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「スカンジナビア撮影日誌1」

22. Janvier (Dimanche)
午後2時過ぎ撮影スタッフとは別に、パリからコペンハーゲンに入る。着陸体勢に入り高度を下げ始めた飛行機の窓から、真っ白な雪に覆われたデンマークの田園が見えて来た。冬の北欧ならではの斜めの陽光に照らされて、木々のシルエットが雪の上に模様を描いている。撮影への期待感が胸の中で膨らんでくるのを感ずる。着陸後、メールをチェックすると、撮影スタッフを乗せた飛行機は、東京が大雪のため3時間近く遅れて離陸したとの知らせが入っている。到着ロビーのカフェで、デンマークの生ビールを飲みながら待つことにする。所でこの生ビール、中ジョッキで何と一杯約1000円もする。北欧の物価は高いと聞いてはいたが、ここまで高いとは…。2時間後、到着ゲートへ移動。コオディネーターと合流。結局スタッフが到着したのは午後7時過ぎ。今回は氷点下での撮影が多いためカメラが2台、いつも以上の機材だ。昼間は良い天気だったのに空港を出ると雪が降っている。せっかく膨らんだ期待感が少し萎えて来る。しかし、今回の撮影の主題は冬景色にあるので、これぞ望んでいた天気だと、自分に言い聞かせ、気を取り直す。

23. (Lundi)
7時30分ホテルを出発。北欧の冬は白夜の反対で明るくなるのは8時過ぎ、従って辺りはまだ真っ暗だ。まず車で2000年に完成したばかりの国境の橋、オアスン海峡大橋を渡り、スウェーデン側へ。大橋のたもとで列車を待つ。凍った海を見るのは初めての体験だ。持参した温度計を見ると氷点下4℃だが、今回のロケの為に用意した防寒具のお陰でそれ程寒さは感じない。機材も正常に動いている。これなら何とかなりそうだ。橋を渡る列車を撮影し、マルメ中央駅へ。この駅はスウェーデンの南の玄関口で歴史ある駅だ。平日の昼間なのに駅構内は結構混み合っている。到着した列車の先端に氷柱(つらら)がこびり付いているのを発見、改めて厳しい寒さを認識する。道路が凍結することも多いこの季節、列車はより確実な交通手段といえそうだ。この駅でちょっと困ったのはトイレ、この国では公衆トイレは有料なのだ。今日泊まっているのはデンマークで、スウェーデンのお金は持ち合わせていない。仕方ないので、両替をしてから再度向かい用を足す。たかがトイレに行く為に20分もかかってしまった。昼食後コペンハーゲンへ戻ると、空が晴れ始めた。午後3時でもう空が夕焼けに染まる。中々ロマンチックな旅の始まりだ。
 
ディレクター 狩野喜彦
コペンハーゲンの街並
コペンハーゲン中央駅にて
マルメ中央駅に停車中の列車
「スカンジナビア撮影日誌2」

24. Janvier (Mardi)
7時30分、コペンハーゲン中央駅へ。外は改修中だが、中は高い天井の堂々とした駅で、ちょっとしたアーケード街のようだ。行き来する人々の中で目をひいたのは自転車をひきながら歩いている人。北欧の国々は自転車を利用する人が多く、自転車専用道路も整備されており、自転車を持ち込める列車もある。9時03分発の列車に乗り込む。今回は2台カメラを持ってきているので、一台は車内を取り終わった後運転席へ、もう1台は車窓の風景を撮る。出発後15分程すると国境のオアスン海峡大橋を渡り35分程でマルメへ。かつてはフェリーで1時間近くかかったと言うから便利になったものだ。マルメ駅で多くの乗客が下車し、新しい乗客が乗って来た。車窓から薄い雲に覆われた太陽が、鈍い光を放っているのが見える。スカンジナビアの冬の太陽だ。コペンハーゲン出発後およそ1時間でルンドに到着し下車。駅前の広場、大聖堂を撮影。昼食後、粉雪舞う雪原を走る列車を2カ所で、4本撮って宿泊地マルメへ。

25. (Mercredi)
予定では9時48分発の列車に乗車予定だったが、国鉄がくれたチケットが7時49発だったので、7時過ぎには駅に向かう。この駅はスウェーデンでも最も古い歴史を持つ駅のひとつで、駅舎の中に飾られた古い写真を撮ってからカルマル行きの列車に乗車。定刻に出発した列車の中で夜明けを迎える。乗客は少なく、車内は静か、車窓の風景も雪景色が続く為、運転席へ。運転席では新米運転手の研修が行われており、その真剣な表情に好感が持てた。客車に戻り終点カルマルまで乗客と風景を撮りながら行く。この一帯はガラスの王国と呼ばれる地域で、ガラス工房が点在している。カルマル駅では、ホーム越しにカルマル城が見えて中々の景観、列車と絡めて数カット撮影。昼食後、町の中心街、凍った港を撮影後、ガラスの王国へ。途中で列車の走りを2つ撮って、コスタボタ社のガラス工房に到着。アーティストのKjell Engman氏のアトリエと作品を撮る。ガラスの特性を見事に引き出した作品はどれも興味深い。19時からガラス工場で昔から行われていたというヒットシルと呼ばれるディナー・パーティを撮影。シルとはニシンのことで、元々は職人たちが、溶鉱炉の余熱でニシンを焼き、酒を飲み交わしていたことから始まったという。このパーティで振る舞われるニシンもウォッカも美味で、民族音楽の演奏と共に楽しいパーティだった。
 
ディレクター 狩野喜彦
マルメへ向かう車内にて
ルンドへ向かう列車
ガラス工房
「スカンジナビア撮影日誌3」

26. Janvier (Judi)
朝、カルマル城の内部を撮影。印象的だったのは城からの凍ったバルト海の眺めだ。かつては「カルマルを支配することが、バルト海を制することになる」と言われたのが納得出来た。その後17~18世紀に建てられた木造家屋が並ぶ街角を撮って車でヴェクショーに向かう。天気は雪。幹線道路をはずれ農道に入り列車の走行シーンを撮影するポイントを探す。踏切から約100m離れた所に、線路がカーブした絶好のポイントを発見。辺り一面雪が積もっていて、線路の近くに行くのが大変だ。車を降り積もった雪をかき分け、線路際に到着。カメラの橋添君とビデオエンジニアの鈴木君が、大きな穴を掘り三脚を立てる場所をつくり、腰まで雪の中に埋もれながら列車を待つ。列車は鈴木君が時刻表と地図から計算した時間にやって来てくれ、中々のカットが撮れた。その後、今度は道路際に線路が見えるポイントを発見。再び鈴木君が素早く列車の通過時刻を割り出す。「7分後に列車が通過します」鈴木君の言葉通り列車が通過。これまた、いいカットだ。それにしても、鈴木君は理系の人間で計算が速く正確で、列車の走りを撮る時は大助かりだ。

ヴェクショーに到着すると、雲が切れ、晴れ間が出始めた。駅で列車の到着を撮った後大聖堂へ。二本の細い塔を持つ大聖堂が、陽射しを浴びて輝く。久し振りに見る青空に心が躍る。凍った湖も、雪の中で遊ぶ子供もみんな輝いて見える。最後に夕焼けに染まる空をバックにした大聖堂を丘の上から撮っていると、日本に息子が留学しているという女性が声を掛けてきた。チャ ンネル名と番組名を教えてあげると、嬉しそうにメモを取ってくれた。息子さんに伝えるのだという。息子さんが東京で、この番組を見てくれたら、とても嬉しいことだ。

27. (Merucredi)
9時30分、駅に向かい、近郊列車から降りる乗客、待合室等、駅の朝の表情を撮る。ホームから見えるカルマル城が朝日に照らされ美しい。10時57分ヨーテボリに向かう為にコペンハーゲン行きの列車に乗る。一昨日と同じ路線だが天気が良いため、風景だけでなく人々の表情まで輝いて見える。空には熱気球が浮かんでいたりして、気分爽快だ。ヘッスルホルム駅で、ヨーテボリに向かう特急列車X2000に乗り換える。途中大雪が降っている地域を過ぎると、再び太陽が顔を出し始めた。冬のスカンジナビアの美しい夕陽だ。やがて列車は黄昏のヨーテボリに到着。
 
ディレクター $B
カルマル城
ヴェクショーの大聖堂
ヨーテボリ駅にて、X2000
「スカンジナビア撮影日誌4」

28. Janvier (Samedi)
ヨーテボリのホテルは、新しい駅舎の中にあるホテルで、廊下の窓からホームが見下ろせるという絶好のロケーション。そこで朝食後、早速ホームの様子をガラス越しに撮る。降りしきる雪の中に佇む列車の姿は、何処か哀愁を湛えていて味があった。9時、駅へ出向き、新しい駅舎と古い駅舎を対比させながら撮影。新しい方にはコンビニを始めとして色々な店があって便利に出来ている。一方古い方にはノスタルジックな雰囲気のコーヒーショップがあって中々味わい深い。それぞれの個性がうまく重なり合って一つの駅として機能しているところに感心させられる。その後車で湖の畔にX2000の走行シーンを撮りに出かける。降りしきる雪、凍った湖、樹氷を纏った木々、湖でスケートを楽しむ元気な子供たち、そして無彩色の世界を走り抜けるX2000。真冬ならではのカットがいくつも撮れた。
午後からは粉雪に煙るヨーテボリの町、港を撮影。暗くなってから町を縦横に走る路面電車に乗り込む。乗客たちは、最初は取っつきにくい印象だったが、撮影が進むうちに、打ち解けてくれ、親しみやすい表情を浮かべてくれた。中でも髪を赤く染めたお洒落な若い女性の微笑みが印象的だった。オレンジ色の街灯の光の中に浮かびあがる町をみていると、ふと30年以上前に流行ったサンタナの『哀愁のヨーロッパ』の旋律が脳裏をよぎった。そうだ、この町の回にはBGMにこの曲を使おう。

29. (Dimanche)
ストックホルムに向かうX2000は、予定を変更して1時間早い、8時42分発に変更して乗車。昨日撮影した湖を通過する頃、朝陽が昇り始めてグッドタイミング。車窓を流れる風景も、乗客たちの表情も陽光に照らされ活き活きとして見えた。
ストックホルム到着後、天気が良いので先ず市庁舎の外観を撮って、町を見下ろす丘に登る。冬の斜めの陽射しは、町を美しく輝かせる。ストックホルムは「世界中で、最も美しい首都」と言われているそうだが、確かに頷ける光景だ。
昼食後、郊外に出てメラーレン湖の畔にあるマリーフレッドに向かう。美しいフォルムの白い教会、雪化粧をした湖、そしてその畔に佇むグリプスホルム城…、すべてが夕陽を浴びて印象派の絵画のようだ。よく僕たち撮影関係者は、陽が沈む間際の時間を、斜光が風景に陰影を与えてくれるため『魔法の時間』と呼ぶが、冬のスカンジナビアは一日中この時間が続いていると言えそうだ。勿論、寒いし、日照時間は短いけれど。
 
ディレクター 狩野喜彦
ヨーテボリにて
ヨーテボリ近郊を走るX2000
ストックホルムの街並
「スカンジナビア撮影日誌5」

30. Janvier (Lundi)
9時ホテル出発。郊外の町シグテューナに向かう。気温は3度と、とても暖かい。シグテューナに近い郊外列車の駅、マーシュタ駅に立ち寄りストックホルムから到着する列車を撮影。スウェーデンに来てから見かける列車はみんな新しいスマートな列車だったが、この路線を走るのはちょっと古い列車で、何となく親しみが湧く。
シグテューナの町は、スカンジナビアで一番小さいと言われる市庁舎と、11世紀頃建てられた教会の遺跡で知られる町で、小さいながらも、ストックホルムより古い歴史を持つ町だ。木造の小さな市庁舎、今は廃墟と化した教会遺跡、カラフルな色で塗り分けられた家並、すべてが箱庭のようにまとまっていて、撮影しても楽しくなる。このような歴史ある町がさりげなく残されている所に、この国の懐の深さを感ずる。
町の前に広がる凍ったメーラレン湖では、氷上を滑って行くスケーターに混じって、生まれたばかりの孫をソリに乗せてひっぱる老人の姿が印象的だった。この国の人々は冬の楽しみ方を心得ているようだ。
午後は、ストックホルムに戻り地下鉄に乗車する。駅を飾るモダンアートが、殺風景になりがちな地下鉄にアクセントを与えていて、駅を巡るだけでも結構楽しい。車内では、アニメから抜け出てきたような格好をした若い女性に遭遇。何かのイヴェントの帰りかと思い尋ねると、これが普通の格好だと笑う。この町では駅だけではなく乗客もモダンアートのようだ…。

31. (Mardi)
午前中に、市庁舎内の黄金の間を撮って、昼食後はマーシュタ駅に向かう郊外列車に乗車。気温は5度とまた上がったため、雪が溶け始め風景はあまり美しくない。寒いのもつらいけれど、気温が高いのも困りものだ。
その後、世界的に有名なポップグループ『アバ』のメンバーが経営するホテルのバーを撮影し、旧市街へ。暮れゆく空の下、灯りがともった冬の町並も味があるものだ。
夕食後駅に向かい、22時12分発のルーレオ行きの夜行列車に乗車する。運転席、食堂車、寝台車を巡り深夜まで撮影。寝台車では、若いお母さんと男の子がベッドに入るシーンに出会う。興奮する子供と、それをなだめるように本を読んで聞かせる母親。何となく心温まるシーンだ。カメラを意識することなく、自然に振る舞ってくれた二人に感謝。
深夜、機材置場と化したコンパートメントで、機材をかき分けバスルームに入り、暖かいシャワーを浴びる。今日も長い一日だった。
 
ディレクター 狩野喜彦
マーシュタ駅に停車中の列車
メーラレン湖にて
ストックホルム地下鉄駅
「スカンジナビア撮影日誌6」

1.Fevrier (Mercredi)
朝5時起床。橋添君と鈴木君が機材を担いで運転席へと向かう。真っ暗な世界を走る運転席からの眺めは、幻想的で美しかったとの報告を受ける。明るくなり始めたウメオ中央駅で、運転手が代わり、機関車を付け替える。一旦客車に戻り、乗客たちの朝の表情を撮る。我々も撮影を予定しているヨックモックの祭りに向かうという人が何人かいた。その後再び二人は運転席へ、太陽が顔を出し始めた運転席での研修は、若い運転手の表情が真剣で、良かったとのことだ。その後、車窓の風景を撮る。一旦は顔を出し、風景を輝かせてくれた太陽だったが、すぐに雲間に隠れ、ルーレオに到着時には吹雪き始め、まだ1時を回った所なのに暗く、まさに北に来たという印象だ。ホテルにチェックイン後オフ。

2. (Jeudi)
早朝、暗闇の中を積もった雪をかき分け、線路際で列車の走り、凍った河畔で町のロングを撮る。気温は氷点下15度だが、まだまだ本格的な寒さではないという。朝食後は、まず雪の中を走る列車を撮影。列車が通り過ぎる時、舞い上がる雪の礫を浴びるが、なかなか迫力のあるカットが撮れた。その後世界遺産に登録されているガンメルスタットという町へ。雪の中に佇む白い教会と、その周りに建てられた巡礼者たちの宿泊所だったという赤い家並が美しい。昼食後はルーレオの町の表情を撮る。我々には暗く厳しい寒さも、降りしきる雪も、
この一帯に暮らす人々にとっては日常なのだ。夕方から、近郊にある鉄道博物館へ。展示されている雪かきを付けた蒸気機関車や、発電車も興味深かったが、最も凄かったのは除雪車だ。爆撃機のプロペラ程もある巨大な扇風機を付けたその姿は、この一帯の積雪量を象徴するかの様だった。

3. (Vendredi)
6時37分発の列車に乗車。客車、食堂車で乗客たちの表情を撮る。車内は暖かく皆リラックスしていて良い表情が撮れた。車窓から見る日の出が美しく太陽が崇高なものに思えて来る。イエリヴァーレで下車し、先住民サーメ人の町ヨックモックへ向かう。ここでは一年に一度の祭りが開かれている。トナカイのソリや犬ゾリが観光客を乗せて走り、通りには毛皮のコートや帽子を始め、トナカイのソーセージといった食料品まで、サーメ人ならではの品物が売られている。暗くなると町はお祭りで盛り上がっているが、気温は氷点下30度に下がり、さすがに寒さが身にしみる。サーメ人の逞しさに脱帽だ。川の畔でオーロラが出るのを待つが、残念ながら出ず。
 
ディレクター 狩野喜彦
ルーレオ近郊
イエリヴァーレに向かう車内にて
日の出の車窓
「スカンジナビア撮影日誌7」

4. Fevrier (Samdi)
朝5時から、オーロラが出るのを待機するが残念ながら出ない。7時半イエリヴァーレに向かってホテル出発。途中で車のバッテリーが上がってしまう。通りかかったサーメ人に助けてもらい、何とか列車の出発に間に合う。空は晴れ渡り銀世界が広がる。車内でウクライナ、イタリア、インドからやって来たという学生たちに出会う。風景を撮影していると、トナカイの群れが見えた。白銀の中を走るトナカイの姿は感動的だ。あっという間にキールナ着。町の広場で、ダイヤモンドダストを見る。こんなことが当たり前なところが、冬の北極圏の凄さだ。夜はオーロラを待つが、今日も駄目だった。

5.(Dimanche)
早朝からオーロラを待ったが出ない。空撮は氷点下20度以下なので、無理とのことで明日に延ばす。代わりに列車の走りを撮る。天気が良いほど気温が下がる、困ったものだ。駅を見下ろす鉄橋から列車が出発するのを、しばし待つが全く出発の気配がない。調べてみると今日は日曜日で、ダイヤが違うとのこと、やれやれだ。しかしその代わりにと言っては何だが、教会のミサが撮れた。午後、アイスホテルに向かうが、内部と外の温度差がありすぎてレンズが曇ってしまって撮影不可能。カメラを一台ホテルに預け、明日再度試みることにする。夕方サーメ人の村、放牧されたトナカイを撮る。温度計は遂に氷点下30度を回った、寒い!オーロラは今夜も出ず。

6. (Lundi)
昨日とうって変わって雪。空撮断念。鈴木君が耐震装置を作ったのだが、試すことが出来なくて残念。午後はアイスホテルに向かう。今日はいい感じで撮れた。その後、イエリヴァーレの公園でスノーフェスティバルと題された雪の彫刻を撮影。規模は小さく素朴だが中々の力作だ。今夜もオーロラ出ず。

7. (Mardi)
ノルウェーのナルヴィーク行きの列車に乗車。車内でアウトドア用品を持ったオランダ人のカップルに出会う。この寒さの中、アビスコ国立公園でキャンプするのだという。装備さえしっかりしていればロマンチックな夜になるのかもしれない。アビスコ東駅で下車する二人を見送る。国境を越えノルウェーに入ると風景が変わった。切り立つ谷底に水が見える、フィヨルドだ。列車はフィヨルド沿いに走り、終着駅ナルヴィークに到着。ヨーロッパ最北の駅だ。夏は観光客で混み合うと言うが、冬は閑散としていた。
昼食後丘から町とフィヨルドを撮影。最果てに来た、という気がして来た。
 
ディレクター 狩野喜彦
イエリヴァーレ駅に停車中の列車
キールナ駅にて
アイスホテルにて
「スカンジナビア撮影日誌8」

8. Fevrier (Mercredi)
9時30分スキー場へ。特別にロープウェイを動かして貰い、山の中腹に登る。時折雲間から射す光、雄大なフィヨルド、そしてナルヴィークの町、冬ならではの風景だ。その後、北極点まで2407kmと記された標識、町の表情、列車の走りを撮影。15時、小さな船でロフォーテン諸島に向かう。フィヨルドから外海に出ると、海は荒れていて、船が結構揺れる。船長の話では、今年は悪天候の日が多く、本来なら始まっているはずの、鱈の干物作りもまだのようだ。島の撮影のメインにしようと思っていただけにちょっと残念だ。とっぷりと日の暮れた19時過ぎ、 スヴォルヴァールの港に到着。月が迎えてくれた。

9. (Juedi)
7時、夜明けの港を撮影。昨夜は暗くて分からなかったが、港の周りは切り立った岩山に囲まれていたことに気付く。昇り始めた朝日の中、昨日乗った船が出航して行った。一旦ホテルに戻り、現地のガイドと合流。気が付けば天気は吹雪に変わっている。ガイド氏の話では、ここでは一日の中に全ての天気があるという。吹雪の中、何カ所かのポイントを巡り撮影するが、あまりに凄い降りになってきたので、ガイド氏と別れ、ヘニングスボーの町にあるパブで待機。パブの主人は、見かけは無愛想だが、とてもいい人で、コーヒーと鯨の塩漬けをご馳走してくれたうえに、鱈を干している場所を教えてくれた、感謝。天気が回復し、青空の下で、鱈の干物を撮るが、あっという間に再び吹雪。北極みたいな風景を撮影しながらオーの町に到着。夜はこの島独特のロルブーと呼ばれる漁師小屋に泊まる。季節はずれこの季節、レストランも開いていないので、近くのスーパーで、食料を買って自炊。たった一晩の滞在なのが残念だ。

10. (Vendredi)
7時発のフェリーに乗り、本土のボードーへと向かう。雪に覆われた、氷山のような山々が、海の向こうに見える。雄大と言うには、あまりに荒々しく、美しいと言うには、あまりに厳しい地球の素顔。ふと、哲学的な気分になってくる。11時、ボードーの港に到着。漁港で、甘海老を売る漁船を発見したので、早速撮影。この町では、みんなこうして直接漁師から魚貝を買うそうだ。
昼食後、丘の上から町の俯瞰を撮影。ナルヴィークもそうだったが、よくぞこんな場所に町を造ったものだと感心する。よく見ると駅に列車が入って行くのが見えた。久し振りに見る列車だ。
 
ディレクター 狩野喜彦
ナルヴィークの駅にて
干し鱈
ロルブー
「スカンジナビア撮影日誌9」

11. Fevrier (Samedi)
9時ホテル出発、ボードーの住宅街を走る列車を撮影。カラフルな家並みをバックに走る列車の姿が健気で微笑ましい。その後フィヨルドに沿って走る線路を辿りながら、撮影ポイントを探す。雪に覆われた畑を抜け、歩くことおよそ20分ようやく良いポイントを発見。ほぼ予定した時刻に列車の汽笛が聞こえる。橋添君がカメラをフィヨルドからパーンして、列車を捕らえる。「アレッ?」橋添君が小さな声を上げる。走ってきたのは2両編成列車で、トロンハイムに向かう列車と違うのでは?仕方ないのでそのまま撮影を続ける。列車が通過後ふと今日が土曜日であることに気付く。この路線は、金曜と日曜は乗客が多いため、4〜6両編成だが、その他の日は2両編成なのだ。まあ、撮れた映像は中々良いので、予告には使えそうだということでOK。午後は土曜で走る列車も無いのでOFFにする。

12. (Dimanche)
8時30分ホテルをチェックアウト、まず町を見下ろす丘に登り列車の走りをロングで撮り、駅に向かう。駅舎の階段の壁にこの路線が敷設された頃の古い写真が飾られているのを発見し撮影。モノクロームの写真からは工事の困難さと、開通したときの喜びが伝わってくる。
出発30分前、列車内の撮影に同行してくれる鉄道員と合流し、列車に乗り込む。この路線からは常に2台のカメラを回すことにする。橋添君のカメラはまず運転席、鈴木君のカメラは最後尾に陣取り出発を撮る。その後も、橋添君が車内の人々を中心に、鈴木君が風景を担当し、およそ10時間、夜のトロンハイムに到着するまで、2台のカメラを回し続ける。

13. (Lundi)
朝、駅で8時25分発の列車の出発を撮った後、トロンハイムの町を撮影。この町は、大きく蛇行するニード川の畔に広がる古都で、町全体から積み重ねられた歴史が漂ってくる。午後からは牡丹雪が降り始め、木造建築が並ぶ旧市街を包み込み、中々ロマンチックだった。夜は22時10分着の列車の走りを撮りに出掛けるも、残念ながらまた短い車両だった。

14. (Mardi)
8時25分発の列車に乗り込みリレハンメルへ向かう。2台のカメラは順調に回り、4時間半の旅もあっという間に終わる。ビデオエンジニアの鈴木君も、カメラを肩に、乗客に簡単なインタヴュウをするなど、もう立派なカメラマンだ。リレハンメルでは、オリンピック公園、町を撮り、17時からはジャンプのラージヒルの練習を撮る。ジャンプを間近に見るのは初めてだが、中々迫力のあるスポーツで感動した。
 
ディレクター 狩野喜彦
ボードー駅
リレハンメルに向かう車内にて
リレハンメルのジャンプ台
「スカンジナビア撮影日誌10」

15. Fevrier (Mercredi)
9時出発。降りしきる雪の中、鉄橋を渡る列車、ダムの畔を走る列車を撮影後駅へ。12時57分発のオスロ行き列車を待つ間にホットドッグの昼食を採る。この国では物価が高く、ホットドッグとコーラで約¥1500。予算内で収める為には仕方ないか、でも味は旨い。ほぼ定刻に到着した列車に乗り込み、車内の様子と車窓の冬景色を撮りながらオスロへ。到着後国鉄のマーケティング部長がコーヒーをご馳走してくれる。番組のカレンダーを渡すと興味深そうに見入っていた。駅前の雰囲気を撮り、暗くなってきたので撮影を終了。
さて、それからが大変、今朝になって、理由は分からないが、突然ホテルがオスロ市内から郊外に変更されたのだが、それが郊外と言っても高速道路を2時間近く走った場所にあり、辿り着くのに大わらわ。久し振りにオスロで和食を食べようかと思っていたのだが残念だ。おまけにこの距離では、明朝列車の走りを撮影するためには、4時には出発せねばならず、スタッフの体力と気力を考慮してあきらめる。

16. (Jeudi)
7時ホテル出発。オスロ市内に9時近くに到着。港から町の遠景を撮影後、 ヴィーゲランの彫刻が並ぶフログネル公園へ。雪の中で見る彫刻群は、かつて夏に訪れた時と全く異なる印象で、見応えがあり撮影しがいがある。雪を被った彫刻の表情はとても哲学的で、ふと人間の生について考えさせられた。
午後からは、王宮で衛兵の交替式を撮った後、中央駅の近くにある郵便局の屋上に昇らせてもらい、到着する列車の走りを撮影。その後国立美術館に向かい、ムンクの作品『思春期』『叫び』を撮影する。午前中の ヴィーゲランの彫刻もそうだが、この国の芸術家は独特の感性を持っているようで、意識が引き込まれて行くのを感ずる。いつか彼等を主題にした番組を作ってみたいものだ。
今夜はオスロ市内にホテルがとれた。

17. (Vendredi)
8時11分発の列車でミュールダールに向かう。日本から携帯メールに、インターネットで調べたところ、これから向かうフロムは晴れとの情報が入るが、外は相変わらずの雪。途中で乗り込んできたスキー合宿の子供たちに日本語を教えながら撮影を続けていると、段々雲が切れ始め、ミュールダールに到着した時は快晴になる。フロム鉄道に乗り換え、谷間のダイナミックな風景を撮影。フロム到着後、観光局の親切な女性に車で谷に送ってもらい、列車の走りを二つ撮って終わる。
 
ディレクター 狩野喜彦
フログネル公園
雪の中の衛兵交替式
フロム鉄道
「スカンジナビア撮影日誌11」

18. Fevrier (Samedi)
8時30分出発、フロム渓谷を車で行ける所まで行き、2台のカメラを使って列車の走りを撮る。谷の道は途中から凍っていて危険を伴うのでポイント探しに苦労したが、ロングとアップで何とかカットを稼げた。あらためて谷を走る列車を見ていると、本当に凄い場所に線路を敷いたものだと感心させられる。その後フィヨルド・クルーズの船に乗り込む。船はシーズンオフの為、想像していたよりも小さな船で、乗客も20人程だったが、中々楽しめるクルーズだった。沢山の人を乗せた夏の豪華船よりも、自然の厳しさ、そこに暮らす人々の逞しさを身近に感じられてかえって良かったのでは…。勿論吹きさらしにデッキの寒さは尋常ではないけれど。クルーズ終了後、昼食を取り、今度は山の上に登り、フィヨルドを見下ろすカットを撮って終わる。

19.(Dimanche)
8時30分出発。午前中に昨日とは違うポイントから二つ列車の走りを撮った後、11時05分フロム発の列車に乗り、もう1度列車の中からフロム渓谷の眺めを撮りながら、ミュールダール駅へ向かう。到着後オスロからの列車に乗り換えベルゲンへ。今回のロケで最後の乗車だ。テープの残量に余裕が出てきた為、2台のカメラを思う存分回す。天気は快晴で、標高が下がるごとに風景からは雪が消えて行き、まさに春の訪れを目で見ているような感じだ。14時52分定刻通りベルゲン到着。町は麗らかな陽射しに包まれ、人々の表情も活き活きとして見える。日没まで、港周辺の雰囲気を撮って終わり。時計を見ると6時少し前、日も長くなったものだ。

20.(Lundi)
いよいよ今日で、今回のロケが終りだ。嬉しい気分と寂しい気分が半々といったところか…。9時過ぎから魚市場、港、世界遺産のブリッゲン地区を撮った後、町の背後にある山に登るケーブルカーに乗車し山頂へ。山頂から見るベルゲンの町は降り注ぐ陽射しを浴びて美しく輝く。気温は13度、ついこの間まで氷点下30度の世界にいたことが信じられないくらいだ。午後からは列車の走りを二つ撮って、今回のロケを終了する。振り返れば、極寒の中での撮影、カメラ2台分の機材で埋まった車での移動等、厳しいことが多かったが、その分だけ充実していたロケと言えるかも知れない。スタッフの頑張りと北欧の人々の親切に感謝だ。そういえば、このシリーズが放送される終り頃には、番組も20周年に突入する。記念すべき1回目を担当した僕としては、何とも感慨深い気分だ…。
 
ディレクター 狩野喜彦
フィヨルドを望む
フロム渓谷を行く
ブリッゲン地区
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