第1回 2009年10月3日(土)ひる4時放送 五感で旅する京の月

古くから京都は、月と共に暮してきました。街の中には月の名前や形にちなんだものが、そこかしこに溢れます。京都の人々にとって月は、夜空を仰ぎ、祈りを捧げるためのものでした。今回の「都のかほり」では、「五感で旅する京の月」と題して、京都の人々が如何に秋の月を愛でてきたのか。その姿を街の中に訪ねます。月見にまつわる、京料理や京菓子。暑い夏を終え秋を迎えての、着物。更に、月を思う「香り」の遊戯。月を楽しむための、狂言や笛の音も聞こえてきます。最後は、皇室の菩提寺・泉涌寺での満月の月見。京都の本当の月見とは、どんなものか?それを平安貴族の末裔・冷泉家の方に教えていただきます。千年の時を越え秋の月を愛でてきた京都への旅が、今、始まります。
旅人 女優:中山エミリ 女優:依布サラサ 俳優:西村和彦
味

150年もの間、茶懐石・京料理を提供し続けてきた老舗料亭・下鴨茶寮。ここでまず月を味わいます。3人がいただくのは、茶懐石。季節感溢れるコース料理を料理長の藤原昭人さんに紹介してもらいました。
先付けは、月に欠かせない楽器、笛をかたどった器に、ススキをあしらったお膳。そこに月をモチーフとした可愛らしいお料理が並びます。中でも卵の黄身で作られた「月見のべっこう玉」は、京の伝統料理。通常、醤油で漬けますが、下鴨茶寮では西京味噌で三日間漬け込む逸品です。他にも「鱧の子寄せ」や「銀杏」「からすみ」「衣被(きぬかつぎ)」など月見にちなんだ食材が並びます。次の料理は「すっぽんの月見よせ」。「月とスッポン」に洒落たお椀です。スッポンを使った満月に、白キクラゲの薄雲、インゲンをススキに見立てて…絵を描くように盛りつけられます。

そして、炊き物では、京野菜と京都ならではの食材の味わい方、「京料理の3つの旬」を教えていただきました。湯葉に包まれた鷹峯の長茄子は、今まさに収穫が終わろうとしている食材。これが「名残(なごり)」。今がまさに最盛期の松茸が「旬」。ようやく収穫がはじまったばかりの蝦芋が「走り」。旬の中にも、その季節ならではの、3つの繊細な味わいを楽しみます。季節のものを大事にする京の心を感じる一品です。味もさることながら目でも楽しい、贅沢な月を堪能しました。

触

江戸時代から続く西陣の呉服問屋冨田屋。伝統の町家は、国の登録有形文化財の指定を受けたのを機に「西陣くらしの美術館」として公開され、昔ながらの風習やしきたりを守り、今に伝えています。この冨田屋の13代目当主田中峰子さんに、月の季節の装いについて教えていただきました。
田中さん曰く、季節は着物の種類で感じられる、とのこと。夏は薄くて軽い「絽(ろ)」、9月に入ったら裏地のない「単(ひとえ)」、10月には裏地の付いた「袷(あわせ)」。京都ではそんな着物の心得が今でもきちんと守られています。季節によって変わりゆく着物…さっそくエミリさんとサラサさんも“月”にまつわる袷(あわせ)を田中さんに着付けてもらいました。

エミリさんの帯には小菊と萩、サラサさんの着物には桔梗があしらわれています。敢えて月の柄ではないチョイスは田中さんの心遣い。「月に月を重ねて喧嘩させてはいけない、なんとはなしに月を感じさせる。」のだそうです。京都の人々は「秋の月」をさりげなく暮らしの中で楽しんでいるんですね。
※冨田屋のお茶室でいただいた月の和菓子は、上七軒の和菓子屋老松で特別に作っていただいたものです。

薫

華道・茶道と並ぶ芸道の一つ、「香道」。400年以上もの歴史を持つ、お香の老舗、薫玉堂で、西村さんが香りを鑑賞する日本独自の文化をたしなみます。月見の季節には香りの中に月を思い浮かべる、「月見香」。
2種類の香りのうち、一つを覚え、それを「月」と言い表します。そのあとランダムに選ばれた香りを3回嗅ぎ、それが「月」であるか、「月」ではないかを順に答えていきます。嗅いだ香りの順番を書き記す時、「月」の香りでないものは「ウ」と表します。3回とも「月」の香りと感じたら、「月」「月」「月」で「十五夜」。それとは逆に全て「ウ」の場合は「月」が見えないので「雨夜」。また「ウ」「月」「ウ」の時は「ウ」を木立に見立てて、間からのぞく月の情景を表す「木間月」。かすかな香りを嗅ぎ分けるのはとても難しく、西村さんも苦戦します。

でも、月を香りから思い浮かべるという、何とも京都らしい雅な楽しみ方は、西村さんに新しい月のインスピレーションを与えたようです。

聴

続いては耳で楽しむ「月」ということで、京都に生まれ育った狂言師の茂山宗彦さんにお話をうかがいます。宗彦さんは、人間国宝の四世茂山千作を祖父に持ち、4歳で初舞台を踏んだ新進気鋭の若手狂言師です。さっそく「月」にまつわる狂言を披露していただきました。その演目は「吹取」。
ある独身の男が良い妻と巡り合いたいと願い、清水寺の観音様にお願いしたところ、月の輝く夜に笛を吹けば妻となる女性が現れるだろうとのお告げを受けます。しかし、笛を吹けない男は、笛の名手に代理を頼みます。笛の音に誘われ女性が現れますが、その女性は独身男の好みではなく、突き飛ばしてしまうという何ともとんでもないお話なのだそうです。

ところで、その月夜に奏でられた笛の音色はどんなものだったのでしょうか…。京都で一番古い花街、上七軒のお茶屋梅乃で芸妓・梅智賀さんに「月」にちなんだ、笛の音色を聞かせて頂きました。三味線を弾いてくれたのは芸妓・〆代さん。更に月を愛しい人になぞらえた唄「月は無情」を、芸妓さん舞妓さんと一緒に歌い、手を打ち、盛り上がった一行。古の人々が笛を奏で、唄を歌った月と、同じ月を見て共感した何とも奥深い京都の夜となりました。
※茂山宗彦さんに狂言を披露していただいたのは、くろちく百千足館の舞台です。

眺

京都の街で月が最初に顔をのぞかせる、東山連峰。東山に昇る月は京都の名月の一つと言われてきました。その東山の南の端にある「月輪山」、その山の麓、緑の森の中に、700年以上も一般に門を閉ざしてきたお寺、泉涌寺があります。別名「御寺(みてら)」と呼ばれる皇室の菩提寺です。最後はこの泉涌寺で、平安貴族、藤原俊成・定家を祖とする冷泉家の25代当主夫人冷泉貴実子さんに、京都の本当のお月見を教えていただきます。
さて、どんな豪華なものかと思いきや、貴実子さんが用意したのは「衣被(きぬかつぎ)・里芋を皮のまま蒸したもの」と「薄(すすき)」、その2つだけ。本当にシンプルなお供えに西村さんも驚きを隠せません。しかも流儀があるわけではなく、自分が良いと思うように飾る、とのこと。

子供の時は、ただ月を眺めるだけでなく、月に向って手を合わせたそうです。月の美しさを身近に感じるだけでなく、月を敬う気持ちの表れだったのかもしれません。現代の生活では電灯のお陰で、夜も不自由なく過ごせますが、昔の人々にとって月の光は夜を照らす生活の支えであり、また男女の恋を導く大切なものでした。月明かりを頼りに男は女を訪ね、月夜の晩には女は愛しい男の訪問を待つ…。月の柔らかな光は、誰にも分け隔てなく降り注ぐ、平等で本当に美しいものだったに違いありません。月明かりのこぼれる泉涌寺で、1000年の時を超え愛されてきた、月の姿を心に焼きつけます。

番組からのおすすめ情報「冷泉寺 王朝の和歌守展」
取材先リスト

泉涌寺
〒605-0977
京都市東山区泉涌寺山内町27
TEL:075-561-1551

下鴨茶寮
〒606-0807
京都市左京区下鴨泉川町1
TEL:075-701-5185

冨田屋
〒602-8226
京都市上京区大宮通一条上ル
TEL:075-432-6701

老松
〒602-8381
京都市上京区北野上七軒
TEL:075-463-3050

薫玉堂
〒600-8349
京都市下京区西本願寺前
TEL:075-371-0162

くろちく百千足館
〒604-8214
京都市中京区新町通小路上ル百足屋町380
TEL:075-256-9393

梅乃

観月スポット

清水寺
京都市東山区清水1丁目294
TEL:075-551-1234

高台寺
京都市東山区高台寺下河原町526
TEL:075-561-9966

永観堂
京都市左京区永観堂町48
TEL:075-761-0007

紅葉スポット

曼殊院
京都市左京区一乗寺竹ノ内町42
TEL:075-781-5010

天龍寺宝厳院
京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町36
TEL:075-861-0091

光明寺
長岡京市粟生西条ノ内26-1
TEL:075-955-0002

フォトギャラリー 京の情景をお楽しみください。

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