瀬古利彦が斬る

 

第39回全日本大学駅伝を斬る

駒大は1区で流れを作った。3週間前に1万mの好記録を出し、調子の良かった豊後(4年)を使ったのが正解だった。2区の宇賀地(2年)も、早大・竹澤(3年)や順大・松岡(4年)を相手に仕掛けるなど、しっかり走った。力をつけていると感じた。殊勲賞をあげるとすると、この二人ではないだろうか?

東海大は2区佐藤(3年)の時点で、本来なら駒大の前に行きたかった。逆に大きく離されたので後手後手に回り、あとはオーバーペース気味でも追いかけなければならなかった。

2枚看板のもうひとり、8区伊達(4年)も元気がなかった。中大を抜いて日体大・北村(4年)に追いつくのではと考えていたのだが・・・。両エースが活躍する場がなかったら、東海大のレースにはならない。1区2区で勝ちパターンにきっちり持ち込んだ駒大とは対照的だった。

1区は区間タイ記録、2区、8区は区間新記録と記録が生まれたレースだった。今日は追い風で、前半はあまり気温も高くなかったので駅伝日和だったと思う。逆に気温の上がった後半、8区(19.7km)であの記録を出した山梨学大・モグス(3年)には驚いた。55分32秒という今日の記録は、間違いなく世界レベルだ。彼の能力は素晴しい。気温がもう少し低かったら、さらに30秒くらい縮められたのではないだろうか。

中大は、上野(4年)が気合十分だったのにくわえ、全員が良く頑張った。1区梁瀬(2年)、2区徳地(3年)、3区森(3年)と、上野を奮い立たせるトップとの差で、襷をつなぐことが出来た。逆に東海大は、トップと1分〜1分30秒程度の差だったら、8区伊達のやる気をかきたてられた、ということだ。

日大・ダニエル(2年)の1区起用は、やはりもったいなかった気がする。2区くらいに使っておいたほうが、最終区での逆転も喰らわなかったのではないだろうか。

今回は、中大が3位と健闘したこと、最終8区でモグスが7人ごぼう抜きで山梨学大を6位シード圏内まで押し上げたこと、東海大のエース・佐藤が2区で詰め切れなかったこと、順大の調子が悪かったこと、これらがサプライズだった。

瀬古利彦プロフィール

1956年三重県出身
財団法人日本オリンピック委員会 理事・財団法人日本陸上競技連盟 理事

言わずと知れた「伝説のマラソンランナー」瀬古利彦氏。
1980年代、日本、そして、世界のマラソン界をリード。マラソン全戦績15戦10勝、福岡、東京はもちろん、ボストン、ロンドン、シカゴ…世界のビッグレースを総ナメにした。その勝率と共に切れ味鋭いスパートで一時代を築いた「マラソン界のカリスマ」。
早稲田大学時代は、エースとして箱根駅伝で大活躍、まさに大学駅伝から世界へと羽ばたいていったパイオニアである。低迷する男子長距離・マラソンを憂う瀬古氏が、今、「復活」のカギとして最も期待しているのが学生長距離界だ。そんな期待も込めつつ、瀬古氏ならではの厳しくも優しい視点と切り口で、レースを解説。