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モンゴル編 撮影日記

ゲルの奥、遠くに見える列車
ゲルと遊牧民
モンゴルの大草原には、‘ゲル’と呼ばれる移動式住居が点在している。緑の平原にポツリポツリと見える白いテントのような建物と、のんびり草を食む馬や羊たち。いかにもモンゴルらしい風景である。ある日そのゲルと列車が同じフレームに入る場所を探していた時、一軒の良いゲルを見つけた。すると、コーディネーターのニャムカがずかずかとゲルに入っていき、戸惑う僕を尻目に旧知の仲のように家主の奥さんと話し始める。奥さんはミルクティーやらチーズやらクッキーを出し、ニャムカは遠慮なくそれをたいらげていく。「知り合いなの?」と僕。「全然」とニャムカ。しばし談笑した後、「OK。外で撮影する事は伝えました。犬が邪魔にならないようにして下さるそうです。行きましょう。」と。ちょっと待って。何のお礼もしなくて良いの?と慌てるが、「お土産でもあれば渡すが、今は無いので別に構わない。どこかでまた会うこともあるでしょ。」と。
聞けば、旅する事を常としてきた遊牧民にとって、ゲルはいわば砂漠のオアシスのような存在らしい。旅人は長旅の疲れをゲルで癒し、家主は旅人から様々な話を聞いて情報を得る。「東で羊が草を食べ過ぎたので、次の営地は西の方が良い。」といった具合に。集落という共同体に根ざし、コミュニティの中で関係性を築いてきた農耕民族の日本人と違い、モンゴル人は ‘その日お互いが出来る事をする。出来ない約束はしない。’というのが常なのだ。だからよく言われた事がある。それは「歌を聞かせろ」という事。歌であれば体ひとつあれば良いし、モンゴルの人は歌を聴くのも歌うのも大好きだ。「お前の国にある歌は、何を歌うんだ。自然か?動物か?」と。
きっとモンゴルには、お中元やお歳暮という慣習は向かないだろう。毎年贈って贈られての付き合いを、モンゴルでは必要としないからだ。そもそも去年と同じ場所に贈ったとして、今年も同じ場所にいるとは限らないのだから。
ディレクター 萩原 翔
草原でバスケをする子供たち
野菜栽培をするグナージャブさん一家