世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

スペイン編 撮影日記

広場は観客でごった返す
アラブ人とキリスト教徒の祭り
アルコイ行きの列車に乗り込んだのは夕方5時過ぎ。この時間は、バレンシアから家に帰る乗客が多いローカル路線だ。出発から40分、ハティバという駅を過ぎると、カーブが増え、立っていると転びそうになるほどガタゴト揺れ始める。バレンシア近郊で見えていた畑や人家が徐々に減り、夕日を浴びた里山の中を進んでいく。さらに進むと今度は小高い岩山が現れる。夕焼けの美しさも相まって、変化に富む車窓の風景から目を離せないまま、アルコイに到着。2時間の乗車時間はあっという間に過ぎていった。
アルコイでは、毎年春に「アラブ人とキリスト教徒の祭り」が開かれている。3日間続く祭りの最終日は、‘戦いの日’。13世紀にこの地で起きたアラブ人とキリスト教徒の戦いを住民たちが再現するという。参加する人たちが着る中世の衣装は28種類。伝統に基づくデザインだというが、バリエーション豊かで見ていて面白い。親子代々同じ衣装を着るグループに属し、1年間祭りの準備をすすめる伝統があるそう。みなさん、完成度の高い、きらびやかな衣装姿なのに、男の人たちは耳栓とサングラスをしている。
これは、戦いのシーンで火薬の入った銃を扱うため。1列に並んだ兵士たちが、先頭の人が撃つ1発目を合図に、連続して‘バババババーン’と撃っていく。この銃のパフォーマンスは350年前に始まったもので、当初は、民兵隊が銃の使い方を訓練するために行われたと言われている。今のような、街を練り歩くパフォーマンスになったのは18世紀半ばかららしいが、止むことのない爆音と充満する煙…パフォーマンスにしてはリアル過ぎる。350年前の心意気は根っこの部分にまだ残っているのだろう。これほどの迫力と知らず、耳栓など持っていなかった私は、上着のフードをかぶり全力で防御してみたものの、煙たさで涙が止まらず、慣れるまでしばらく呆然と見ているしかなかった。来年以降、アルコイの祭りの最終日に行かれる方には、耳栓とサングラスを持って行くことをお勧めしたい。
ディレクター 渡部博美
山間の町アルコイ
ローカル線はのんびりとした雰囲気