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フランス編 撮影日記

レ・マシーン・ド・リルのゾウ
尽きない昔話
撮影6日目、「哀しきアラカン撮影隊」はロワール川河口近くの港町ナントにいた。ナントは1998年のフランスW杯で日本がクロアチアと戦った町。初めてのW杯出場だったから大枚をはたいて見に行った。クロアチアのサポーターに囲まれながら君が代を歌った時の高揚感を思い出す。試合は0対1で惜しくも敗れた。中田ヒデの絶好のパスを中山ゴンが決めていれば、とがっくり肩を落とす私をクロアチア人のオジサンが慰めてくれたが、にらみ返してしまった。ゴメン。
14年前はサッカー・スタジアムへ行っただけ。町は全然見なかったので楽しみにしていた今回の再訪。すごく面白いものに出会うことができた。機械仕掛けの動物マシーンを集めたアミューズメント・パーク、レ・マシーン・ド・リルである。翼竜を思わせる鳥、巨大なアリや芋虫、そして背中に人間を乗せて歩くゾウ。どれもボディが木彫りで出来ているせいか温かみがあり、機械仕掛けがむき出しになっているにもかかわらず妙なリアリティがある。何だかおとぎの国から飛び出てきたような別次元の生き物を見るような感じがした。
翌日、列車に2時間ほど乗り、北大西洋のビスケー湾に面した港町ラ・ロシェルへ。ここは、まだ20代半ばでADだった頃にコニャックの取材で来たことがある。港の入口に建つ2つの古い塔だけは覚えていた。その近くで、レポーターを務めた今は亡き俳優の渡辺文雄さんの、「この港からコニャックが世界へ運ばれていった」というようなコメントを撮影した・・・と思う。まだ4分の3インチ・テープで収録していた時代だ。携帯電話もパソコンもカーナビもなく、地図だけを頼りに私はロケ車の運転もした。それでも順調に撮影は進んでいたのだから不思議である。これから先の時間より過ぎ去った時間の方が長いオジサンたちは、今日も昔話に花を咲かせながら麦畑や海辺で列車を待っている。
ディレクター  福本 浩
ラ・ロシェルの旧港の風景
レ・マシーン・ド・リルのアリ