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黄金の大地をゆく 秋の韓国周遊1300キロの旅 撮影日記

伝統家屋が残る全州の街並み
美食の都・全州
観光列車S-trainに乗車する人の半分くらいが降りた街がある。美食の都と呼ばれる全州(チョンジュ)だ。豊かな穀倉地帯・湖南平野や山々からの清流に恵まれ、食の文化が発展した。それに加え、街には朝鮮王朝時代の立派な伝統家屋が700軒以上も残されている。街を歩き、目を細めると、幸せそうな昔の人々が浮かんでくる気がした。いまこの家屋のほとんどはリノベーションされ、飲食店やお土産屋さんとして利用されている。
そして全州は、日本でもおなじみの料理「ビビンバ」の発祥地として知られる。伝統家屋の中の一軒「古宮スラッカン」というお店が有名だということでお邪魔した。土日は並んでいるというがこの日は平日。それでもほぼ満席だった。すぐにビビンバが提供され、食べてみると、シンプルでおいしい。山菜の味付けはあっさりとしていて、素材がいいことを物語っていた。オーナーさんにポイントをきくと、「彩り豊かに目で楽しめるようにしている」ということだった。店内はどこかウキウキした雰囲気が漂い、テーブルについた人たちは幸せそうな表情を浮かべていた。
美食の都は夜も私たちを楽しませてくれた。全州には独特のお酒文化がある。アルミ製のやかんに入ったマッコリを頼むと、もれなく何十種類ものおつまみが付いてくるのだ。テーブルいっぱいに並べられた料理はまるで竜宮城にでも来たかのよう。「こんなにたくさん食べられるの!?」と驚いたが、チヂミや味噌チゲなど定番から珍味までそろっているので、飽きが来ない。箸を持つ手が止まらなかった。なかでも印象に残っているのが「ホンオフェ」という珍味。エイを発酵させたお刺身で、臭気が強い。食べた瞬間鼻をツンと差すにおいがして、気付いたら涙が流れていた。まさか美食の都で泣くと思わなかった。もしどこかでホンオフェを見たら、きっと全州を思い出すだろう。それくらい記憶と結びついてしまった。
ディレクター 長谷川眞子
全州発祥のビビンバ
手前右がホンオフェ