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2025年3月29日弥生の伍

山口・周南市
~父の味をもう一度 町の洋食店~

今回の舞台は山口県周南市。亡き父が町で長年営んだ洋食店『東洋館』を再開させた濵田 剛さん(47歳)と、かつて店で働き、接客担当として再び店に立つ母・ヨシ子さん(79歳)が主人公です。
洋食店『東洋館』を営む両親のもと、3人兄弟の末っ子として育った剛さん。父・義忠さんの料理の味と母・ヨシ子さんの温かい接客が評判の店でした。父・義忠さんは、15歳で山口県から上京し有名レストランで9年間修業した後、周南市で『東洋館』を開店。ヨシ子さん、そして父の弟・保さんも料理人として加わり、移転を重ねながら徐々に店は大きくなりました。真面目で、頑固一徹な料理人・義忠さん。こだわりの洋食の味は、家族と地域のみんなの宝でした。しかし思春期の剛さんは、家業に反発して都会に憧れ、関東で就職。その後、周南市に戻り、結婚を機にバスの運転士となりました。家族のために懸命に働きましたが、突然転機が訪れます。父と共に店を支えていた叔父が病に倒れ、弱気になった父が「店を閉めようか」と言い出したのです。「今レシピを聞いておかないと、誰も父の料理を作れなくなってしまう」と思った剛さん。「この味を途絶えさせるわけにはいかない」と、バス会社に勤めながら店を手伝い、父のレシピを学び始めました。すると改めて「父ちゃんの味は素晴らしい。日本の料理の素晴らしさを再確認した」という剛さん。しかし、2021年、父が突然病に倒れて亡くなり、「東洋館」は閉店することに…。母・ヨシ子さんは悲しみにくれ、夜も眠れぬ日々が続きました。そんな時、保存しておいた店の材料で剛さんが料理を再現すると「お父さんの味だ…」と涙を流した母。そんな姿に「味を残せば、父は記憶の中で生き続ける。父の店を愛してくれたお客さんも思い出してくれるはず」と考えた剛さん。格安物件を借り、バスの仕事を続けながら2年がかりで店を改装。父から聞き取りをしたレシピノートや、調理をする父の映像を繰り返し見て味を再現するべく研究を重ねました。そして会社を辞め、昨年7月、『東洋館』を再オープン。一緒に店に立つようになった母はみるみる元気になりました。
先代からの常連客や家族連れ、仕事終わりのサラリーマンなどで賑わう店は、18時から午前0時まで営業の深夜食堂。一番人気は「Bランチ」、エビフライ・チキンピカタ・ハンバーグの3つの味が楽しめるこのメニューは、昼営業があった時代の名残りで、皆に愛され続ける父・義忠さんの味そのもの。そんな『東洋館』は今宵も昔と変わらず、剛さんの鍋を振る音、ヨシ子さんとお客さんの笑い声が響く温かな空間です。

焦がしたニンジンとタマネギ、牛テールをじっくり煮込んで作る秘伝のデミグラスソース。これこそが『東洋館』の味の決め手です。豚肉や玉ねぎがゴロゴロ入ったハヤシライスや、生パン粉でサクサクに揚げたトンカツ、酸味とまろやかさのバランスが絶妙なスパゲッティなど、様々なメニューにデミグラスソースが使われているんです。一番の人気メニュー、東洋館名物「Bランチ」も、デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグと、自家製マヨネーズのタルタルソースを添えたエビフライ、絡めたタマゴがふわふわのチキンピカタ、豪勢に3つの味が楽しめます。昭和の香り漂うメニューは全て、先代・義忠さんから受け継いだもの。再オープンしてから訪れた先代の頃からの常連客の中には、ひと口食べて「懐かしい、おじちゃんの味だ」と涙を流す方も…。「父の味を守り、伝えたい」という剛さんの夢への道は、今歩み始めたばかり。これからもその美味しさでファンを増やし続けることでしょう!

「食材は自ら足を運び、目で見て選べ」という父・義忠さんの教えを受け、仕入れ先にも自ら足を運ぶという剛さん。この日、まずやってきたのは岩国市にある精肉店『安堂畜産』です。父は、「肉ならここ!」と決めていました。剛さんが『東洋館』を再オープンしたばかりの頃、牛テールを注文した際に「もしかして東洋館さんですか?」と注文内容で気づいてくれたことが嬉しかったといいます。続いてやってきたのは、光市の里山にある『IZUHO FARM』。剛さんの高校の先輩である出穂大治さんが営む養蜂とイチジク農園です。この日のお目当ては出穂さんが家庭菜園で育てているニンジン。早速収穫に向かいます。剛さんのことを「昔からかっこ良かったけど、もっとかっこ良くなった。」と話す出穂さん。シェフと農家、それぞれの分野で頑張り、お互いをリスペクトしあう良い仲間です。仕入れが終わると食材をお店へ持ち帰り、デミグラスソースの仕込みが始まります!

毎週月曜と火曜日は定休日。この日は親子で、ドライブです。向かったのは周南市から車で1時間半、亡き父・義忠さんの故郷、熊毛郡上関町。訪れたのは、海を望む濵田家の墓地、父の眠る場所です。長く墓前に手を合わせていたヨシ子さんは、「たけちゃんが頑張っているし、皆仲良くやっているから見守ってね」と、義忠さんに報告したそう。
続いて訪れたのは、以前から剛さんがヨシ子さんを連れていきたかった場所です。瀬戸内海を360度眺めることができる、「上盛山展望台」。キラキラと光る海、父・義忠さんが生まれ育った町の風景が一望できる絶景スポットです。どこへ行くにも義忠さんの写真を持ち歩くヨシ子さん。この日も、胸に掲げた写真を海に向けて、美しい景色を義忠さんに見せてあげていました。「今までしっかり働いて来たから。まだまだ母が行ったことがない場所があるので、連れていっていろんなものを見たり、美味しいものを食べさせてあげたい」と話す、孝行息子の剛さん。これからヨシ子さんを連れて行く、楽しい旅行計画がたくさんあるそうです。

ある日の夜、親戚一同が『東洋館』に集まりました。店の再オープンから半年が経ち、剛さんがみんなを招待したんです。剛さんの長男・禅さんは「懐かしい。部活が終わると東洋館に寄って、ご飯を食べて帰っていた」と昔を思い出し、長女の柚子さんも「美味しい」と笑顔を見せます。そして、剛さんの姉・早苗さんは「お父さんの味と変わりません。でも、ハンバーグはやっぱりお父さんのが世界一」と懐かしみました。さらに、兄・仁さんは「父が亡くなる前に作ったカレーを冷凍して、家族で分けて食べた。これが最後のカレーだと涙ながらに食べたけど、その味を剛が復活させてくれてまた涙が出た。本当に嬉しい」と改めて『東洋館』の復活を喜んでくれました。そんなみんなの姿を見て、ヨシ子さんは「幸せです」とほほ笑みます。両親が54年間営んだ『東洋館』は、家族のみならず、地域のみんなに愛される特別な場所でした。その味を受け継ぎ、後世に残したい。剛さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。

楽園通信

東洋館

先代の味を受け継ぐ『東洋館』の洋食はどれも絶品、昭和の味わい。
親子2人だけで切り盛りするカウンターのみ8席の、小さなお店。満席の際はご了承ください。

営業時間 午後6時~午前0時
定休日 月・火曜日(水曜が休みになる月や、臨時定休があります)
※営業日、問い合わせは店のSNSよりお願いします