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#888
2023年10月29日

「TV塾・刑事ドラマの監修の仕事」

【番組司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
      八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出  演】熊田彰英(検察監修・元東京地検特捜部検事・弁護士)
      佐々木成三(警察監修・元刑事)
      服部宣之(テレビ朝日ストーリー制作部GP部長)
【テレビ塾】
18歳以上の視聴者の皆さまを対象にテレビ朝日スタッフがテレビの仕事・仕組みについて分かりやすくお話しする企画です。
第60回は、「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」ができるまで
~検察監修・警察監修が語る刑事ドラマの裏側~
をビデオ会議サービス<ZOOM>で開催しました。





【ドラマの監修とは】
服部部長
「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」は、「刑事ドラマのその先のその先」を描いたドラマです。
今までの刑事ドラマは、犯人が逮捕されたところでドラマが完結することが多かったのですが、実際は、そこからが大変だという話を監修の先生方にお聞きして、企画したドラマです。
監修のお二人とは、企画作りから打ち合わせ、プロット制作、脚本作り、収録現場にも立ち合ってもらいました。
このお二人の力がなかったら、成立しなかったドラマです。

<検察監修の役割>
熊田さん
台本のネガティブチェックやコンプライアンスのイメージがあると思いますが、検事とは何ぞや?検察とはどういう組織なのか?
刑事事件とはどのように進んでいくのか?そうした背景、前提のところから、シーンごとのセリフや、手続き、どんなふうに振る舞うのか?どんなことを考えているのか?ということを俳優さんから質問を受けたりしながら現場で作り上げていきます。
普段受ける法律相談よりも難しいのがこの検察監修です。
今回のドラマは、それぞれの立場の違いを出さなきゃいけない。
刑事と検事って何が違うんですか?
これは第一シリーズでだいぶ解き明かされたんですけど、今回は、
刑事と検事、判事は何が違うんですか?
ということを事件を通して組み立てていきました。



<検察監修が選ぶ名シーン>
「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」第8話のシーン
熊田さん
元検事が選ぶとなると「起訴」とか「有罪」とかのシーンかなと
想像されるかたもいらっしゃると思うんですが、世の中で起きている事件の7割弱が不起訴処分になります。
検事の役割の1つは、処罰するかしないかを明確に決めることなんです。処罰することだけが仕事ではないんです。
そこには警察と連携しながら経緯を解き明かす、背景を突き詰めることによって不起訴になっていく。これが実際の刑事事件の流れとしての本来の姿なんです。
そういうところをよく表現し、凝縮されたいいシーンだと私は思います。
佐々木さん
起訴猶予になりました。起訴になりました。でもその中には、いろんなストーリーが入っていて、その中の判断材料は世に出ないものなので、このシーンは僕も感動しました。



<警察監修の役割>
佐々木さん
刑事ドラマが刑事のあり方だと思っている方が多い中で、実際の
リアルとフィクションは違うと思うんです。
今回は、出演者や脚本家にたくさんのリアルを求められたので、
それに答えるのが楽しかったです。
拳銃の構えかたや、警察手帳はどこに付けているのか?とか、細かく、フィクションの中にも細部のリアリティが求められました。
だから刑事は、このリアリティの面白さがわかるんです。
服部部長
ドラマって基本的にフィクションじゃないですか?
大きな嘘を大前提としてついているんですけど、小さなリアリティをどれだけ積んでいけるかでエンターテインメントとしての
見え方が違ってくる
と思うんです。
だからそこがすごく大事だなと思います。

<警察監修が選ぶ名シーン>
「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」第7話のシーン
佐々木さん
「検事とのやりとりでおもしろいことないですか?」と言われて。
このシーンは、実際に僕が体験した訓練なんです。
ぼくは公判出廷を3回ほど経験しているんですけど。
この証拠のありかたについてちゃんとした証拠をとっているのか?とか、取調べにおいて誘導していないか?など。
検事さんは百戦錬磨なので、どういった質問がくるのか、ある程度
予想ができるので、その練習をするんです。
まぁ、何回も同じこと聞いてくるし、ちょっと感情的にさせるんですよ。わざと。
「感情的になっちゃダメだからね」と言われるんです。練習のときから。この話をしたら脚本家のかたが、面白く、リアルに描いてくくださいました。ここは、捜査一課の刑事に人気のあるシーンでした。
熊田さん
私もこのシーンは好きですね。
実際に検事時代には何人という警察官とこの証人テストをおこないました。
答えを教えるわけではなく、あくまでも法廷できちんと話ができるように行う訓練なんです。
警察官がキリキリと胃が痛むほどやりますし、私も証人として出廷する機会があったので練習しました。

<質問コーナー>
実際の事件の方がドラマより奇想天外なことがありますか?
熊田さん
想像を絶する、捜査機関の予想をはるかに凌駕するような事件というのはいくらでもあります。生の事件というのは、想像が及ばない、人間の色々なモノを見ます。
逆に言えばそこを警察も検察も突き詰めていく、解明していくことが醍醐味であり、やりがいだと思います。



<伝えたいこと>
熊田さん
このドラマを通じてそれぞれに正義がある。
それぞれの正義を体感してみたい。いろんな世界がありますので、
これからの道として考えていただきたいと思います。
佐々木さん
刑事ドラマに何を求められているかというと現代の水戸黄門なんだと思っています。犯罪をおかしたら捕まるんだということが犯罪の抑止につながると思っていたんですけど、「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」でそれぞれの正義を深掘りして見てもらう。
世の中見えていない部分が多いんだなと知ってもらういいドラマになったと思います。
服部部長
テレビドラマって本当にたまたま偶然目にしたテレビの中で、
実は引き込まれる1つのセリフがあったり、引き込まれる役者が出ていたり、物語に惹かれて、毎週楽しみになって。
そのドラマを1シーズン見届けると人生を変えるような1本になってる。って。
今の時代では夢のようなことかもしれませんが、私自身が今から20数年前に、テレビドラマを見て、「あぁ、こういう世界にいきたいな」と思ったみたいに。
そんな奇跡が起こせるのも、テレビドラマ、テレビの仕事の素晴らしさだと思っています。これからも偶然と奇跡を信じてテレビドラマ作りに邁進していきます。