これまでの放送

  • 年別にみる
  • 地域別にみる
2024年8月10日葉月の弐

福島・会津坂下町
~夏にうめぇ!伝統キュウリ~

今回の舞台は、福島県河沼郡会津坂下町。この地にUターンし、農家として会津の伝統野菜を中心に育てる豊川智美さん(50歳)と夫の庸平さん(47歳)が主人公です。最も力を入れているのが「会津余蒔胡瓜」の栽培。皮が柔らかく旨味がある品種で、かつて会津地方で盛んに栽培された在来種でしたが、育てやすい新種のキュウリが普及し昭和20年代に姿を消してしまいました。そこで16年前に福島県が研究・保存機関から種を分けてもらい会津の伝統野菜として復活。「会津余蒔胡瓜」としました。
埼玉県生まれの智美さんは、3歳から会津坂下町で育ちました。「映画の世界に入りたい」と22歳で渡米、ロサンゼルスの学校で学び現地テレビ会社の映像編集の仕事に就きます。29歳で帰国後も、東京の映像やゲーム会社などエンターテイメントの世界でバリバリ働きました。30代に子宮筋腫の手術をした際、肉腫の疑いがあったことから将来に不安を覚え「子どもや家族が欲しい」と強く思うようになったそうです。幸い療養の末元気になり、忙しい暮らしにピリオドを打って、都内の酒専門店でアルバイトを始めます。そこで出会ったのが、仙台出身の庸平さんでした。2人はすぐにお付き合いを始め、結婚。長男の芽吹くんが誕生すると、故郷・会津の風景を思い出すようになった智美さんは「自然の中で子供を育てたい」と願うようになり、庸平さんを説得して一家3人で東京から会津へUターン。農業で生計を立てようと決め、庸平さんが農家での研修を開始します。その時、会津余蒔胡瓜など伝統野菜に出会い、2018年に独立して『リオリコ農園』を始めました。
会津の伝統野菜は20種類ほどあるとされ、豊川さんご夫婦は会津余蒔胡瓜を始め13種類を育てています。お2人は、歴史があり江戸時代からの物語を背負う伝統野菜に魅かれ、これらの「種を継いで次世代へ繋ぐ」ことを農業のテーマとしています。また、研究熱心な庸平さんは江戸時代に書かれた「会津農書」という農作業指示書を栽培法に取り入れ実践。これが現代の農業でも通用する部分が多く、庸平さん自身も試す中で様々な発見があるそう。豪快で社交的な智美さんは農作業の傍ら、契約したお客さんに野菜を届けるなど外回りの仕事もこなします。自宅では、中学1年生の長男・芽吹くんの子育てに追われる日々。実は庸平さんには昔から「その土地の食材を使った飲食店をやりたい」という夢があり、ご夫婦は去年から意外なアイデアでその夢を叶え始めています。
夫婦漫才のようなやりとりでユニークな農業をする2人の姿、「おかずが野菜ばっかり」とぼやきつつも両親を見守る長男・芽吹くん。これからも『リオリコ農園』の野菜を愛してくれる地域の皆さんと共に、会津伝統野菜を広め次世代につなげていって下さいね!

『リオリコ農園』自慢の「会津余蒔胡瓜」は、一般的に知られているキュウリとは見た目も味も違う、会津地方の在来種。ご夫婦曰く「薄緑の白っぽい皮はとても柔らかくて、独特の青臭さがなく舌触りがなめらか、さらに甘味が強く旨味がある」とのこと。そんなに美味しいキュウリなのに、なぜ昭和20年代に栽培が途絶えてしまったのかというと…。一本のキュウリの苗から採れる実の数量がとても少ないからだそう。それでも豊川さんご夫婦は、古来からこの種を受け継いで来た先人たちの思いや希少さ、歴史の深さに感動し、種を採り栽培を続けるのです。そして、次の世代にバトンを渡したいと願っているんです。
ある日、庸平さんは地元の小学校の教壇に立っていました。実は地元の小学校からの依頼で、臨時講師として会津伝統野菜をテーマにした授業を行っているんです。現在小学6年生の子どもたちが伝統野菜に強い興味を示したため、今では栽培されなくなった「会津葉込(はごめ)胡瓜」の種を研究・保存機関から取り寄せて種を植えました。
子どもたちと一緒になって、貴重な実が採れる日をワクワクしながら待っている庸平さんです。

勉強熱心で、これと決めたら努力や研究を怠らない庸平さん。いつも大事な時に携えているのが「会津農書」という江戸時代に書かれた書物です。会津の村役人によって記されたこの書には、キュウリはもちろん、ナスや芋、豆類などこの地方に合った様々な野菜の栽培法が細かく紹介され、効果的な土づくりの方法にも言及しています。例えば、「焼酎糟を土に入れなさい」という一節があり…。早速それを実践してみようと考えた庸平さん。現在会津では、焼酎粕は手に入りにくいため、かつてお世話になったことがある喜多方市の老舗酒蔵『笹正宗酒造』を訪ね、大量の酒粕を譲っていただきました。焼酎粕の代わりにこれを畑にまき、クワで丁寧に耕し土にすきこみます。大変な手間ですが、「土がよくなる。明らかに向上した」と言う庸平さん。
こうした方法を書き残してくれた、先人の知恵に感謝ですね!

この日、智美さんは「会津余蒔胡瓜」や「福光赤筋にんにく」など収穫した野菜を計量して袋詰めし、契約しているお客様の元に配達です。お隣の会津若松市で、野菜が届くのを心待ちにしているのが熊島さん親子。母の幸代さんは「このきゅうりを食べたら他のものが食べられない」と言い、娘の千鶴ちゃんは会津余蒔胡瓜が大好物だそうで、配達したとたんに新鮮キュウリをポリポリ!また、80代の前川さんは元々キュウリが苦手だったのに会津余蒔胡瓜だけは美味しくて毎年出来るのを楽しみにしているそうです。さらに訪ねたのは、智美さんの中学の同級生「えっちゃん」こと佐藤悦子さんが営む、ベジタリアンのカフェ『ベジマヒ』。野菜たっぷりのランチが人気で、季節ごとに色々な『リオリコ農園』の野菜を使ってくれています。えっちゃんは「最初は自分も会津伝統野菜を知らなかった」と言い、食べてこそ広く知ってもらえると考え、お店で調理しランチの一品として出してくれています。ありがたい友情です!

夕方。ご自宅の台所で腕をふるっているのは、庸平さんです。実は庸平さんの長年の夢は、地元で採れたものを使った飲食店を開くこと。いつも野菜のオリジナル料理を作っては研究しているんです。会津余蒔胡瓜に醤油やニンニクを効かせてたたいた「なたづけ」や、たっぷり千切りにした余薪胡瓜をのせた「バンバンジー風・豆乳味噌そうめん」などがテーブルに並びます。そんな食卓を見た長男の芽吹くんは、「キュウリしかない。最初は“ああ夏が来たな”と感じるけど…、とてつもない量が出るんですよ」と思わずぼやきます。それでも「美味しい」としっかり食べてくれました!
そして夏になると庸平さんの夢がかなう瞬間がやってきます。智美さんの友人えっちゃんのお店を夜間に借りて開く、その名もキュウリの英語とバーをかけた『Cucum bar』!お店で出すのは、余蒔胡瓜を薄くスライスしてパンにのせたオープンサンドや、余蒔胡瓜がたっぷり入ったお酒「キュウリモヒート」など。お客さん方には大好評で、思わず感動の涙を流した智美さん。
これからも夫婦仲良く、夢に向かって頑張って下さいね!

楽園通信

リオリコ農園

会津余蒔胡瓜の他、福光赤筋にんにくや会津丸茄子など会津の伝統野菜を独自の方法で栽培、販売しています。

会津余蒔胡瓜を始めとする、会津伝統野菜を手に入れたい方は、『リオリコ農園』SNSをご確認ください。夫婦2人だけで栽培しているので、販売できる数量には限りがあります。

楽園通信

植木屋商店

豊川さんご夫婦も行きつけの会津若松市にある老舗の酒屋さん。福島県内や会津の地酒を多数揃えていることで知られます。

電話番号:0242-22-0215
受付時間:午前9時半~午後7時半
定休日:日曜