えてきました。さらに、室内には長持や御駕籠(おかご)など、江戸時代から続く仲谷の家の歴史を感じるものも。これらは、家の裏にある蔵から出てきたもので、鐘大さんと紀子さんはそういった物にも光を当てたいと店内にお洒落に飾っています。そんな様々な魅力が詰まった仲谷の家の中で、2人が最もお気に入りなのが奥の部屋から見える庭園の景色。そして、この風景を自分達だけでなくもっと多くの人に楽しんでほしいと、「宿を始める」という新たな夢を抱きました。
お2人の挑戦は中川村に、さらに新しい風を吹かせることでしょう!




沖繩茶屋 仲谷
鐘大さんと紀子さんの営む沖縄そばの店。看板メニューである炙り軟骨ソーキそばはもちろん、沖縄風炊き込みご飯「じゅうしい」や、かき氷の中に甘く煮た豆やお餅が入った「沖縄ぜんざい」を楽しむことができます。
2人だけで営み数量限定のため、売り切れの際はご了承下さい。
営業時間 午前11時~午後4時
定休日 月・火曜日
炙り軟骨ソーキそば 大:1,080円 中:980円
炙り軟骨ソーキそばとじゅうしいセット 大:1,300円 中:1,200円
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