世界の車窓から

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スペイン編 撮影日記

ぶどう畑の中を走るメディア・ディスタンシア
ラ・マンチャ地方へ
アリカンテから次に目指すのは、ラ・マンチャ地方の街アルカサル・デ・サン・フアン。乗車するのは、メディア・ディスタンシアという名前の地方都市の間を結ぶ列車。アリカンテが始発駅なので、早めに乗車してカメラを準備していると、近くの席の強面のおじさんが何か言ってくる。怒っているのかな?と思いきや、どうやら車窓のどちら側に何が見えてくるかを説明してくれているらしい。用意していた地図資料を見せると、我々の席に座り、スペイン語でいろいろ書き込み始めた。怖い人かと思ってゴメンナサイと心の中で謝罪しつつ、見どころをいろいろ教えてもらった。
列車が進むにつれ、キャンプ道具を持った人が次々乗り込んでくる。聞けば、途中駅のビリャロブレドで野外フェスティバルがあるという。3日間で20万人を動員する人気のロック・フェスらしく、列車の中がカラフルなテントやクーラーボックスで埋め尽くされていく。大きな荷物を持つ若者たちは、まるで遠足に行く子どものようなキラキラした表情で、お目当てのアーティストの話などをしてくれた。到着したビリャロブレドは、ラ・マンチャ地方の平原の中にある街。麦やぶどうの畑に囲まれたのどかな駅に、続々と若者たちが降りていく。ちょっとギャップのある光景だが、広い平原で音楽を聴くのは気持ちよさそう。雨もあがってよかったなと思っていた。
が、しかし、翌朝大雨が降った。アルカサル・デ・サンフアン近郊で、ぶどう畑の中を走る列車を撮影しようと車を降りると、激しい風と雨…。カメラの雨対策はしっかり準備していたが、人のほうはそれほど防寒できておらず、震えが止まらない…。さらに、この天候で列車も遅れ、予定の時間を過ぎてもなかなか列車が姿を現さない。なんとか撮影を終えた時、あのフェスに行った若者たちの顔が浮かんだ。こんな寒い中、彼らは一体どうしてるんだろう…。晴れの日もあれば、大雨の日もある。天候が変わりやすいスペインの春は、想像以上に過酷な季節だ。
ディレクター 渡部博美
車内で出会った親切なおじさん
ロック・フェスにむかう若者たち