クランクインは料亭シーン
クランクインは2010年6月25日。東京・赤坂の料亭で警察トップたちが密談をするというシーンで、警察庁長官役は宇津井健、警視総監役は品川徹。これに、レギュラーキャストの警察庁官房室長・小野田役の岸部一徳、警視庁の首席監察官・大河内役の神保悟志が加わり、松本基弘ゼネラルプロデューサーが「映画ですねぇ」と感動する重厚な映像になった。
水谷豊演じる杉下右京と、その"相棒"である神戸尊を演じる及川光博がクランクインしたのは、その2日後、6月27日。いつものように特命係が上層部に呼び出された会議室のシーンだったが、今回はレギュラーの刑事部長・内村役の片桐竜次を筆頭に、籠城事件で人質となった各部の部長たちがずらり。國村隼、品川徹らベテラン俳優たちが居並ぶ画もまた、圧巻の一言だ。
組織の暗部に迫り、そこに潜む深い人間ドラマをあぶりだす、『相棒』の骨太な面を象徴するようなシーンの数々。「これぞ『相棒』という映画になります」という今作に対する水谷の言葉を、撮影当初から実感させるものだった。
水谷豊のアクション
一見頭脳派の右京だが、今作ではその身体能力の高さを見せるシーンが。11階で起きた籠城事件の情報を得るため、13階からロープ1本で窓外を伝い降りるのだ。撮影はセットで行われ、プロの指導の下、安全ベルトを装着して万全の対策が取られてはいたが、なにせ建物3階分、10メートル近い高さを降りたり昇ったりすることになる。水谷は久々の吊りでの撮影に「下を見るとやっぱり怖いんですよ」と語っていたが、いざカチンコが鳴ると、華麗といっていい身のこなしでスルスルと昇り降り。「緊迫した物語の中でちょっとだけクスッと笑えるいいシーンになったと思います」と満足そうだった。
ヒロインの涙、籠城の気迫
ゲストヒロインは小西真奈美。
凛とした佇まいが、朝比奈圭子の運命と決意を感じさせる。右京と尊に真実を告白するラスト近くのシーンでは、切なさの滲み出た表情で美しい涙も。「まるでこの役のために生まれてきたようです」と水谷は絶賛する。
また、前代未聞の警視庁における籠城事件の犯人で、何者かに射殺されてしまう元警察官の八重樫哲也を演じるのは小澤征悦。緊迫した籠城シーンでの渾身の演技に共演者やスタッフも息をのんだ。「映画作りの楽しさを再認識しました」と本人も撮影を楽しんだ様子。
及川光博の見せ場
初の『相棒』での映画に挑戦した及川。この夏の猛暑の中の連日のハードな撮影に「ひと夏をささげた甲斐がありました!」と十分な手ごたえを感じていた。特命係が事件に関わるきっかけとなる、エレベーター前で銃を持つ八重樫から圭子を救い出す冒頭のシーンでは、和泉(聖治)監督の意図と指示を的確に把握、小西や小澤と呼吸をあわせ絶妙なタイミングでの芝居を見せている。
また、「警察官の日常を覗けるシーンはテレビではなかなか余裕がなくてやれないんですが、今回は映画ですから作ってみました」と西平敦郎プロデューサーが語る大河内との剣道シーンは、及川自身もコスプレ感覚で楽しんだと言う。さらに、本人が自信作というファン必見の見せ場(!?)もあり。
警視庁は仙台にあり!?
今作は主に警視庁内が舞台だが、そのロビーや廊下などの撮影は仙台の宮城県庁で行われた。
実際の警視庁に近い雰囲気で撮影が可能なロケ場所を探したスタッフが、全国のフィルムコミッションの協力を得て見つけたのが、宮城県庁だったのだ。
撮影クルーが訪れたのは、撮影も中盤に入った7月16日からの4日間。金曜日の県庁業務終了後から3連休中、現地スタッフやエキストラの万全の協力の下で撮影が進められた。広いロビーは、美術スタッフの丁寧な飾りこみで警視庁らしい佇まいとなり、俳優たちの味わい深い演技とあいまって映画ならではの奥行きのある画となっている。
また、撮影終了後には水谷、及川ら俳優陣とスタッフたちは仙台の味覚に舌鼓。のびのびとした杜の都のさわやかな風は、慌しい撮影の合間の一服の清涼剤だったといえる。
巨大な会議室、長大な廊下
冒頭の籠城シーンなど、主要な警視庁内の部屋は東京・東映撮影所の最新にして最大のスタジオである6ステージに建てられた。立て籠りの行われるメインの会議室は122平方メートル、畳約74畳分で、どんな角度でも撮影ができるように天井付近まで作りこまれたもの。さらに、普通セットでは考えられない、消失点が見えそうな長大な廊下は約52メートルで、歩きながらの芝居も自在に行えた。美術部渾身のこのセットがあったからこそ、緊迫の籠城シーンや、機動隊やSITが群れる迫力の映画ならではの画が作れたといえる。
なお、お馴染みの特命係や組織犯罪対策部、「花の里」のセットは、いつもの12ステージに建てられた。映画撮影終了後も、引き続きテレビシリーズ(シーズン9)の撮影に使われている。
フィリピンで爆破
劇中、重要な意味を持つの爆破シーンは、日本国内では実現不可能な迫力を求めて、フィリピンまでロケに赴いた。「相棒」チームが前作やテレビシリーズで組み、抜群の信頼を寄せている現地のスタッフは、ハリウッド映画なども手がけるプロ中のプロ。港での船の大爆破という迫力のシーンを、爆破の規模、爆風の強さ、火柱の高さなどを計算しながら、テキパキとセッティングする。クレーンに乗せたりといろいろな角度から狙ったカメラ3台で収められた爆破の映像は、「スケジュールはキツかったですが、行った甲斐がありました」と今村勝範ラインプロデューサーも納得の出来だった。
8月13日、3泊4日のフィリピンロケを終えて撮影クルーが帰国。これを持って、約1ヶ月半に及ぶ『相棒-劇場版U- 』の撮影は終了した。