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ニュージーランド編撮影日記
ニュージーランド撮影日記1

「車窓のロケで、夏のニュージーランドに行かないか」という話が来たとき、胸が躍った。「世界の車窓から」の番組がスタートしたとき、私が石丸謙二郎さんをナレーター候補としてプロデューサーに推薦したのが、長年の私の自慢だ。しかし、私はずっと違う業界といえるCMディレクターだったので「やりたい」と手を上げてもなかなかチャンスが巡ってくることはなかった。だから「いよいよ来たか」という感慨で鼻息は荒くなった。しかも今回は美しい大自然、季節は夏と、気持ちいいロケを勝手に想像して、私は意気揚々とニュージーランドに向かった。

カメラマンの中村健さんは「車窓」の最初の回を担当し、以後何カ国も撮影している。私とは20年ぐらいの付き合いで、たくさんのCMや自主映画も撮ってもらっている。カメラ・アシスタントは健さんの撮影助手の堀金伸一郎さん。彼も「車窓」を何本か経験している。そして初めての私と、3人はオークランドを経てまずクライストチャーチに到着、ここでコーディネーターのアスカさんと美人ドライバーのスザンナと顔合わせした。12時20分に空港に着いたばかりなのに、14時過ぎにはもうクライストチャーチの大聖堂周辺の撮影を開始。CM畑の人間には、ドキュメンタリー番組の、いつでも、どこまでもカメラが回っていくスケジュールに、わかっていても面食らうのだった。

今週は南島のタイエリ峡谷鉄道の撮影から。始発駅のダニーデンがあるオタゴ半島でイエローアイドペンギンとアホウドリの保護施設を訪ねた。天気は雨模様、「夏のニュージーランド」なんてとんでもない冬のような寒さ。すぐにスザンナに防寒着を買ってきてもらう。ペンギンもアホウドリも今は抱卵期だそうで、その姿は隔離されていて近くで見ることはできなかった。

以前はニュージーランド国営鉄道の駅だったダニーデン駅。モザイク装飾、ステンドグラスと風格ある美しさに魅了されて、私たちはなんと3回も撮影してしまった。今回は紹介できなかったけれど2階には「スポーツ・ホール・オブ・フェーム」という、なかなか見事なスポーツ博物館もあった。タイエリ峡谷鉄道に乗り込むと、ディーゼル車の匂いも、乗客のカメラに対する笑顔も、乗務員たちのサービス精神も、出会うもの全てがものすごく新鮮で興味深く、戸惑うほどだった。私の初めての「車窓」の旅は、遥か前方に果てしなく続いているように感じられた。

ディレクター 宮崎祐治

ダニーデンの街並
ダニーデン駅
鉄橋を渡るタイエリ峡谷鉄道の列車
ニュージーランド撮影日記2

南島で観光列車としては一番人気があるというトランツ・アルパイン。
クライストチャーチを出てウエストコーストのグレイマウスに向かう。晴れていれば美しいサザン・アルプスの山並みが展望車から望めるとか。しかしアーサーズ・パス国立公園に列車が近づくにしたがって天気は下り坂。山は低い雨雲に覆われていた。撮影というものは「水商売」といわれるくらい天候に左右される。雨の中でも勿論カメラは回るけれど、不自由極まりなく、気持ちも弾まない。アーサーズ・パスの駅に着いてビジターセンターやカフェを訪ねてもトラッキングの人はまばら。近くのデビルス・パンチボウル滝を撮影するために雨の中ヘビーな石の階段道を皆ハアハア言いながら上ったが、いちばん景観のいい所にたどり着く直前で道は閉鎖されていて、がっくり。仕方なく遠景で我慢する。

カメラマンの中村健さんは子供と動物を撮影するのが大好き。なぜか彼がカメラを担ぐと子供や動物が向こうからやって来るように思える。アーサーズ・パスでもキーアという鳥のオウムはやって来てくれるし、ワァーワァーと林間学校の子供たちが現れて雨の中でも楽しそう。賑やかなカットを取ることができた。健さん様様だ。

ニュージーランドの列車は、どの路線も遅れ気味。タイムテーブルどおりに走ってくれない。しかもトランツ・アルパインは毎日上り下り1本ずつ。沿線近くで列車が走ってくるのを待ち構えて撮影しようとしても、なかなか列車がやって来ない。2時間待って、雨に降られることもあった。カメラの後ろで優しい美人ドライバーのスザンナが、皆を慰めてくれるように「カモン、トレイン」と叫んでくれたが、タイミング悪く丁度雨が降って来たりして、「カモン、レイン」に聞こえたくらいだった。カメラ・アシスタントの掘金さんの「カメラを出すと必ず雨が降り出しますね」という言葉に苦笑いするしかなかった。

何とも雨ばかりの今回のトランツ・アルパインの旅。少々元気なくクライストチャーチへ帰り車を走らせていたが、もうとっくに通過したはずの列車に追いついた。急遽クルマの窓から併走カットを撮ることに。美人ドライバーのスザンナが列車とのスピードをうまくとってくれて期待以上の走りのショットを撮ることができた。救われたようにちょっと気持ちが明るくなった。

ディレクター 宮崎祐治
クライストチャーチ駅
サザン・アルプスの山並み
アーサーズ・パス駅
ニュージーランド撮影日記3

残念ながら雨に降られたトランツ・アルパインの「乗車」の旅。その分、ヘリコプターによる空からの撮影は、出来るだけ長い時間走る列車を追いかけて、中村健さんにたくさんのカットを撮ってもらった。ヘリに乗れるのはパイロットを合わせて4人。撮影助手の堀金さんは飛行場に残されて、すこし寂しそう。実は私は 三半規管が弱いようで、特にヘリの旋回飛行が大の苦手だ。アーサーズ・パスの手前で列車がなかなか来ないのでヘリが一時着陸した。それ幸いにというか何というか、私が少し離れた所でげーげーやっていたら、パイロットがすかさずビニール袋を差し出してきた。いやはや申し訳ない限り。

蒸気機関車キングストン・フライヤーを撮影するためにクライストチャーチからクィーンズタウンへ向かう。世界的な観光都市クィーンズタウンは、ちょうど日本の軽井沢にものすごく大きな湖があるような趣。観光目的の人たちはのんびりと町を散策している。美しいワカティプ湖湖畔のこの町をどう紹介しようか思案しているうち、ついロープウェイに乗り、さらに「湖の貴婦人」と呼ばれる船アーンスロー号にも乗ってしまう。これがゆったりの優雅な航路で降りることもできず、丸々3時間のロス。列車の旅のドキュメンタリーのはずだけれど、こうなったら乗り物なら何でも乗るぞとヤケクソ気味に。

ワカティプ湖の南の小さな町、キングストンは日本の旅行ガイドブックにはほとんど出てこない。しかし、蒸気機関車ファンにはキングストン・フライヤーが走っていることで有名らしい。今回は、陽が昇る前の早朝の準備の様子からの撮影だったので、ずっと長い時間黒光りする蒸気機関車を見ていたら、私もすっかり蒸気機関車ファンになってしまった。もちろん蒸気機関車に乗ることや見ることを楽しみに集まって来たニュージーランドの人たちも、みんな笑顔で蒸気機関車を仰ぎ見ていた。蒸気機関車が走り出すと、展望車で歌ったり踊ったりするほどの更なる楽しみ方。こちらもうれしくなる。

それにしても、ニュージーランドの人たちは、突然カメラを向けても実にいい笑顔を返してくれる。日本で、もし海外からのクルーにカメラを向けられたら、日本人は彼らにこんな笑顔を見せることができるのかなと思ったりした。キングストン・フライヤーもヘリでの空撮をした。広大な草原を走る蒸気機関車は逞しく、優美でそして可愛い。スピードがゆっくりだからヘリは急に旋回することもなく、私の三半規管も今回は無事だった。

ディレクター 宮崎祐治
ワカティプ湖の撮影現場
草原を駆けるキングストン・フライヤー
展望車から風景を眺める乗客たち
ニュージーランド撮影日記4

ダニーデン、グレイマウス、クィーンズタウンと南島をグルッと巡って、再びクライストチャーチに戻ってきた。ここでロケ車を替えることになって、レンタカー屋にみんなで行く。クルマから走る列車を併走で撮影するのにドアが開け易いのを選ぶためだ。ニュージーランドは日本と同じ左側通行。日本車の新車・中古車が数多く走っている。しかし、なぜかそのレンタカー屋では撮影に便利なドアのクルマは見つからず、結局バッテリーにも不安な古いフォードになってしまった。美人ドライバーのスザンナは最後までレンタカー屋に不満顔。それでも彼女が美人なのは変わらないが。

クライストチャーチの中心街を流れるエイボン川周辺は、緑と花に溢れる清々しさ。晴れた日に公園を撮影しているとホッとして、なんだか昨日までの旅の疲れを忘れてしまうぐらいだ。エイボン川を往くゴンドラからの撮影も、のんびり気分。

夕方になって路面電車トラムを撮影するために大聖堂に向う。夏を迎えたニュージーランド、日の入りは8時過ぎ。「街の灯が瞬きだした時間にトラムが華麗に走る」映像がねらいでスケジュールを組んでいた。ところが、現場に行ってみるとはみだし路上駐車のクルマのおかげで、トラムは立ち往生というか動かないでいる。警察までやってきて、2時間後に駐車違反車のレッカー移動。やっとトラムが走り出した。しかし、というか間が悪いことに丁度その頃、雷も鳴る夕立がやってきた。最初はトラム車内を撮影していたからよかったけれど、外から走る姿を撮るために、雨の中トラムを降りた。と、突然カメラマンの健さんは脱兎のごとく走りだし、走るトラムを追いかけ始めた。こうなると私も撮影助手の掘金さんも、健さんの後に続いて走らないわけにはいかない。健さんは重いカメラを抱えているし、堀金さんは三脚を担いでいるのに、ザーザー降りの中クライストチャーチの街中を、トラムを追いかけて3人で猛ダッシュ。驚いたのはその後ろに女性コーディネーターのアスカさんが走ってついて来たことだ。

こうして4人はトラムを追いかけて、びしょびしょに濡れながら全長2.5キロの距離を走り抜いた。街の人が何人か私たちを見て笑っていたが、撮り終えたときには、みんなさすがに大満足。いつもは、撮影後一回ホテルに戻って機材を置いてからの夕食なのだが、勢いで濡れ鼠のまま一気に日本食屋に飛び込み、乾杯してしまった。

ディレクター 宮崎祐治
エイボン川のゴンドラの漕ぎ手
エイボン川の川岸
車に道を妨げられるトラム
ニュージーランド撮影日記5

南島の路線のラストは、トランツ・コースタル。海岸線を走るので、晴れていると気持ちがいい映像が撮れそうだ。ヘリコプターによる空撮が途中から曇ってしまったり、カイコウラの町でピンポン球級のヒョウに降られたりはあったが、ほぼ晴天に恵まれた撮影だった。カイコウラでのホエール・ウオッチングが前半のハイライト。この周辺のことを美人ドライバーのスザンナがやけに詳しいので聞いてみると、結婚しようとしている彼とカイコウラの近くに住むつもりで家を探しているとか。なるほど彼女、見晴らしのいい丘や感じのいいレストランをよく知っている。気候的にも素晴らしく、羨ましいかぎり。

マッコウクジラが見られる海域まで行く船での2時間は、ものすごく遠く感じられた。船が大きく揺れ気分は最悪だったこともあるが。やっと目の前に現れた3頭のクジラはほとんど動かず時々潮を吹くだけ。カメラの中村健さんは、潜る瞬間の尾ビレのカットを辛うじて撮れてホッとしていた。1回逃がすと1時間は潜ったままだとか。ほんの一瞬の出来事。それでも一緒に乗船した観光客は、みんな「ビューティフル!」を連発していたから、それだけの貴重な映像ではあるのだろうけれど。

ブレナム駅を降りて、訪ねたワイナリー「Cloudy Bay Vineyard」で飲んだワインがおいしかった。すぐ沿線で走ってくる列車を撮影するため、ワイナリーにいた時間は30分にも満たないが、親切なワイナリーのプレスの女性の好印象もあって私はすっかりこのワインのファンになってしまった。日本に帰ったら、絶対買ってまた飲もう。

終着駅ピクトンの港町も、小さくまとまった感じでとてもよかった。歩いて何処へでも行ける。モーターボートでマールボロ・サウンズまで足を伸ばして、キャプテン・クックの上陸記念碑のあるところで撮影。ほとんど観光客もいない、波の音だけが聞こえる静かな海岸。クックが愛した海峡というのも頷ける。ガイドブックにあった、ニュージーランドにヨーロッパから入ってきたヒツジ上陸第一号がここという話の正誤を、ピクトンの人に聞いてみたら、「それはないね」と一笑に付された。

夜フェリーに乗って北島に向かう。実は夕景の中をフェリーでウエリントンの港に入っていくシーンが後半のハイライトのつもりだったのだけれど、出航が2時間遅れて外はすっかり暗闇になり、撮影は不可能。おかげで3時間の、のんびりとした時を久しぶりに過ごすことができた。

ディレクター 宮崎祐治
マッコウクジラの尾
ブレナム近辺のワイナリー
マールボロ・サウンズの撮影風景
ニュージーランド撮影日記6

ウエリントンの最初の朝。美人ドライバー、スザンナとはここでお別れだ。別れ際に私と健さんと堀金さん、それぞれにニュージーランドの鳥キーウイの小さな人形と手紙をくれた。女の子はこういう優しさがいい。替わって登場の北島のドライバーはクリントン。映画「華氏911」の監督マイケル・ムーアに似た太った中年男。みんなすぐにスザンナのことを思い出して、寂しくなる。

ウエリントンの撮影はトランツ・メトロから。南島にはなかった「都市の電車」の様子を撮らえるのが目的だったのだけれど、ウエリントン駅の警備は厳しく、混雑時の駅構内と車内の撮影は許されなかった。観光中心の、全体にのんびりした南島と、北島はちょっと違っていた。人々の顔も町も緊張してしまっている感じ。朝の駅から出てくる人の数も、東京を思い出させる。そうだ、ウエリントンは首都だったのだ。結局トランツ・メトロの撮影は、郊外に向かう空いた下り電車でおこなった。天気は雨。乗客も静かだった。
ニュージーランドでは車内の携帯電話の使用が許されている。まだそれほど普及してないのか、マナーがしっかり守られているのか、電話している人は何人か見かけたが、東京でやっているようなルール無視の携帯による、不快感を覚えることはなかった。

午後になって天気は急速に回復。風が強くなって一気に晴れ渡る。そうだ、ウエリントンは港町だったのだ。街の様子を撮るのに初めて市街地を歩くと、晴れたこともあって人出も多い。ニュージーランドにもこんな大都会があったのかという印象だ。
続いて市内と丘の上のケルバーンという住宅地を結ぶケーブルカーを撮影。こんな町なかの狭く小さな路地からケーブルカーがひょいと出ているというのが面白い。トンネルを抜けると、すぐに町じゅうを望める高台とつながっている。頂上にある植物園も風の通り抜けが気持ちいい、美しい所だった。

次の日は日曜日。クルマでパーマストン・ノースまで足をのばしてクリケットなどを撮影した。帰りに下り列車の走りを沿線から撮るために、ロケ場所探し。やっと見つけた景色のいい踏み切りで、夕方6時にやって来る列車を待ち構えたが、これがぜんぜん姿を現さない。人も車も通らない場所で待つこと2時間30分。カメラを構えたままで時間つぶしのお喋りもみんな話題が尽きるほど。漸くやって来た列車はライトを点け、周りの風景はほとんど夕闇の中だった。ニュージーランドではタイムテーブル通り電車は来ない。

ディレクター 宮崎祐治
ウエリントンの大都会
ホームに着くトランツ・メトロ
坂を登るウエリントンのケーブルカー
ニュージーランド撮影日記7

北島のほぼ真ん中に位置するナショナルパーク駅に到着するころ天気は、またまた下り坂の予報。ここの拠点となるタウマルヌイのモーテルに向かった。タ・ウ・マ・ル・ヌ・イ(マオリ語の地名は何度聞いても発音できない)は、山岳地帯の小さな地方都市といった雰囲気。国道沿いに200メートルぐらいの範囲に建物や商店が並んでいて、後はぽつぽつ家屋や工場が点在している。「僕はこれから一生、二度はここに来ることはないでしょうね」と撮影アシスタントの堀金さんが呟く。

トンガリロ国立公園は火山性の2,3000メートル級の名山が3つ並ぶ美しい山岳公園だけれど残念ながらここも雨模様。それでも今回は山の中へ入り込んで、不思議な植物を撮影した。川の音だけが響くニュージーランドの森の奥で日本人が4人、雨に打たれて蜘蛛の巣や苔を撮影している図は不思議な感じだ。

翌日ラウリム・スパイラルという螺旋状に線路が敷かれた様子を空撮で撮ることになっていたのだけれど、この日も霧が出ている。さあ空撮を決行するか否か、決心のしどころの時。この辺りで個人経営しているヘリコプターのパイロットの「平気だよ」という意見に誘われるように、あららという間に上空へ。しかし、やはり山の天気だ。霧の合間を走る列車を上空から捜しながら撮るしかなかった。明日の、乗車して撮影するカットとうまく編集でつながるのか。「明日は晴れませんように」といういつもと違う思いで、タウマルヌイのモーテルに戻った。
町へ行くとレストランは皆無。前日と同じモーテルについているレストランで夕食。山の中のせいかメニューも少なく、あまりおいしくない。食事中のみんなの顔は「早くタウマルヌイを抜け出したい」といっているようだった。

次の日は、やっぱり晴れの天気だった。午前中タウマルヌイからクルマで2時間タウポ湖まで足をのばす。ニュージーランドでいちばん大きな湖というだけあって、ものすごく広い。あまりにとりとめがなくどう紹介していくか、とりあえずフカ滝や蒸気を噴出すクレーター・オブ・ザ・ムーンと撮影していく。なんだか観光地めぐりになってしまったかな。

ディレクター 宮崎祐治
タウポ湖の撮影風景
タウマルヌイ付近で撮影した列車
タウマルヌイの街並
ニュージーランド撮影日記8

ニュージーランドの全人口のうち、マオリの人口は15%だそうだけれど、旅を続ける間マオリの人をたくさん見かけたし、目立っていたような気がした。15%よりもっと多いようだった。いくつか他の国の原住民を見てきたけれど、マオリの人がいちばんヨーロッパ系の人と溶け合っていると思った。今回のロケでも各地でたくさん登場、活躍してもらっている。

ハミルトンの外れの、マオリの集会所を訪ねた。ガラーンと誰もいない。奥のほうから女性がひとり出てきて「ここの代表者は、今日は留守で、取材の約束は知らない。集会所も外観の撮影もだめ」という。困り果てて、結局彼女に「マオリの歌」を一曲歌ってもらうことにした。民族衣装も今はこの辺ではあまり着ないそうで、家の前でTシャツのままというものになったが、逆に素朴な感じでいい歌のカットが撮れた。

撮影も終盤。ハミルトンの手前の沿線A地点で列車の走りを撮り、すぐに移動してB地点でハミルトンを出た列車の走りを再度撮ろうということになった。つまりハミルトン駅に列車が停まっているうちに追い越せば、2回撮れる。一日上下一本しか走っていないから、こういう苦労は仕方がない。絶対撮り逃がさないように、A地点からB地点までクルマを走らせて、どれくらいかかるかまでリハーサルした。本番では、A地点で撮影中にドライバーのクリントンにエンジンをかけて待機してもらうほどの念の入れようだ。撮り終わるとダッシュでクルマに乗って100キロのスピードで約一時間のB地点への移動。間に合うかのスリルとサスペンスの道行だった。「絶対間に合いますよ。」と堀金さん。今回のロケは、この人のいつも前向きで陽性な姿勢に、精神的に何度か救われた。
B地点に着くと、列車は行ってしまったのかまだ来てないのかどちらかわからない。やっと列車がやってきて撮影ができたときは、さすがに涙が少し出るくらいうれしかった。しかも、さらに私たちは遅れ気味の列車を追いかけて併走で列車のカットを撮り、またさらに夜の光の中を走る姿を撮るという、ものすごい勢いで撮影した。まさに収穫の多い最後の1日が終わった。

オークランドにロケ車が辿り着いたのは夜の10時。ほんとうにぎりぎりまで撮影していたのだけれど、そのぶん充実感はあった。翌朝9時に、東京行きの飛行機に乗る。

ディレクター 宮崎祐治
マオリの集会所で出会った女性
沿線で列車を待つ撮影クルー
B地点の列車
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タイ・マレーシア・シンガポール篇撮影日記
タイ・マレーシア・シンガポール編の撮影日記が、中村ディレクターから届きました!
モロッコ篇撮影日記
モロッコ編の撮影日記が、狩野ディレクターから届きました!