今週はクラシック音楽の基礎知識を楽しく知る好評企画の第6弾。伊集院光さんを聞き手にお招きして、宮田大さんにチェロの魅力を解説していただきました。
最初の曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」。ヴォカリーズとは歌詞を使わずに母音で歌う唱法のこと。つまり、原曲は歌曲なのですが、歌よりも器楽で耳にする機会のほうが多いかもしれません。ありとあらゆる楽器のために編曲されているといってもよいほどの人気曲です。人間の声にもっとも近い楽器と言われるだけあって、チェロによる演奏は曲想とぴたりとマッチしています。「チェロが人間の心情を表し、ピアノは風景を立体的に描く」という宮田さんの解説がありましたが、感情の動きがチェロからよく伝わってきます。
2曲目はフィッツェンハーゲンの「アヴェ・マリア」。これはほとんどの方にとって初めて耳にする曲だったと思います。フィッツェンハーゲンは作曲家という以上にチェロ奏者として言及されることが多く、チャイコフスキーの名曲、「ロココの主題による変奏曲」を献呈された名奏者です。このとき、フィッツェンハーゲンがチャイコフスキーに無断で作品に手を入れて、ふたりの間が気まずくなったというエピソードが知られています。「アヴェ・マリア」はチェロの音域の広さを生かしたチェロ四重奏曲。4人のチェリストたちの音色がひとつに溶け合って、潤いのある響きが生み出されていました。
3曲目はファジル・サイのチェロ・ソナタ「4つの都市」より第2曲「ホパ」。ファジル・サイはトルコ出身のピアニスト兼作曲家です。ピアニストとしての来日も多く、作曲家としても旺盛な活動をくりひろげています。トルコの文化に由来する作品を数多く作曲しており、「4つの都市」の「ホパ」もそのひとつ。チェロのさまざまな奏法を駆使して、民族楽器の音色を模すなど、従来の楽曲にはない新しい表現を切り拓いています。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)