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#952
2025年3月2日
テレビディレクター田原総一朗90歳(前編)
【番組司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】田原総一朗(ジャーナリスト)
佐高 信(評論家)
原 一男(映画監督)
八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】田原総一朗(ジャーナリスト)
佐高 信(評論家)
原 一男(映画監督)
誰も取り上げたことのなかったテーマを
番組企画にしてきたジャーナリスト・田原総一朗さん。
かつてはテレビ局のドキュメンタリーディレクターとして
活躍していたことを知る人は少ない。
田原さんにテレビの過去、現在、未来について伺いました。
番組企画にしてきたジャーナリスト・田原総一朗さん。
かつてはテレビ局のドキュメンタリーディレクターとして
活躍していたことを知る人は少ない。
田原さんにテレビの過去、現在、未来について伺いました。


<「テレビ番外地」での番組作り>
- 田原:
- 最初に就職したのがテレビ東京(東京12チャンネル)。
いまはテレビ東京、好調ですけど
僕が就職した時は三流テレビ局「テレビ番外地」と呼ばれていた。
誰も観てくれない。
いろいろな企画書を出すんだけど
ぜんぜん企画が通らない、スポンサーがつかないから。
だから自分でスポンサーを見つけなきゃいけない。
自分でスポンサーを見つけてきて、
スポンサーが降りないようにするためには視聴率を上げなきゃいけない。
で、どうすればいいか。
TBSやNHKや日本テレビとまったく違う番組を作らなきゃいけない。
「あぶない番組」
あぶなくて他局が作れない番組を作ろう。
活字のインタビューは言葉が文字になって
テレビだと表情が全部見えるので、おもしろいと思った。
「見栄を張っている」とか「困っている」とかね
みんな見えるわけだ。

<1969年放送「バリケードの中のジャズ~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~」>
1969年、学生運動真っ只中、
バリケードで封鎖された早稲田大学大隈講堂から
ピアノを持ち出して敢行した山下洋輔さんのライブは、
田原さんが仕掛けた「ドキュメンタリー青春」という番組企画でした。
― こわくなかったんですか?
バリケードで封鎖された早稲田大学大隈講堂から
ピアノを持ち出して敢行した山下洋輔さんのライブは、
田原さんが仕掛けた「ドキュメンタリー青春」という番組企画でした。
- 田原:
- 山下洋輔が「やりたい」と言ったから番組を作った。
「ピアノを弾きながら死ねたらいい」
「本気か?」と聞いたら「本気だ」と。
ピアノを弾きながら死ねる場所を作ろう、
それでバリケードの中でやった。
だって本人が「死にたい」って言っているんだから。
― こわくなかったんですか?
- 田原:
- こわいからおもしろいんじゃない。
命をかけてやるのが大好き。
あなただって命をかけてやりたいと思っているでしょ?

<1972年放送「宣言ポルノ女優」>
日活ロマンポルノのトップ女優、白川和子を追った番組。
そのクライマックスは映画監督・今村昌平に絶賛されました。
こちらで土俵を作り、
土俵の上で相撲を取ってもらうというのは、
私のドキュメンタリーである。
「塀の上を走れ 田原総一朗自伝」講談社(2012年)より
そのクライマックスは映画監督・今村昌平に絶賛されました。
- 田原:
- やっぱりね、セックスの問題っていうのは非常に難しいのね。
セックスの問題にあえて切り込みたい。
女優さんに「何がやりたいですか?」と聞いた。
本人がやりたいことをやろう。
「僕は(番組を)こうしたいと思う」と伝えて
出演者とディスカッションするんだよね。
こちらで土俵を作り、
土俵の上で相撲を取ってもらうというのは、
私のドキュメンタリーである。
「塀の上を走れ 田原総一朗自伝」講談社(2012年)より
- 田原:
- 人間の一番の特徴はディスカッションすること、迷うこと。
AIに人間が勝るところは「迷うこと」なんだよ。
迷うところから新しい発見が出てくる
ずっと迷っている、混乱しているところをカメラに収める。
だから面白いじゃない。迷うから人間。
迷うから新しい発見がある。
僕はそういう番組の作り方しかできない。

<映画監督・原一男さんが見た「ディレクター・田原総一朗」>
田原さんがドキュメンタリー論を説いた
「青春 この狂気するもの」に感銘を受け、
のちに師匠と弟子の関係になったのが原一男さん。
国内外で数多くの賞を受賞した映画、「ゆきゆきて、進軍」を制作した
ドキュメンタリー映画監督です。
ぼくは、ドキュメンタリーの取材とは
恋愛みたいなものだと思っている。
嫌だといわれようが、
逃げられようが、
それで諦めるなんてことはしない。
「小説 テレビディレクター」講談社(1982年)より
「青春 この狂気するもの」に感銘を受け、
のちに師匠と弟子の関係になったのが原一男さん。
国内外で数多くの賞を受賞した映画、「ゆきゆきて、進軍」を制作した
ドキュメンタリー映画監督です。
- 原 :
- カメラが回るまでの田原さんの仕掛けがすごい。
「あぁ、ドキュメンタリーってそういうふうに作るものか」って。
私がドキュメンタリーのおもしろさに心惹かれた最初だった。
出演交渉ってあるじゃないですか。
相手がすんなり「出演する」って言ってくれたらいいんだけど
「なぜ俺は出演するんだ?」っていうような人を相手にしたときの
田原さんの相手に対する口説きのテクニック、
これがすごいなっていつも思っていました。
居合抜きってあるでしょ?
あの呼吸に似ていると思うんですよ
間髪入れずにスパっと切り込むんですよ。
その呼吸っていうか間合いが見事なんですよ。
だから斬り込まれた方はうろたえるんです。
一瞬の隙を突かれたような感じがして。
「なんで?」「どうして?」「なんでそう思うんですか?」って
スパっ!スパっ!スパっ!スパって…、
そしたらね混乱しますわね。
だんだん裸にされる気持ちになるんですよ。
そこまで言うんだったら、まぁ相手に乗ってみるかっていうか、
お任せしますって心境になるんですよ。
追い込み方のテクニックとはいわないんですよね
持って生まれた田原さんのキャラクターなんでしょうけども、
それはもう本当に傍で見ていて見事だって思いましたね。
ぼくは、ドキュメンタリーの取材とは
恋愛みたいなものだと思っている。
嫌だといわれようが、
逃げられようが、
それで諦めるなんてことはしない。
「小説 テレビディレクター」講談社(1982年)より
- 田原:
- とにかくその人になんとか出演してほしいと。
だって、その人の映像を撮りたいんだから。ドキュメントを。

<司会ではなくディレクター>
司会をやっているとは全く思っていない。
「表のディレクター」として番組を面白くするのが自分の仕事
「塀の上を走れ 田原総一朗自伝」講談社(2012年)より
「表のディレクター」として番組を面白くするのが自分の仕事
「塀の上を走れ 田原総一朗自伝」講談社(2012年)より
<評論家・佐高 信さんが見た「ディレクター・田原総一朗」>
番組で幾度となく共演してきた
佐高(さたか)さんは田原さんをこう分析します
佐高(さたか)さんは田原さんをこう分析します
- 佐高:
- ある程度の名声みたいなのもを博したら
「知らない」とはなかなか言いにくい。
「あっそれ知らなかった」とか。
それを平気でというか、てらいなく田原さんは言うよね。
それを知らなかったってことは、知らないことを面白がるってこと。
ディレクターであれジャーナリストであれ
肩書をどうつけても、田原総一朗の最大のポイント。
「知らなかった」「おもしろい」「知らないことがおもしろい」
だいたいみんな知ったかぶりするわけでしょ?
インタビュアーというのは。
ある程度うなずいて聞かなきゃいけないじゃない?
相手の答えを促すために。
田原さんはそれがないんじゃないかな。
中途で頷かないんだよ、田原さんは。
だから、不思議少年が不思議老年になっちゃったんだよ。
そういう意味では進歩がないよ。
90歳になって進歩0ってのは難しいよ。
田原さんは素直な人。
田原さんは野球をやっていた、ブルペンキャッチャーを。
補欠にもなれない。
だから野村克也が大好きだった。
田原さんはシュートとかカーブは投げられないよね。
中途半端な反則球くらい。豪速球も投げられないでしょう。
変に反則球を投げてバッターがびっくりして打てない。

<ドキュメンタリーの結末>
― 田原さんはドキュメンタリーを作っていて
結末を最初から予想しているんですか?
― でも番組にしなきゃいけないじゃないですか?
結末を最初から予想しているんですか?
- 田原:
- どうでもいい結末は。迷うプロセスがおもしろい。
― でも番組にしなきゃいけないじゃないですか?
- 田原:
- だから、迷うプロセスを撮っている。
一応結論が出るよね?
その結論が僕は問題だと思ったらそのことも言う。
<番組への思い>
- 田原:
- やっぱり作った番組を観てほしい。
多くの人に観てほしいというのが大前提だから
視聴率を上げたいと思う。
「観なくたっていい」なんて言ったら番組を作る意味がないじゃない。
なるべく多くの人に観てほしい。
やっぱり番組を観てもらうためにはおもしろくなければならない。
エンターテイメント。
あらゆる雑誌や本を書いている人も
なるべく多くの人に読んでほしいでしょ?
読んでもらうためには書いたものがおもしろくなければいけない。
― 朝生もエンタメですか?
- 田原:
- エンタメです。だって観てほしいわけだから。
おもしろくなければ誰も観ないよ。

<視聴者から言われて嬉しいこと>
- 田原:
- 評価してくれることがありがたいね。賛否両方ともありがたい。
無視されるよりはるかにいい。
賛否があるということは、無視されるよりはるかにありがたい。
炎上がとてもありがたい。無視されるよりはるかにいい。
