世界の車窓から世界の車窓からテレビ朝日
トップページ 放送内容 撮影日記 全国放送時間表 本ホームページについて
トップページ > 撮影日記ページ
ブルガリア編撮影日記
1.「ヨーグルトの国の真相」

日本人にとってブルガリアといえば、なぜかヨーグルトである。そこで我々も本場の実態を探るべく、ある酪農一家を訪ねた。一家の名前はディミトロワさん。お父さん、お母さん、そして二人の息子の4人で酪農を営む小さな牧場だ。そして嬉しいことに、お母さんのマリアさんはヨーグルトを手作りしていたのだった!作り方はこうだ。搾りたてのミルクを40度ほどにあたため、そこに作り置きのヨーグルトを適量まぜる。そして瓶に入れて発酵させれば出来上がり。いたって簡単だ。そもそもは5月のはじめあたりに、植物についた乳酸菌を集め、これをミルクに入れて発酵させるのがファースト・ヨーグルトになるらしい。あとは前述のように、作り置きのヨーグルトをミルクに注ぎ足していくだけ。まるでリレーのようだ。しかし聞くところによると、ディミトロワさん一家のようにヨーグルトを手作りする家庭は少なくなっているらしい。みんなスーパーマーケットで買うのだ。日本で糠味噌を漬ける家が少なくなっているのと同じだ。
ブルガリア独自のヨーグルトの食べ方というのも、現地スタッフに教えてもらった。まず中蓋を開ける前に思いっきり振り、トロトロにしてから飲むように食べるのだ。それで味だが、日本のものより酸っぱい。ブルガリアの人が日本のヨーグルトを食べると、酸味が少なくて物足りないそうだ。水牛のヨーグルトというのも食べた。(ブルガリアでは牛を飼う時、気性の荒い水牛を一頭混ぜて集団のボスにする)これは脂肪分が高く、かつ物凄く酸っぱかった。調べたところによると、日本人の1年のヨーグルトの消費量は7キロほど。それに比べて、ブルガリアは堂々、50キロで世界でもナンバーワン。やはりブルガリアはヨーグルト大国なのだった。

ヨーグルトの国というと、平和で穏やかなイメージだが、実際ブルガリアはそうである。持ち家率が非常に高いらしく、人のたたずまいにも余裕がある。でも意外な点に気づいてしまった。マッチョが人気なのだ。ディミトロワさんの家にお邪魔させていただいた時、チラっと覗いたリビングには、ボディビルダーのポスターが貼ってあった。街でも鍛え抜いた肉体の男達が、誇らし気に闊歩している。現地スタッフも、マッチョ軍団である。列車で撮影していた時、日本に留学していたという可愛い女性に話しかけられた。ブルガリアはどうですか?と聞かれ「マッチョが多いですね」と答えると、彼女は苦笑しながら「そうなんです」と言った。ブルガリアは、男は男らしく、女は女らしくという国のようだ。

ディレクター 中澤洋子

ルセ、ソフィア間の列車の子供達
ソフィア中央駅
ソフィア市内を走るトラム
2.「バラの谷」

 ちょっと前、ローズオイルを使ったマッサージを受けたことがある。様々な植物のエッセンシャルオイルがあるのに、なぜ私にはバラ?と思い聞いてみたところ「中澤さんは中性化しているので、オンナを引き出すバラにしました」という答だった。かなり愕然としたものの、以来、私にとってローズオイルは特別なものになった。そして今回、世界一のローズオイルの産地、ブルガリアである。しかも開花の絶頂期。運命の旅というしかない。

「バラの谷」は首都ソフィアから急行列車で東に3時間の、バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈の間にある。列車とバラ畑の間にヤブがあるので、残念ながら車窓一面バラの花という風景は臨めないが、よく目を凝らしていればカルロヴォ辺りから茶畑のようなバラ畑を目にすることができる。我々一行が案内されたのは、カザンラクから少し離れたところにあるバラ畑だった。はじめて見る一面のバラ畑は、木の高さが背丈ほどあり、埋もれてしまいそうだった。それにピンクの花は小ぶりで、とっても可憐。そこを舞台に民族衣装に身を包んだ美しい女の子達に花摘みをしてもらったのだが、なんだかバラの精みたいで、夢のようだった。一方、我々の撮影現場の傍らで地元の人が花摘みをしていたのだが、そちらは「農業」といった風情だった。エッサホイサと花を摘み、巨大なビニール袋に花が詰め込まれ、トラックでどんどん蒸留所に運ばれていた。

この辺りでローズオイルの生産が産業になったのは15世紀の昔で、今では香水の原料となるローズオイルの8割近くが「バラの谷」発だと言う。さらに驚いたのは1キログラムの精油を抽出するのに、4トンもの花びらを蒸留するということだ。ああ、気が遠くなる…。確かに、東京でエッセンシャルオイルを見るとローズオイルは別格で、ほんの少しの量で1万円以上したりする。けれどここブルガリアに来て、それも大いに納得。

「バラの谷」の撮影が終わった夜、撮影用に買ったローズオイルをお風呂に入れてみた。ほんの数的入れただけなのに、ふんわりと漂うバラの香り。ドタバタのロケの日々を払拭する、優雅なひとときだった。これで枯渇寸前のオンナが引き出されたかもしれない…。

ディレクター 中澤洋子
ソフィア、クラタ間の列車
リラ修道院
クラタ駅に到着した列車
3.「お天道様にはかなわない」

ブルガリアの撮影で何が大変かっていったら、そりゃもう天気だ。5月はもともと不安定らしいが、それにしても目まぐるしい空模様なのだ。例えば朝は青空で、「今日はいい感じだわ」と列車の走行シーンのポイントに向かったとする。そして列車を待つ段になると、遠くから空が裂けるような鈍い音…。あっという間に雨雲が空を覆い、雷が炸裂。列車が走る頃には空は「稲光ショー」のようになり、思惑とはまったく違う「土砂降りの中を懸命に走る列車」を撮影することになってしまうのだ。頭を抱えてしまうというか、笑うしかないというか…。唯一「やったぜ!」と思ったのは、黒海沿岸のブルガスに到着した途端、みるみる青空になったことだ。お陰で太陽燦々の下、夏を待切れない人々がビーチで波と戯れるシーンが撮影できた。しかし、そうは言うけれど、私はいつも青空の下で撮影したいとは思わない。雨には寂し気な叙情があるし、曇り空には落ち着いたニュアンスがある。でも、こうクルクルと天気が変わってしまうと、現実問題としてスケジュールの見通しは立たないし、編集も大変になる。仕事の旅の辛いところだ。

とにかく天気に振りまわされたブルガリアの撮影だったが、食べ物は美味しかった。トルコ、ギリシャ、ルーマニアなどに囲まれたブルガリアは、食に関しても「味の十字路」と評したいほどだ。それに、どんな料理にもヨーグルトや乳製品を多用しているせいか、味がまろやかでコクがある。お菓子もレベルが高い。甘さも日本人好みで繊細だ。うちの男子スタッフ二人が特に気に入ったのは『バアバ』というソフトクッキーで、『バアバ』が切れると猫をふんずけたみたいにギャーギャー嘆いていた。おまけにお土産にも『バアバ』を大量に買い込んでいた。ルーマニアの『ジョー』にあれだけ執心していたくせに、とかく男とは変節の動物である。

チェコのプラハからはじまり、ルーマニアを一周し、ブルガリアもあちこち行った。一言でいうと、タフな旅だった。思いがけないトラブルも多かった。救いはいつも笑いが絶えなかったことだ。帰りの飛行機は、パリのシャルル・ド・ゴール空港で7時間の待ち時間があったのだけど、時間潰しはシリトリだった。あまりに白熱してしまい、チェックインが遅れそうになった。大人気ない3人だけれど、だからこそ旅を子供のような気持ちで楽しめるのかもしれない。そんな気持ちをいつまでも忘れないでいたい。

ディレクター 中澤洋子
バラの谷を通る列車
トゥロヴォ駅
ヴェリコ・タルノヴォの町並み
ページの先頭へ
過去の撮影日記
東ヨーロッパ篇撮影日記
東ヨーロッパ編の撮影日記が、中澤ディレクターから届きました!
スイス篇撮影日記
スイス編の撮影日記が、中村ディレクターから届きました!