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#886
2023年10月15日

「野口聡一さんとテレビ」前編

【番組司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
      八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】野口聡一(宇宙飛行士)
今年4月、テレビ朝日放送番組審議会委員に就任した
宇宙飛行士の野口聡一さんに様々なお話を伺いました。

1965年 神奈川県生まれ
1996年 宇宙飛行士候補者に選定される
2005年 スペースシャトル「ディスカバリー」搭乗
     3度の船外活動をリーダーとして行う
2009年 日本人として初めて宇宙船「ソユーズ」に
     船長補佐として搭乗。ISSに約5カ月半滞在
2020年 民間宇宙船「クルードラゴン」運用初号機に搭乗
     ISSに166日間滞在、自身4度目の船外活動を行う
2022年 JAXAを退職

<テレビ朝日放送番組審議会>
放送番組審議会委員というのは、実は私、このお話をいただくまで存在も知らずにですね、色々調べてみたんですけど。
大変光栄な立場だなと思いまして、4月からまだ始まったばかりなんですけど、
勉強しながらやらせていただいております。

―野口さんが審議会で感じたことは?

委員の皆さんとテレビ朝日の経営陣、制作陣が、フランクに、活発に、忖度なしで意見を交わしているところが素晴らしいですね。
委員の皆さんからは、様々な観点からの意見が出てくるので毎回すごく参考になります。
番組を作られている皆さんも、真摯に番組を制作されて、
真摯に意見を受け入れていらっしゃるのが印象に残りました。
審議会委員から、時には厳しい意見も出るんですけど、しっかりノートをとられて、終わって必ず
「今日はいいご批判をいただいてありがとうございます。
そういう観点が抜けていたので、とてもありがたいです。」
というようなことを直接言っていただけると、
我々としてもお話しさせていただいた甲斐があるなと思います。

―議題となる番組をどのような視点で観ていますか?

私自身が宇宙飛行士として活動する中で、打ち上げという大きな本番に向けて、
メインとなる宇宙飛行士と、それを支えてくれる地上の管制官など
サポートスタッフとのリアルタイムの掛け合いを凄く大事にしていますし、
そこが一番面白いな
と思っているところなんですよね。
テレビ番組に出演させていただく時も、光を浴びている演者側の視点と、
カメラの裏側で番組を制作してくださっているスタッフとの関係性をいつも見ています。
「スタッフの人は大変じゃないかな?」という観点で見ることがあって、
僕は本職のテレビ屋さんではないので、あくまで一視聴者としてですけど、
作る場面はどんな感じなのかな?ということを考えます。

―委員として大切にしていることは?

審議会委員に求められていることはしっかり理解して活動していきたいですけれども、あくまでも一視聴者。
普段皆さんがテレビをつけて出てくる画面に対して感じることをお伝しえたい。
経営陣や制作陣の皆さんはテレビ界のプロなので、いろんなことをわかって番組を作っているんですけど、一視聴者として、お茶の間やオフィスのテレビで、パッと出てくる映像に対して「何を感じるか」というのは、
なかなか直接お伝えする機会もないと思うので、そういう観点でお話をしたいなと思います。

―野口さんが面白いと感じる番組は?

いま、テレビはすごくカッチリと作り込んで完成品を出す場になっていて、
それがあるべき姿なのだろうと思うのですが、作る側の方々と演者さんとのやりとりも面白いと思うんですよ。
最近話題の番組…「マツコ&有吉 かりそめ天国」とか、
そういう番組ってよく考えてみるとテレビを作る時の前室でのやりとりみたいな感じ?
そこをそのまま視聴者が観ているような雰囲気が面白いんだと思うんです。

しっかりと作り込んだ、1秒のミスもなく作られた番組を観るのも面白いんですけど、カメラが回ってない時の方が面白いって感じがあるじゃないですか?
そこも観せていくのが面白いんじゃないかと思います。



<テレビとの関わり>
―1965年(昭和40年)生まれの野口さん、テレビの記憶は?

テレビは好きだと思います。
放送番組審議会委員を引き受けてからは半年の新米ですが、テレビ視聴者は57年くらいやっていますので、観ること自体はすごく長いですよね。
子供の頃はエンターテインメント・娯楽が少なかったので、いろんな意味でテレビが娯楽や教養の中心だった時代が長かったですから、自分の周りの人たち、家族、学校の友人、みんなが同じ番組を観ていた時代を経験しています。

子供の頃はどこにでもいる子供でしたからアニメとか観ていました。
覚えているのは宇宙とか、ロケットに乗って遠くへ行くような、
「宇宙戦艦ヤマト」や「サンダーバード」、映画では「スターウォーズ」、そういう宇宙を舞台に主人公たちが縦横無尽に活躍する番組はすごく好きでしたね。

―影響を受けた番組は?

直接テレビが影響していると言い切れるのは、高校生の時にアメリカのスペースシャトルの打ち上げをテレビのニュース番組で観たんですよ。
高校生だったこともあって自分の将来の進路を考える時期に、
「あっ、こういう仕事があるんだ」
「ロケットに乗って宇宙に行って、それが仕事になる」
ということを意識した瞬間なんですよね。
ですから間違いなく、テレビのニュースの映像、ほんの数秒ですけどそれを観た時に、ある意味一生が決まる子供もいるわけです。
テレビの持つ影響力、一瞬であっても観たものが大きなインパクトを持つというのは、私自身の経験としてありますね。

<テレビに期待すること>
バスケットボールのワールドカップは、テレビを観ながら日本中が熱狂していたと思うんですよ。春のWBCもそうですけど。
スポーツが持つ力といえばそれまでですけど、それは地上波放送が持つ力だと思うんですよね。
みんなが安心して観られる媒体でもあるし、「昨日の準決勝観た?」みたいな感じで話も広がる。
テレビが話題の中心にあるデバイスであることは間違いないんですよね。
そのことを改めて考えるべきだと思うんです。

「インターネットに対して負けそう」だとか「テレビはつまらないから興味ない」みたいな話が出ますけど、真に考えるべきは、「テレビがつまらない」とか言ってくれるうちはまだ良くて、話題にもならなくなった時が危険なわけで、
「バスケいいよね」「WBCすごかったね」というのは、
その言葉の裏に「テレビがあって良かったね」というのがあるわけで、
そこをいかにしっかり大事にしていくか。

まだまだ地上波放送の持つ力は強大なので、それをしっかり理解した上で、
批判はあると思いますよ、私も時々は厳しいことを言わしていただきますけど、それと同じくらいテレビを応援したい気持ちがあるので、まだまだテレビが持つポテンシャル、破壊力を大事にしていただきたいと思います。



<番組制作のチームワーク>
いろんな番組を観させていただいたり出演させていただいたりする中で、我々はテレビの画面に映っているシーンしか見えないわけですけど、実際にはその後ろに見えていない空間が遥かに広く広がっているじゃないですか。
画面の裏側にいる人たち、あるいは、この空間にすらいないけれどもこの番組を作るために動いている人たちっていっぱいいるわけで、そういう方々のさまざまな努力とか思いとかがこのちっちゃな画面の中に収められているわけで、それがまさしくチームワークだと思うんですよね。

それを観る側も大事にした方がいいと思うし、作る側はちゃんと理解してチームワークにされていると思うんです。
5分番組であれ24時間番組であれ、放送に向けて凄く大勢の人が、頑張っているというのは、テレビの成功に寄与しているなと、チームワークそのものだと思います。

<プロデューサーとして作ってみたい番組>
なんでしょうかね?
錦鯉とオードリーの番組かな(笑)
本職は宇宙飛行士なので、つい固くなって「宇宙とは?」という話になっちゃうんですけど、お遊びでもないけれど柔らかく、
「宇宙に行く意味ってなんなんだろう?」ということを、
いろんな立場の人とやわらかく、まるで前室で話しているかのように話す、
そういう番組は作ってみたい
ですね。



<発信するということ>
「発信したい」という欲望はあるんですね。
自分なりに見ている景色や思ったことを発信していきたい、お伝えしていきたい。
実際に宇宙に行って科学実験をする、ということもありますけど、自分が宇宙に行って何を感じて、何が面白いと感じたかをお伝えすることが、観ている人にとっては、
「将来自分が宇宙に行った時にどう感じるか」を知りたいわけじゃないですか?
「宇宙で何が一番きれいでしたか?」というのは
「自分が将来宇宙に行ったときに何を美しいと感じるか」を聞きたい。
そういう意味で、自分が思ったこと、感じたこと、面白かったことを文章、SNS、YouTube、いろんな媒体を使って発信していきたい。
伝えていくことの中には、僕が宇宙へ行く前に犠牲になったコロンビア号のこと、船外活動で僕が感じた生と死の狭間、美しい地球の話。
大人になっていく子供たちに「夢を持って何かを追い求めていくことは素晴らしい」、そういうことも伝えたい。
伝えたいことを表現して様々な媒体にのせて出していくことが、
今やっていること
です。



<テレビ朝日に期待すること>
テレビ朝日の放送番組審議会委員になる前に持っていたテレビ朝日の印象は「報道のテレビ朝日」。
かっちりといろんなことを冷静に伝えていくテレビ局だと思っていたので、
そこは今後も期待しています。
最近のテレビ朝日は、スポーツ、当てていますよね?
ことごとく当てていらっしゃるので、この調子でぜひやっていただきたい。
地上波放送が伝える「スポーツの魅力」というのは、
まさにいま、我々が求めているスポーツの魅力そのものになりつつあるので、そこは改めてテレビの破壊力を理解して存分にやっていただきたいです。