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トップページ > 撮影日記ページ |
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撮影日記1
遂に始まるイギリスの旅。僕にとって初めての「世界の車窓から」のロケである。その上20年以上も続く番組ということで緊張と興奮、両方の感情が入り交じってロンドンの地に降り立った。出迎えてくれたのはコーディネーターの大嶋さん。英国事情をよく知る大ベテランのコーディネーターであり、彼女の存在は実に頼もしい。移動車に乗り込むや「イギリスもここ数年鉄道の撮影が難しく、警備員がすぐ来ますから気をつけてくださいね。」と大嶋さんから忠告を受けた。 当初予定していた項目全て撮影できるか、多少不安を抱えながら、早速ロンドンの街の撮影にとりかかった。ビッグ・ベン、バッキンガム宮殿…と順調に撮影をこなしていくが、トラファルガー・スクエア撮影中に突然警備員がやってきた。ここは大嶋さんが事情を説明し、事無きを得たわけだが、警備員達から軽く洗礼を浴びた格好となった。やはり、この国での撮影にトラブルはつきものなのか… 翌日、ついに列車の撮影がスタートした。やはりこのロケは列車を撮影しないと実感が沸いてこない。数多くあるロンドン市内のターミナル駅のひとつ、パディントン駅構内に足を一歩入れると、その広大な空間に圧倒させられた。さすがに人は多いのだが、この広い空間のせいか、不思議と混雑した感じはしない。更に目にするのは様々な人種。ターバンを巻いたインド人らしき駅員もいる。やはりここは移民の国、英国。徐々に自分が日本から遠くはなれた異国の地で撮影をしている実感が湧いてくる。 撮影を進めながら、そんな感慨に浸っていると、ふと改札口で大嶋さんがラテン系の駅員と話をしているのに気がついた。またトラブルかと思いきや、話の内容はどうやら世間話。取材先の人達と仲良くなることも撮影を順調に進める上で大切な要素である。そして次の瞬間、彼女は駅員にこう切り出した。「駅員が着ている蛍光色の安全用ベスト。どこで入手できるのですか?」撮影前、安全用ベストがあれば、警備員とのトラブルを避けられるかもしれない、と言っていたのを思い出した。駅員は笑顔で駅舎の奥へと消え、数分後戻ってきた。「これを持って行きな。ただし今は内緒にしておいて。」と、こっそりベストを渡してくれた。さすが大嶋さん。彼女の大胆な交渉術に感心させられ、オックスフォード行きの列車に乗り込んだ。この人がいれば撮影は上手くいくと確信しながら、僕達はロンドンを後にした。
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撮影日記2
車窓のロケが始まって1週間。撮影は毎日、朝から日が沈むまで行われる。テレビの世界に入ってもう何年も経つので長時間に及ぶ撮影には慣れているのだが、実は車窓ロケでは列車の「走り」の撮影が結構大変である。 「走り」の撮影には先ずロケハン。地図を頼りに、先にポイントを数カ所見定めてからロケハンは行われる。しかし、実際にそのポイントに着いてみると思っていたよりも景色が悪かったりすることはよくあること。しかも一日のスケジュールは決められているので、ロケハンにそんなに時間はかけていられない。時間と闘いながらその路線で綺麗なポイントを探すのである。そして「走り」の撮影で大変なのは実はポイントを決めた後だ。 イギリスは国土の約7割が田園地帯。街から外れると羊や牛の群れがすぐ目に飛び込んでくる。列車の走りには、やはりその国の風土を出したい。羊や牛を絡めた列車の走りが撮りたくて、ストラトフォード・アポン・エイヴォンへ向かう列車の撮影で上手い具合に線路沿いに広大な牛の牧畜場を見つけ、そこで撮影することに決めた。そして辻カメラマンの後、三脚を担ぎ牧畜場に入り、撮影ポイントまで向かう。しかし、下を見れば牛の糞だらけ。歩けど歩けど、そこは牛の糞だらけだ。辻さんはというとさすが車窓のロケで幾度となく修羅場を乗り越えた名カメラマン。ベストポジションを求め、牛の糞には目もくれずどんどん先を行く。重たいカメラを抱えながら、歩くスピードは尋常ではない。そして、何百ともいう牛の糞を踏み歩いた後、カメラポジションも決まり、牛の群れを手前に列車を待つことにした。 しかし10分、15分と列車が来るのを待てども中中来ない。予定だと、来ても良い時間だが、鉄道会社に確認すると20分遅れだとか。ついてない日だと思った瞬間、牛の群れがカメラめがけて走ってきた。僕たちは慌ててその場から離れたのだった。せっかく探した牛と列車と田園風景が絡んだポイントは諦め、牛の群れから距離を置いた別の場所で撮影することにした。そして数分後列車はやってきた。田園風景と列車は上手く撮れたが、結局牛と絡めた撮影は出来なかった。もう一本後の列車で再度撮影も出来たが、次の撮影予定もあるので、やむなく次のロケ地へと向かうことに。移動する車内で糞にまみれた靴を眺めながら次こそは牛と列車を両方撮ると誓い、牛たちに別れをつげ次のロケ地シェークスピアの生家へと向かった。
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撮影日記3
さて今回は、撮影のハイライトの一つとも言える空撮について話そうと思う。空撮は空から列車が走っている場所、一面の景色を捉えることができ、地上からの映像や車窓の景色とは一味違うダイナミックな映像が撮れるのが魅力である。狙うは、数日前に乗車したエディンバラへ向かう高速列車。北イングランドの海岸線付近での撮影計画を立てる。 この近辺は、イングランドの田園風景と起伏に富んだ海岸線が美しく、空撮には最適の場所である。しかし天候によっては、ヘリが飛べないこともあるので、晴れることを願いながら、前日はベッドに入った。しかし翌日、朝起きて、窓を開けるとあいにく曇り空。午後には雨が降ると予報では言っていた。早速ヘリ会社に飛べるかどうか確認すると、大丈夫という返答が返ってきた。スタッフ一同安堵の表情を浮かべ、ヘリポートへと向かった。 そして、とうとうヘリが飛び立つ時がきた。北イングランドの寒い北風が吹く中、プロペラが回り、ヘリが飛び立つ。ポイントまで向かう途中、灰色の曇り空の下に広がる緑の絨毯と白い羊達の群れを目で追い、その壮大な景観に心が高ぶるのを抑えながら、目的地に到着した。そこで目にしたのは見事な海岸線。カメラマンの辻さんもその絶景を前に背中を震わせながら興奮している様子が感じられる。しかし、ここは地上から何10メートルも空の上、気温は恐らく0度以下であろう。その中をひたすら、列車が来るのを待つ。そして待つこと20分。ついにやってきた。美しい海岸線を沿って、列車は一路エディンバラを目指し駆け抜ける。撮影された列車をモニター越しに見ながら、いつの間にか僕は辻さんにOKサインを出していた。イギリスの田園風景と海岸線を走る列車を眺めながら、つくづくこの番組のロケに来て良かったという思いを噛み締め、約1時間の空撮を無事に終えることができた。しかし願わくは、天気の良い日で撮影したかったが、どんよりとした景色もイギリスらしいので、よしとすることにしよう。撮影終了後、辻さんに「辻さんも興奮して震えてましたよね。」と声をかけると一言「寒すぎて震えていたんです」と返ってきた。辻さん、寒い中本当にお疲れ様でした。
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撮影日記4 「ネス湖の怪物、発見!?」
今回の車窓の旅で、僕が一番期待に胸をふくらませていたのは、実は「ネス湖を訪れる」ことでした。スコットランド北部、ハイランド地方の都市インヴァネスに到着し、早速街の風景の撮影に向かうと、すぐに美しい漆黒の色をした川、ネス川が現れました。不思議な暗さを湛えて静かに流れるネス川を見ていると、「いよいよこの上流にネス湖があるのだ…」と、興奮してきます。夢中で水面を撮影していると、背後からいつも冷静な川村ディレクターより「辻さん、ネス川もいいですが、街もちゃんと撮って下さいね」という的確な指示が。そうそう、そういえば、ここにはインヴァネスの街の風景を撮るために来たのでした。おっとっと。 さて、次はいよいよネス湖の撮影に向かいます。空から重くのしかかる雲、つんと張りつめた空気。ハイランド地方の峻厳な雰囲気が濃厚に立ちこめる中、目指すネス湖がついに見えてきました。そうだ、ここにあの「怪物」がいるのだ… 子供の頃から、何度目撃することを夢見ただろう、あの「ネッシー」…最近はどうもその存在に対して懐疑論が優勢なようですが、子供のころの胸のときめき、あれが否定されてたまるか、この目で必ずネッシーを見届けてやるのだ!と一人意気込むものの、冷めた目のコーディネーター大島さん、「いるといいですねぇ」と、子供をあやすように優しく接してくれる川村ディレクター、「ネッシーなんかいませんよぉ」と、身も蓋もない事をズバリ言う、リアリストの佐藤助手など、非協力的なスタッフにもめげず、ネス湖畔に降り立ちしっかりと三脚にカメラを据え付けました。しかしここは、本当に美しい湖です。澄んでいながら、不思議と透明感のうすい黒い水。枯れた後も湖面にその姿を映しながら、静かに佇む灌木たち。また地形による風のいたずらか、時に不思議な航跡が急に湖面に現れたりします。そういった自然現象に見とれたり、夢中で撮影したりしているうち、時間はあっという間に経っていきます。
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撮影日記5
撮影のため、一人で列車が来るのを待つ時間が長かったせいか、ハイランドと呼ばれるスコットランド北部の地域にはいろいろと思い入れがあります。多分長いと感じたのは寒かったため。僕たちが来たのは10月初旬ですが、冷たい風と雨、荒々しい風景に圧倒されてしまいました。インヴァネス~カイル・オブ・ロハルシュ間は絶景ロードと呼ばれ、世界的にもとても有名な路線で、今回のロケのヤマ場でもあります。 ここで列車の走りを撮影する時のこと、サブカメを担当する僕は、カメラマンの辻さんと撮影ポイントを検討し、ハイランドらしいとても力強い自然の中を列車が通過するポイントを見つけました。辻さんからのアドバイスはハイランドの雰囲気をしっかりと捉えることと、強風に負けないように三脚を低くすること。三脚の脚を短くし、地面に突き刺すように固定すると、目もまともに開けていられないような暴風雨になりました。容赦のない風と雨でしたが、考えてみれば、「この風と雨は荒々しいハイランドの風景を更に見応えのあるものにするかもしれない。」そう思い、すごくいい撮影ポイントにいることへのプレッシャーと、見応えのある映像を撮ってやるという意気込みの両方を抱え、列車が来るのを待ちました。 その日の夜、カイル・オブ・ロハルシュという田舎町のバーで陽気なおじさんたちに出会いました。ウィスキーを片手にみんなで合唱しています。話を聞くと、この町にはここしかバーがなく、3キロ以上も離れたところからほぼ毎日通っているのだそうです。昼間の圧倒的で乱暴とも言える風景と、この土地でウィスキーを飲み、陽気に歌うおじさんたちが、どこかで繋がったような気がします。僕もおじさんたちに便乗し、その日の悔しさを噛み締めながら極上のウィスキーを頂きました。
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