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誰にでも記憶に残る旅、というのが一つや二つはある。修学旅行だったり家族旅行だったり恋人との初めての旅行だったり、きっとそれは人それぞれだ。僕のささやかな人生にもそういうのがひとつふたつくらいはある。

18歳のころ、一人旅がやってみたくて、しかもお金がないから、JR(あの頃はまだ国鉄だったけど)の普通列車周遊券を買って旅立った。ユースホステルに泊まりながら、東北を一周した。どんなことが起きてなにが楽しかったのかいまではなんにも覚えていないけれど、一人旅をしたんだ、という事実とその甘い感傷だけは年とってからもはっきりとした記憶として僕の中に残っている。でも、あの旅行、どこが楽しかったんだろう。ユースホステルで夜、泊り客がホールに集めさせられて、ミーティングと称して、フォークソングを無理やり歌わされるのがとてもいやだったということだけははっきり覚えているけれど。五能線という小さなローカル線の列車から見た風景、りんごの木とざらざらの日本海が心に沁みた。

大人になって、初めてニューヨークに行った。JFK空港からマンハッタンに向かうタクシーの中で、橋の向こうに摩天楼が見えてきた時、「ああこの街はすべて映画だ」と思った。頭の中で勝手に音楽が鳴り始めて、自分が映画「タクシードライバー」の中のストーリーにすっぽり入ってしまったように思えた。
もっと大人になって、フランスのワインで有名なブルゴーニュ地方に行った。なんにもない原っぱから5人乗りの熱気球に乗った。横にいる僕の10歳になる娘が身を乗り出して広大なぶどう畑を眺めているのを見た時、「ああ人生なんてあんまりくよくよすることないのかもしれないな」とぼんやりと思った。
さらに、中年になって、イタリアの真ん中あたり、トスカーナ地方に行った。なんでもない町のなんでもないレストランに入ってなんでもないパスタを食べた時、「この国の人たちはどうしてこんなにうまいスパゲッティを作れるんだろう」と激しく感動した。

さらに年をとって、倉本聰さんのドラマ「北の国から」で有名な富良野の麓郷という町に行った。あのドラマの最初のシリーズの最終回では、いしだあゆみの書きかけの手紙が出てくるのだけれど、その中に「こんなに綺麗な雲、かあさん何年ぶりで見た」という台詞がある。麓郷の町で空を見上げた時、確かに、そうだ、東京で見ていた薄汚い雲は一体なんだったんだろう、とびっくりしてしまった。本当に本当に雲の色と形が綺麗だった。
そんなふうにして、僕らは時々、無性に旅に出たくなる。どうしてなんでしょうかね。
<若>
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