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#900
2024年2月4日

「黒岩勉さん〜脚本家の仕事〜」

【司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
    八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】黒岩勉(脚本家)
現在放送中の木曜ドラマ「グレイトギフト」の脚本を手がける
黒岩勉さんに「脚本家の仕事」についてお話を伺います。

1973年 埼玉県生まれ
2008年 フジテレビ「ヤングシナリオ大賞」佳作受賞
2009年 「世にも奇妙な物語」で脚本家デビュー
・連続ドラマ
「グランメゾン東京」「TOKYO MER~走る緊急救命室~」
「マイファミリー」「ラストマンー全盲の捜査官ー」
・実写映画
「キングダム」「ゴールデンカムイ」
・アニメ映画「ONE PIECE FILM RED」
などヒット作品多数



<木曜ドラマ「グレイトギフト」のテーマ>
すごく難しい質問ですね(笑)

ある殺人球菌を手に入れたがために、
いろんな人達が自分の欲望に駆られ、
その球菌に魅了されて動いてしまうという話なんですけど。
いま、世の中にちょっと投げかけるならば、
「他人と比べてしまうことの愚かさ」とか「人間の情けなさ」とか、
そういうものを少しでも感じてもらえればいいと思っていますが、
基本的には、ど・エンターテインメントなので
楽しんで観ていただければ。

<俳優 反町隆史>
主人公・藤巻達臣(ふじまきたつおみ)を演じるのは反町隆史さん。
脚本家として見た反町さんはどんな俳優ですか?

反町さんは同い年で、同じ埼玉出身。
ほとんど同じ時代を生きてきたと思うんですよ。
もちろん反町さんは10代から活躍されていて、
僕は大スターとして見ていたんですけど。
「陽のオーラ」が出ているというか、
どういう役をされても、どこかお茶目な部分とか
人の優しさみたいな部分が感じられます。
今回のドラマは、ちょっと暗いところもあって、
人が人を殺していくような話がいっぱいあるんですけど。
反町さんが演じれば、
そういう話もどこかエンターテインメントとして、
ブラックコメディーみたいな感じで観ることができるんじゃないかな?
っていうのがあって。
今回、やっぱり正しかったな、
さすが反町さんだなっていう感じでしたね。

反町さんで脚本を書いてみたいという思いはありましたか?

もちろん。
面白いのは、僕が脚本を書いて、僕が思っていた通りになることもあるし、
ならないこともあるんですけど、それ以上になることもやっぱりあって。 
それが一番面白いんですけど、
今回はやっぱり、それ以上になっている感じはあります。



<「グレイトギフト」の面白さ>
一番は、うまい役者さんが揃っていること。
このドラマは、登場人物が自分の欲望に正直に、自由に好き勝手やる話なんですよ。
今日、あの役者さんたちが「どんな試合をしてくれるんだろう?」
というような、スポーツ中継のライブ感みたいなものを
感じられるようなドラマになっている気がします。

息つく暇がない作品を目指していたんですけど、
最初のシーンから最終回の最後のシーンまで、
ずっと飽きないものを作ろうと思ってやっていたんですけど、
そういう連続性のあるドラマになっているような気がします。

<脚本の作り方>
最初はとにかく企画を考えます。
「グレイトギフト」に関しては、「好きにやっていいですよ」ということだった。
こういう話がやりたい、となったら、
10行位ずつで1話を全話分作って全体を作るんですね。
キャラクターも、そこから同時に作って、
そのキャラクターがどういう役割を持っているのか、
どういうバックボーンがあるのかを全部作る。
さらにもう一回戻して、そのキャラクターが、
「こういう状況ではどういうことするだろう?」ということを
また積み重ねて、増やしていって全話の全体像を作ります。
そこから、内容をより膨らましたプロット(要約)をたくさん作って、
最終的に1話分の脚本という形で完全な本を作ります。
「グレイトギフト」は全体が見えていないと書けない物語。
1話ずつ作れる場合もあるんですけど、
今回は、全体を作ってから1話ずつ作っている感じですね。

-登場人物はどうやって考えるんでしょうか?

いろんなやり方がありますけど、キャストが決まっていれば、
その人にあてて考えてくのが一番多いパターン。
あとは、実際に起きた事件、実在の人物があった方が
よりリアリティが出てくるので、
そういうモデルを自分の中で考えて書くことは多いです。

<脚本作りのルール>
一番は、観た人が幸せになる。悪い影響を受けない。
大きくいえば「世界平和のため」に書いているというか。
世の中が幸せになるものとして書ければな、と思いますけどね。
残酷なものであっても、ドラマを観たことによって
違う考え方ができればいいなと思うんです。
だからなんとか、世の中が幸せになるようなものを作りたい。
単純に、観て面白かったから「うん、明日から頑張ろう」
と思ってもらえるのがテレビドラマの役割なような気もしていて、
あまり深く考えずに観ていただいて、
とにかく面白かったって思ってもらえれば、もうそれでいいかな。
「面白かった」ってやっぱり嬉しいじゃないですか。
面白いものに触れるとすごく元気になる。
それが、テレビだと一番大事。
その中に、ちょっとだけメッセージ性のあるものを僕の方で忍ばせて、
それも感じ取ってくれたら最高ですけど、
そこはやっぱりオマケみたいなもので、
それよりもやっぱり「面白い」が一番大事かなと思うんです。



<脚本の軸>
-テレビドラマ、実写映画、アニメーション…
手がける作品の幅が広い黒岩さん。どこが軸なのでしょうか?

脚本家になった最初の頃は、ミステリーやサスペンスを
やらせてもらえることが多かったので、
そういう仕事が増えていったんですけど。
基本的にはラブストーリーとかラブコメがやりたくて、この世界に入ったんです。
でも、そういう仕事はなかなか来なくて。
でも、2~3年前にテレビ朝日で「消えた初恋」って
深夜ドラマをやらせてもらって、すごく嬉しかったですね。
もし良かったらラブコメもお願いします(笑)

ヒット作の共通点。どういう軸があると面白いものが作れると思いますか?

それが分かれば、すごく僕が聞きたいんだけど(笑)
僕の中だけの話ですが、
ゴールデン・プライム帯のテレビドラマに関して言うならば、
「全員に向けて作っているかどうか」
というのが一番重要な気がしますけどね。

<SNSの反応>
最近はSNSですぐに視聴者の反応を見ることができる。
チェックすることはありますか?

すごくします。
ドラマを観ている時はリアルタイムでずっとチェックします。
リアルタイムが大事なので、
どういうことをポストされているかなっていうのを見ていますね。
 
テレビの宿命として視聴者あっての仕事なので、
その反応を無視するわけにいかない。
その反応は、ちゃんと受けとめるものとして見ています。

SNSの投稿がストーリーに影響を与えることはありますか?

ほとんどないないですね。
というのも、タイムラグが相当あって、脚本や撮影は相当先に進んでいるので、
今言われたことを反映するような時間軸ではちょっと作れていないんですね。
視聴者の声を聞いて作った方が、もしかしたら良いのかもしれない。
でもやっぱり、他人の意見を取り入れても面白いものはできない。
結局、自分たちが面白いって思うものしか
たぶん面白くならないような気がするんですね。

「自分は面白くないな」ってやっているものって
たぶん面白くないような気がするんですよ。



<面白いとは>
先日、韓国の制作会社の人に会って、「世界向けに作りませんか?」と言われたんですけど、僕は韓国の文化は分からない。
しかも、「アジアでヒットさせましょう」とか言うんだけど、
「日本人の感覚で日本人が面白いと思うものしか作れませんよ」
って言ったんですよ。
そしたら、それが正解で、韓国もエンターテインメントを輸出しないと産業が成り立たないので、早い段階から輸出を考えて作っていたらしいんですけど、
「冬のソナタ」がヒットした時に、
「これはいける!」と一生懸命日本のことを研究して、
好きそうなものを一生懸命作ったんですね。
そうしたら、まったくヒットしなかったんですって。
で、結局考え直して、
「作っていても、僕ら面白くないなと思って作っていたよね」
という話になって、
結局、韓国人が韓国の中でヒットするものを作らないとダメなんじゃないの?って話になって、そこから自分たちが面白いものってことで、
「イカゲーム」とか「愛の不時着」とか、そういう作品がだんだん作られていった。
そうするとやっぱり「自分たちが面白いと思う作品」が受け入れられた。
結局、エンターテインメントの世界にいる人は
みんなそうだと思うんですけど、
「自分が面白いと思うもの」以外は、面白いものは作れないと思う。



<テレビドラマの未来>
テレビ離れっていうのは、本当に進んでいると思うんです。
全体的な視聴率から見たら、もう間違いないと思うんですけど。
テレビドラマというものに関して言うと、
そんなに離れていないような気がしていて。
リアルタイムで観ることからは離れているんですけど、
動画視聴とかもあるんで、しかも今コンテンツ自体はすごく増えていて、
むしろ昔よりもドラマに触れる機会は増えているような気がします。
だから、テレビドラマ自体に関しては、より多くの作品が増えていくだろうなって思っています。
リアルタイム視聴にこだわるかどうかっていうことでいうと、
また違う話になってくるんですけど。 
テレビドラマに関しては、
より多くの、いろんなジャンルが生まれていいんじゃないかなと思います。

<手掛けたいテーマ>
ラブコメとかラブストーリーでヒットするものを作りたいなっていうのはありますね。
やっぱり観た人の幸福感が一番高いような気がするんですよね。
あとは、もうちょっとターゲットを絞ったものでいいんであれば、
メッセージ性が前面に出たものをやってみたい。
それは政治だったり、教育だったり、
本当に説教くさいなと思われるくらいメッセージ性が強いものを、
ちょっとエンターテインメントにくるんでやってみたい。
もちろん、今のテレビドラマでやっちゃうと、それはウケないんですけど。
ターゲットを絞っていいんだったら、
そういう作品をやってみたいと思いますね。



<テレビとは>
すごく手軽な娯楽。
だからあまりカッコつけてやる必要はないと思っていて。
もちろん今、ネットとかSNSを娯楽として大勢の人が見ているんですけど、
まだ僕の母親の世代は、テレビがメインであって、
日本の社会の中で娯楽として一番幅が広いのは
まだテレビなような気がしています。
そういう意味では「誰もが観られる気楽な娯楽」な感じですかね。
ニュースやってる人はすみません。
気楽に観れる感じはいいですよね。 

そのうちSNSとか疲れてくるような気がするんですよね。
自分から選んでいって、自分が発信したり、
そういうことに若干みんな疲れてきているというか。
僕もSNSをすごく見ますけど、
世の中に対しての不平不満があまりにも多い、割合として多くて、
だんだんエンターテインメントじゃなくなってきているような気がして。
YouTubeとか、みんなが喜ぶものもあるんですけど、
やっぱり観ている人のためだけに娯楽として作っている
テレビっていうものをやり続ければ、
もう一回テレビに戻ってくる可能性というのは
あるかなって思いますね。
だから僕らテレビをやっている人間として、
気楽に楽しめる娯楽を提供し続けるのが大事なような気がします。