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デンマーク編 撮影日記

コペンハーゲン中央駅で出発を待つインターシティ・リュン
1000のありがとう
デンマークの人は穏やかだ。今回の旅で私はそういう印象を受けた。撮影させて欲しいとお願いすると、大抵の場合、やさしい笑顔とともにOKの回答がもらえる。断られる時も、決して怒ることはなく、穏やかな表情で「撮影はしないで欲しい」と言われる。表情が優しすぎるので、コーディネーターに翻訳してもらうまで、断られていると分からないこともあった。
デンマーク語で‘ありがとう’は、‘Tak(タック)’という。言いやすいフレーズだがすごく短いので、感謝の気持ちが相手に伝わっているのか、言うたびに不安になる。日本語の感覚としては、‘どーも’みたいな軽い感じがするのだ。より多くの感謝の気持ちを込めたい時は、数字の1000という意味の‘Tusind’を頭につけ、‘トゥーセン・タック’と言うと良いと聞き、乗客に撮影をさせてもらった後は、いつも長いほうのフレーズを言うようにしていた。
首都コペンハーゲンから、ユトランド半島北部へ向かう特急列車インターシティ・リュンに乗車したときのこと。いよいよデンマーク編のメインルートに突入し、この路線でどうしても撮影したいものがあった。途中駅で何度か行われる、列車の切り離しだ。数年前のデンマーク編でも紹介されていたが、今も同じように作業をするのか、よくわからないまま撮影に臨んだ。
鉄道スタッフが車両をつなぐ通路の横にある扉を開けると、そこには列車の正面部分が収納されていた。それを90度スライドさせると、運転席が現れる仕組み。切り離しの直前まで車両間を行き来できる、とても合理的なシステム。狭い空間で撮影は難しかったが、私たちを気遣い作業の様子を2度も撮影させてくれた。協力してくれた乗務員2人は、途中のオーフス駅で降りるという。車両が減るのに併せて、乗務員の数も減るということか、これまた合理的と感心する間もないまま、列車はオーフス駅を出発しようとしていた。出発直前、ホームで列車を見送る2人に、なんとかデンマーク語の感謝の言葉を言うことができた。
ディレクター 渡部博美
突如現れた運転席
切り離される車両