鹿児島・指宿市
~絶景の宿 思い出の海町暮らし~

舞台は鹿児島県指宿市。観光地として知られる開聞岳の麓に開聞川尻と呼ばれる集落があり、目前に迫る山の迫力は他に類を見ない美しさです。祖父母が暮らす町として幼い頃からこの土地を愛してきた主人公・浦野 敦さん(49歳)は、妻の良美さん(48歳)とともに東京から移住。東シナ海と開聞岳を望む絶景の宿『木の匙(さじ)』を営んでいます。農家でもあり、露地栽培で旬の野菜を育て日々汗を流すお2人。こちらも開聞岳の美しい姿が際立つ絶景の農場。移住後、一人息子・太一くん(7歳)が誕生し、家族3人仲良くこの地での暮らしを満喫しています。
母親が里帰り出産をしたため指宿市で生まれ、東京・杉並区に育った敦さん。毎年夏休みには母に連れられ、開聞川尻の祖父母の家で過ごしました。虫を取り、海で遊び…、キラキラした青い海と雄大な開聞岳の眺めは、強烈な思い出として敦さんの脳裏に焼き付いたそうです。父の転勤で中学・高校を海外で過ごし、東京の大学へ進学した敦さん。社会に出ると商社マンとして超多忙な日々を過ごしました。ストレス発散は近所を飲み歩くことで、行きつけの店で出会ったのが良美さん。36歳の時に良美さんと結婚しますが、その後敦さんに異変が…。良美さんは「夫は精神的に参り、仕事を続けるのは無理じゃないか」と感じたそうです。満員電車に揺られて毎日遅くまで働き、疲れ切った敦さんが思い浮かべたのは、指宿市の青い海や開聞岳でした。「ああ、あの場所に帰りたい」と切望した敦さんは「指宿で暮らすためには祖父の畑を借りて農業をしよう」と考えました。その願いを受け止めてくれた良美さんとともに指宿市に移住。農業研修を経て、2018年に有機JAS認証を受け、晴れて農家となりました。慣れない農作業に四苦八苦しながらも、敦さんは思い出の地でみるみる元気になっていきます。何よりの喜びは、2人がずっと願っていた待望の赤ちゃん・太一くんを授かったこと。その後、かつて敦さんが浜辺に通った思い出の道沿いに土地を購入、一棟貸しの宿『木の匙』を建て2020年にオープンさせました。
広々としたキッチンに調理道具を完備した自炊の宿『木の匙』。一番の自慢は、海と山が一望できる2階からの景色!「波の音を聞きながら都会の疲れを癒してほしい」と敦さん。浦野家のベースは農業で、この時期スナップエンドウが最盛期を迎えます。敦さんは地域の伝統野菜で巨大な「開聞岳だいこん」も栽培し、毎年タネをとり先人に感謝し大切に育てています。少年時代の思い出がたくさん詰まった町、指宿市。この町を故郷として育つ長男・太一くんの成長を見守りながら、宿に農業、地域おこしの活動などに情熱を傾ける敦さんと、夫を支えながら子育てに奮闘、新たな友人との交流も楽しむ明るい良美さん。これからもこの開門川尻で、家族の思い出を作っていってくださいね!



広々としたキッチンに、あらゆる調理道具を完備した『木の匙』。地元でとれる新鮮な魚介類や、タイミングが合えば夫婦が育てる野菜など、豊富な食材を使って料理することができるのが魅力です。窓から海が見えるゆったりしたお風呂には地元のハーブ園で作られる、香りの良い芳香蒸留水も置かれています。そして浦野さんご夫婦の一番の自慢は、東シナ海と開聞岳を間近に見られる2階のテラスからの景色!敦さん自身がサラリーマン時代に、この景色を思い出しては東京で頑張って働いていた経験から「お客さんには、この景色を見て波の音を聞きながら都会の疲れを癒して、また帰って頑張ってほしい」と言います。絶景のみならず、心地よい海風に絶え間なく続く波の音、鳥たちの声。確かに、ここにしかない癒しがあります。



浦野家のベースは農業で、この時期スナップエンドウが最盛期を迎えます。敦さんの祖父が残した農地を耕し大切に使っています。かつての開聞岳の噴火によってできた火山灰の土壌はとても水はけが良いのが特徴。周囲にも沢山の農家さんがいらっしゃいます。また敦さんは地域の伝統野菜で巨大な「開聞岳だいこん」も栽培し、毎年タネをとり先人たちに感謝して大切に育てています。大きいもので15キロほどになるといい、「重い!大きすぎてなかなか流通にはのらないけど、きっと桜島大根にも勝てるポテンシャルがある」と熱く語る敦さん。そんな浦野さんご夫婦の農業のモットーは「ファーム・トゥー・テーブル」。朝収穫した野菜を袋詰めして、冷蔵庫に入ることなく午後にはお客様あてに発送しそのまま食卓へと届けるんです。販路は以前暮らしていた東京の知人を始め、なんと海外にもお得意様が。さすがは元商社マンです



この日訪ねたのは敦さんの母・英代さんの暮らす家です。英代さんの父親、つまり敦さんの祖父の介護のため12年前にUターンしてきたそうです。この日は、母の友人・章代さんと一緒に開聞川尻で昔から作られてきた「さつま揚げ」の作り方を教えてくれました。英代さんの話によると昔は魚売りの方が集落にやってきて、毎朝とれたての魚が簡単に手に入ったそう。安価な雑魚を買って、すり身にして各家庭で作られてきたさつま揚げ。すり身と麦みそ、卵をまぜ、かたく水を切った豆腐を入れます。このおかげでふわっとした食感になるそうです。出来上がった開聞川尻流のさつま揚げを食べた良美さんは「全然違う!ふわふわで美味しい」と感動していました。他にも、新鮮なイシダイのお刺身に、豚肉やゴボウ、大根などが入った麦みそ味の具だくさん「さつま汁」などが食卓に並びました。かつては敦さんの移住に「会社を辞めるなんて、何を考えてんの!」と大反対したという母・英代さんですが、太一君が生まれ「今となっては嬉しい限り」と言ってくれます。何より孫の誕生に目を細め、大変喜んでいたのが今は亡き敦さんの父・博さん。「だから、心おきなく逝ったと思います」と語る英代さんの言葉に、敦さんは思わす涙をこぼしていました。



夜、ご夫婦の宿に仲間が集まりました。メンバーの一人は、敦さんも参加する地域おこしグループ「川尻元気プロジェクト」のリーダー竹畑さん。また、「木の匙」の設計を担当してくれた廣瀬さんとその妻、施工を請け負った建築士の福永さん一家です。
皆さん、ここに宿を作ると聞いた時「なんて無謀な!」と思ったそう。なぜなら海が近いので十分な台風対策が必要なこと、そして何より、この土地が元々はジャングルみたいに荒れ果てた土地だったからです。でも今は「地元の人では気づけないこの土地のポテンシャルに気づき、地域のために責任感を持って建物を建てて運営している」と敦さんの行動力を称え、みんな応援してくれています。太一くんを始め、いずれ巣立っていく子どもたちが、「暮らしたい、働きたい」と思える町にしたいというのがご夫婦の願い。これからも宝物のような幼き頃の思い出を胸に、新たな家族の思い出を紡いでいってください!




木の匙
農家の浦野さんご夫婦が営む、一棟貸しの宿です。
問い合わせ時間 午前9時~午後5時
不定休
1泊 45,000円~(一棟貸し 8人まで)
※曜日によって価格が変動します
詳しくはHPをご確認下さい