階下のサボテン開花 |
ジャンボの寂しさが漸く癒えた頃のことである。
週末の昼下がり、父が興奮気味に話しかけてきた。
「ねぇ知ってる?1階のサボテン!!」
母はわからないと言った顔で次の句を待っている。
しかしわたしは知っていた。
見ていたのだ、1階のサボテンを…。
「黄色でしょ!?」すかさずわたしが言う。
すると、父は言った。「いや、白だよ!」
そんなはずはない。だってこの目で見たのだ。
マンションのロビーで、今にも開きそうな黄色くて、パンパンに膨らんだつぼみを見たのだ。
今度こそ色つき、黄色だ。
嗚呼、何故わたしはこの話をすることを忘れていたんだろう?
あなたは分かってくれないかもしれないが、これは矢島家にとって、重大な問題なのである。
それはコチラをごらん頂きたい。
はてさて、日ごろの忙しさを理由に最近すっかりメールをくれない友人をいけずだと思っていたわたしが、これでは同じことをしているではないか!
忙しさを理由にサボテンのことを話し忘れるなんて、どうかしている。
いかん、いかん。
サボテンの花は何色なのだ?
黄色なのか白なのか、それが問題だ。
父と話をつめていくと…わたしと父が見たサボテンは別のサボテンだということが判明した。
慌てて階下へ向かう。
わたしはその姿を見届けなければならない。
母も後ろから着いてきている。
そう、わたしたちの経験からすると、花嫁はあまり長いことそこにはいないのだ――。
最初に目に飛び込んできたのは白いサボテンの花だ。
嗚呼、なんてことだ!?
ひとりじゃないって、素敵なことね!? |

ビートルズ |
花嫁がなんと4人もいるではないか?
これは花嫁ではない、ビートルズではないか。
ラブミィドゥ!とコチラを見ている。
「へぇ〜、こんなに咲くんだねぇ」と見とれるわたしに、母が衝撃の一言を発した。
「悠子、こっちにもうひとつ植木鉢があるよ。」
なんと!!
その少し離れた隣には、もうひとつのサボテンの植木鉢があるではないか。
これは!と並べて、撮影である。大変なことになった。
花嫁、もとい。ビートルズが今度は6人になった。 |

クレイジーキャッツ |
…これではクレイジーキャッツではないか。
え?お呼びでない?
かつて矢島家を騒がせたジャンボの花嫁に似た白い花は、その中にやはり中にたくさんのめしべを付け、花びらは柔らかい。
でも6人いると陽気で元気いっぱいな、やんちゃな男の子のようにも見えるから不思議だ。
下に見えるまあるいサボテンたちもなんだか楽しそうだ。
下のサボテンはスクールメイツと呼ぶことにしよう。
「すごいなぁ、こんなにたくさん咲いて。すごいなぁ」
すごいを連呼するわたしの隣で、母は違う方向を見ていた。
「アレ…。」
母の指差した方向を見てわたしはさらに驚いた。
あ、黄色いサボテン!忘れていた! |

堂々! |
よく見て欲しい。なんて美しいんだろう?
わたしが見ていた黄色いパンパンに膨らんだつぼみが開いて、その中から羽を伸ばすかのようにしてそのサボテンは咲いていた。
母とわたしが夢にまで(厳密に言うとわたしたちの理想は赤色なのだが)見た、白くない、色つきのサボテンの花である。つぼみと同じ色の黄色い花びらなのである。
「黄色…きいろなんだね。」感慨深げに母が頷く。
「ホントだねぇ。鮮やかな色だア。」ウットリするわたし。 |

ジュディオング |
こちらは一輪、堂々たる咲きっぷりである。
ううむ、これはまさしくジュディオング。
もはや「わたしの中でお眠りなさい」と歌っているようにしか見えない。
たおやかに羽を操るように花びらが開いている。
言うまでもなく…矢島家は再びサボテンの話で持ちきりになった。
白い陽気なサボテンたち、妖艶な美しさを誇る黄色いサボテン歌姫。
矢島家は赤いサボテンの花を求めて、これからもロング&ワインディングロードを進むことになりそうだ。
って、こりゃまた失礼いたしましたア〜。 |