さまざまな事情で実の親と暮らせない児童たちを家庭的環境の中で育てる里親制度の充実が、近年強く求められています。こうした中、当事業団では2019年度、子どもと里親のファミリーを対象とした参加型の新しいプロジェクトを実施しました。第1回は、長野県・白馬で、元オリンピック選手らプロのインストラクターによる本格的なスノーボード、スキーのレッスンを受け、冬の花火などのイベントも楽しむツアーとして企画しました。雪山で一緒に一つのことにチャレンジし、汗を流して語り合い、里親と子どもの絆を深めるのはもちろん、里親同士、子ども同士の横のつながりを拡げることで、孤立しがちといわれる里親間の協力や連携を促進し、質の高い里親養育へとつなげる一助にしてもらうことが目的です。
初の企画でもあり、今回はテストケースとして開催。関東甲信越静里親協議会に所属する計8家族26人が参加しました。内訳は大人14人、大学生2人、中・高校生2人、小学生8人です。スノーボード、スキーのレッスンを含め、全体の運営にあたっては公益財団法人神奈川県スキー連盟所属 野獣会スノーボードクラブのボランティアのみなさんに全面的な協力をいただきました。
◆新雪、絶好のコンディションの白馬へ◆
出発は2月7日(金)夜。大人たちは仕事や用事を、子どもたちは学校や部活を終えて次々と新宿駅そばの集合場所に集まり、さっそく夜行バスに乗り込みました。暖冬で記録的な雪不足が心配されていましたが、前日から長野県・白馬一帯はかなり冷え込み、ようやく大雪になると伝えられ一安心。簡単な自己紹介を終え、お休みタイム。24時をまわって大町市のホテルに到着、この日は注意事項だけ受けて早々に部屋に入りました。
8日(土)の朝、起きるとホテルのまわりも一面の雪景色に。朝食もそこそこにスキーウエアに着替え、午前9時、バスでいざスキー場へ出発です。会場のHAKUBA VALLEY
鹿島槍スキー場は白馬エリアで一番南側にあり、ゲレンデから白馬山麓を望むロケーション。夜中からの雪でふわふわの新雪が数十センチ、更ににわか雪がどんどん降り積もっているという最高のコンディションになっていました。
一同がバスを降りると、クラブのみなさんのてきぱきとした誘導で次々と準備を整え、さっそくボードをもって集合場所のテントへ集合。あまりに雪がふわふわなので子どもたちはコロコロ転がったり雪をかけあったり大はしゃぎでしたが、まずは開会式。そして最初は、バンクーバー、ソルトレイクシティの冬季オリンピック日本代表選手を含むクラブの凄腕のメンバーによるデモンストレーションです。遠いゲレンデの上から、合図を受けて初心者の滑り方、今回みんなが目標にする滑り方、とスタイルを変えて滑走するのを見学。最後は元日本代表選手としての本気の滑降。猛烈なスピードときれいなシュプールに圧倒され、思わず「スゴイっ」と歓声が上がりました。
イメージトレーニングができたあとは、いよいよクラス分けです。自由に滑る大人、見学の大人を除いて、レッスンを受ける参加者は計20人。全くの初心者から中級クラスまでさまざまです。が、元日本代表選手、プロ選手、プロのインストラクターら総勢11人が手分けして、スキー、スノーボードごとに、レベルに応じていくつかのクラスに分かれ、手分けして受け持ってくれました。さっそくボードに「よく滑れる魔法だよ」と言ってワックスを塗ってくれたり、大きな掛け声で準備運動を一緒に始めたり、手慣れた様子でレッスンをスタートしました。
◆元日本代表選手らがマンツーマン指導◆
スキーのレッスンは合計15人。超初心者の小学生4人はまず雪に慣れることからスタート。ブーツで雪の上を歩いたり雪合戦をしたりすることから始めて、リフトに乗る練習へ。午後からは、足への体重のかけ方を学ぶため、ストックなしでゲレンデへ出てリフトで上へ。そこからインストラクターが密着して、足の「ハ」の字にしてゆっくりターンをして降りてくる練習を繰り返すとみんなめきめき上達し、最後はストックなしですいすい滑れるようになっていました。
初級・中級合体クラスの11人は、慣らしも早々に、急斜面がある中級コースへ。固い急斜面を滑降する際の体重移動のコツを教わりながら、みんな次々とターンをマスター。こうなると新雪はとても滑りやすく、みんなで掛け声をかけながらハイスピードで滑降していきました。最後は、狭くてスピードコントロールが難しい「林道コース」にもチャレンジしました。
スノーボードは5人の受講にインストラクター5人、文字通りのマンツーマンでした。超初心者はゲレンデ自体が全く初めてという小学生2人。足をボードに乗せるところから繰り返し練習を始めましたが、最後はボードを担いで登っていき、転びながらも滑って降りられるようになりました。大学生らが参加したそれ以上のクラスは、元日本代表選手らから直接インストラクターを受けるというまたとないチャンスにヤル気を出してどんどん上達、何本もこなしていました。
午後3時にはレッスンを終えてテントに集まり、閉会式。子どもたちも大人も、ていねいに教えてくれたインストラクターのみなさんともすっかり仲良くなって、和気あいあいのうちに終了しました。
◆車座になって語らい◆
ホテルに戻り、温泉に入って一休みしたあとは懇親会です。参加者全員、インストラクター、みんなのレッスン中、映像撮影をしてくれたクラブのみなさんが大広間に集合。自己紹介を兼ねて感想を語り合ったり、お互いのことを話し合ったり、にぎやかなひとときを過ごしました。途中から、子どもたちは雪が積もったホテルの庭に出て、クラブのみなさんが用意してくれた手持ち花火でミニ花火大会。都会では花火をする機会もめっきり減ったためか、ドラゴン花火や線香花火で大はしゃぎ。
一方、大広間に残った大人たちは、だれが言い出すともなく座布団を持って車座に集まり、里親としての自分の体験や悩み、各地域での里親を取り巻く環境、教育の問題などについて話し込んでいました。インストラクターで参加した方々は、こうした席でも里親ファミリーと接して交流を深めてくれました。
午後8時を過ぎると、ホテル内にも近くで大きな太鼓が響く音が聞こえてきました。ホテルがある大町温泉郷で2月の土曜日だけ開催する「夢花火と音の祭典」というイベントが始まったので出かけることに。ホテル向かいの林の中にステージがあり、地元の人々が数十人で和太鼓を叩く「大町流鏑馬(やぶさめ)太鼓」を披露していました。気温はマイナス10度を切っていましたが、激しい太鼓の音に誘われて会場は宿泊客らでかなりの人出。ステージの上は何人もの奏者の熱気で湯気がみえるほどです。MCに誘われるままに、ファミリーの子どもたちも他の子どもたちと一緒にステージに上がって、MCの合図で和太鼓にチャレンジさせてもらいました。一面の雪景色の中、フィナーレに大きな花火が何発も打ち上げられては林を照らし、幻想的で思い出深い一夜となりました。ホテルに戻って、お世話になったクラブのみなさんとはここでお別れです。いつまでも手を振って別れを惜しむ姿がみられました。
9日(日)は朝から快晴。くっきりと白い山々が青空に映える素晴らしい天気となりました。荷物をまとめて午前10時すぎに乗車。高速道路から富士山や諏訪湖を眺めながらバスは順調に進み、楽しかったことや感想を語ってもらっているうちに、午後3時には新宿駅そばに到着。解散となりました。
◆里親の協力連携の契機に◆
今回の事業を通じ、参加した里親ファミリーからは「親も参加しての企画はあまりなく、子どもも揃って非日常空間を心から楽しめた」、「地域内では里親の交流はあっても、広く他の地区の方々と知り合い、お互いのことを話せたのは有意義だった」、「いろんな立場の大人に大切してもらえた実感が子どもたちの自己肯定感につながる」、「子どもたちが、自分だけが特別ではない、同じ子どもがいるんだと思える機会となった」といった声が聞かれました。
また、今回、レッスンやアレンジにあたってくれた野獣会スノーボードクラブのみなさんは、里親ファミリーを受け入れるにあたってどう接するか、どう楽しんでもらうか、何度も集まって議論を重ねてくれたそうです。終わってみて、「自分たちこそ学ぶことができた。里親についても身近なこととして理解でき、自分をアップデートすることができた」、「インストラクターを通して自分の壁を越えられるということを体験してもらえたと思う」などと話してくれました。
親と暮らすことができない子どもたちの社会的養護にあたっては、国は施設養護から家庭的養護への転換を図る方針を打ち出しています。しかし、里親の引き受け手が思うように増えない、里親になって養育上や地域・教育の問題に直面したり特別視されたりする悩みがあっても、相談する人が少ない、など幾多の問題を抱えています。
今回のような機会を通して、里親同士、支援団体の協力や連携、ネットワーク強化につなげていただけることを期待しています。一方で、今回多くの方々に協力していただきましたが、里親ファミリーと直接触れ合い、語り合う機会を通して、一人でも多く里親や社会的養育について理解を深めていただけることを願っています。
日程:令和2年2月7日(金)~9日(日)
参加人数:8家族26人
場所:HAKUBA VALLEY 鹿島槍スキー場・立山プリンスホテル(長野県大町市)
主催:テレビ朝日福祉文化事業団
後援:関東甲信越静里親協議会
協力:(公財)神奈川県スキー連盟所属 野獣会スノーボードクラブ・HAKUBA VALLEY 鹿島槍スキー場・立山プリンスホテル
さまざまな事情で実の親と暮らせない児童を家庭的環境の中で育てる里親制度の充実が近年強く求められています。一方で、里親の引き受け手が思うように増えず、里親養育による子育ても複雑かつ困難なものになってきている状況です。こういった問題を、里親同士の繋がり(ピアサポート、ピアカウンセリング)により支援していこうというのが、各地域の里親会の役割です。
しかしその活動状況は志ある役員による手弁当の活動が主となっていて、役員には高齢里親も多いため、各地域の里親会では次世代リーダーの育成が急務となっています。
そこでこのたび、関東ブロックの19都県市の里親会によって組織される関東甲信越静里親協議会の主催で「次世代人材育成セミナー」が初めて開催されました。テレビ朝日福祉文化事業団は後援・助成という立場で、この里親会の活動を支援させていただくことになりました。
2月8日(土)、大井町駅近くの会議室に、関東ブロック広域から20名の若手里親が集まりました。それぞれ異なる地域、里親会からやってきた参加者は、お互いに面識もなく、少し緊張した面持ちでした。
まずは、有識者の講演。一橋大学大学院社会学研究科の猪飼周平教授を講師としてお招きし、「子どもに『よりそう』とは何か」をテーマに講演していただきました。
里親に限らず、全国の子どもたちの保護者や、教育機関・医療機関の教職員などが、子どもに「よりそう」ということを無意識に行っています。しかし「『よりそう』とはいったいどんな行動なのか?」と問われると、なかなか言語化が難しいものです。これを猪飼教授の専門である社会学の視点で、「よりそう」とはいったい何なのか、日本の社会福祉システムにはいったい何が足りないのか、社会的養護の子どもたちに必要な支援は何なのかを、解き明かしていく講演でした。
既存の社会福祉制度のセーフティネットでは、どうしても「こぼれ落ちてしまう人」が出てきてしまう構造欠陥があり、全てのこぼれ落ちた人を拾う支援が必要だとの視点は目から鱗でした。また、「里親とは社会に足りていない支援を供給する尊いプロジェクトだ」とのお言葉は、とても勇気づけられるものでした。
続いては、グループワークの時間。参加者が4つのグループに分かれ、里親会が里親や里子にどのような支援をしていくべきかを議論し、大きなシートにまとめました。
各地域の里親会によって、支援のやり方や内容が異なることはもちろん、里親の在りようも様々なようで、情報交換の場としてもたいへん有意義なものだったようです。他の参加者のお話に「なるほど」「それいいですね」といった反応が多くみられ、参加者それぞれが、それぞれの地域の里親会の課題をみつめ、持ち帰りたいヒントをたくさん発見されていました。
夕方、ホテルのお部屋にチェックインした後は、お食事をしながら交流会。里親同士、情報や意見の交換は尽きるところがなく、どうやら二次会まで盛り上がったようです。
翌日の朝は、グループワークの発表から。グループによってシートへのまとめ方も異なりますし、発表内容もそれぞれですが、自分の参加したグループの議論を皆に共有し、さらに議論を深めることで、より建設的な意見の交換ができたように思えます。
続いて、2人目の有識者の講演。NPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事、安藤哲也さんをお招きし、「未来型リーダーとは」をテーマに講演していただきました。安藤さんは2006年にファザーリング・ジャパンを立ち上げて以来、父親の子育て支援に取り組まれている、「イクメン」「イクボス」推進の第一人者。ご自身の体験談を交えて、笑いのある具体的で有意義なお話をしてくださいました。
「パパが意識や働き方を変え、家庭での役割を果たすことで、ママの幸福感が変わる」との主張は、たいへん示唆に富んだお話でした。パパ次第で家族全体のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が変わるのです。
また、これからは優劣重視の「サル型」のボスではなく、優しさを兼ね備えた「ゴリラ型」のボスが求められるというお話は、参加者がそれぞれの里親会で役割を果たす際にも参考になるお話だったと思います。
今回参加していただいた方々は、各都県市の里親会で今後リーダー的な立場に立つだろう方々で、それぞれの家庭だけでなく、里親会、里親制度、社会全体を良くしていこうという思いを持っている方々です。その思いを語り合うことで、それぞれがモチベーションを高めあう場としても、このセミナーはたいへん有意義なものになったと思います。
国は施設養護から家庭的養護への転換を図る方針を打ち出していますが、安易に里親の人数を増やせば良いというものではありません。今回のような機会を通して、里親同士の連携や、里親を支援する里親会の強化につなげていただけることを期待しています。
≪参加者の感想から抜粋≫
日程:令和2年2月8日(土)~9日(日)
場所:アワーズイン阪急(東京都品川区)
主催:関東甲信越静里親協議会
後援:テレビ朝日福祉文化事業団
児童養護施設で暮らしている子どもたちによる発表会、「子どもキラット!楽演祭」を、11月17日(日)、東京・虎ノ門のニッショーホールで開催しました。通算8回目となった今年は、東京都、神奈川県、埼玉県の計12の施設が12演目を披露しました。見学者を含めた参加者は約500人。3時間半にわたって次々と繰り出される子どもたちの発表を楽しみました。
このイベントは、児童養護施設の指導者らから、子どもたちの日ごろの文化活動の目標となる発表の場がほしいという声があったのを受けて、2012年、音響、照明、進行やゲスト出演などを自分たちで組み立てられるテレビ局らしい特色を生かし、コンサートホールで開催をスタートしました。演目は毎年、合唱、創作ダンス、ハンドベルなどの楽器演奏、日本舞踊、お笑いなど多岐にわたります。幼児から高校生まで、子どもたちはこの日のステージに向けて、施設によっては先生や卒園生も一緒になって夏休みも欠かさずに練習を重ねるなど熱心に取り組んでおり、年々レベルも上がっています。
秋らしい晴天に恵まれたこの日、子どもたちは施設の車や電車で午前9時すぎから次々と会場に到着。順番にリハーサルに臨みました。司会はテレビ朝日の住田紗里アナウンサーと、「高校生の海外生活体験の旅2019」に参加した児童養護施設の高校2年生男女のコンビ。舞台でスポットライトを浴びるのは初めてという2人ですが、あまり緊張した様子もみせず、住田アナとともに念入りに台本をチェック、インタビューの質問などを確認していました。
午後1時半、杉村事務局長の挨拶、関係者の紹介、東京都福祉保健局から頂戴したお祝いのメッセージ披露のあと、さっそく演目がスタートしました。
トップバッターは、八丈島太鼓。4台の大きな太鼓を横向きに台座にのせ、両側から2人で勢いよく打ち込みます。息を揃えて次々とリズムを変化させていく力強い演奏で一気に客席を圧倒させ、迫力ある幕開けとなりました。続いて「ダンス」。「パプリカ」などの有名曲やヒップホップに乗せて、半年間練習してきたという小学生中心の6人のユニットが、曲ごとにメンバーを入れ替えながら楽しそうに踊ってくれました。次は一転、美しい音色の「トーンチャイム」。子どもたちの希望で発足したクラブ活動で、今回はだれもが聞き覚えのあるディズニー映画からの楽曲。音を合わせるのが難しいトーンチャイムですが、楽譜がまだ読めずみんなで教えたという幼少の子たちも一緒に、全員で綺麗なメロディーをつくりあげていたのが印象的でした。
続いては、高校3年生女子によるダンス。広い舞台の中央にたった1人で立ち、K-POPグループのメドレーをダイナミックに、切れ味よく踊り切りました。次いで、小中学生28人によるコーラス、総勢43人による創作舞踊と、舞台いっぱいの出演者による華やかな演目。そして、菊、桜、藤を表現し「花づくし」というテーマにした日本舞踊。小学2年生から高校3年生までの優美な踊りでしっとりと終えました。そして、特別ゲスト「にゃんこスター」が登場して、会場を沸かせ前半を締めくくりました。
さて、後半はきれいなハンドベルからスタート。難曲ばかりでしたが、きらきらする音色とメロディーを会場に響かせました。続いて激しくノリのよいヒップホップダンス。自分たちで振り付けも考えただけあって、速い動きにもかかわらず息のあったところをみせてくれました。そしてお笑いです。コンビとトリオの二組で、子どもたちの爆笑をさらいました。前回「キラット!」デビューしたこのお笑いですが、すでに施設内で単独ライブをやるほどの人気だそう。今後は外でのライブ活動も目指すと意欲を燃やしていましたが、インタビューで「なぜお笑いをやろうと思ったの?」と聞かれ、「笑っている間は幸せになるので、笑いを届けてみんなに幸せになってもらいたいと思ったから」としっかり答えていました。
続いては、舞台の背景いっぱいの映像も使った創作ダンス。「愛にできることはまだあるかい」をテーマに、メンバーの一人ひとりの思いを映像や動きで表現してみせました。途中で卒園生男子2人が披露したヘッドスピンなど難しい技を駆使したアクロバティックなブレイクダンスには、思わず「すごい」という声が上がりました。発表のラストは、幼児、小学生から職員まで42人で歌う合唱。いつもこの「キラット!」出演のために希望者を募集して活動をしているだけあってレベルも高く、指揮のユニークな先生のもとで楽しそうに歌い、会場を元気にしてくれました。そしていよいよ迎えたフィナーレは、参加者全員で「幸せなら手をたたこう」を合唱。住田アナの誘導で子どもたちが一斉に舞台に。全員大きな声で歌い終えると、大きな拍手に包まれました。そのまま記念写真を撮影し、今年も華やかに幕を閉じました。
当事業団としては、このイベントが、いろいろな年齢の施設の子どもたちが、一つの目標に向かい、何カ月もかけて練習や創作に取り組み、そのゴールとして大きな晴れ舞台に立って達成感や一体感を感じてもらう機会になればと考えています。他の施設の子どもたちの様子や発表をみることもまた、よい刺激になることでしょう。共催の東京都社会福祉協議会児童部会、後援・助成いただいた原田積善会、後援のテレビ朝日、施設関係者にこの場を借りて感謝いたします。
≪参加施設へのアンケートから抜粋≫
日程:令和元年11月17日(日)
場所:ニッショーホール(東京都港区)
主催:テレビ朝日福祉文化事業団
共催:(福)東京都社会福祉協議会 児童部会
後援:(公財)原田積善会・テレビ朝日
児童養護施設で暮らす小・中学生に、岩手県・遠野市の農家に滞在して生活や農作業を体験してもらうプロジェクト、7回目の「農村ホームステイ体験の旅」を8月17日から5日間の日程で開催しました。施設での生活や都会の環境から離れて、さまざまな人々や慣習、文化に触れて視野を広げ、積極性・社会性・協調性を養い、自立性を高めるのがこの事業の目的です。
応募者の中から書類審査、面接で選ばれたのは小学生3人と中学生7人の計10人(女子2名、男子8名)。みんな経験したこともない農家での生活ですが、自分からチャレンジしたいという強い意欲をもって応募してきました。
初日は午前8時に東京駅に集合。引率の職員の皆さんにホームで見送られ、東北新幹線で出発しました。新幹線は初めての子もいて、駅弁を楽しみながらも一様にまだ緊張した面持ちで、車内も静か。新花巻駅に着くと、貸切バスに乗り込んで遠野駅へ向かいました。
最初の見学はちょうど駅で停車中の蒸気機関車「SL銀河」。鉄道の電化で40年以上前に姿を消したSLですが、岩手県の花巻から遠野を通って釜石に至るJR釜石線で、5年前から観光シーズンの休日だけ走っています。ホームに入った子どもたちは、真っ黒で大きな車体や大きな動輪の写真を撮ったり、機関士に話しかけて石炭をもらったりして初めてのSLを珍しがっていました。やがて大きな汽笛が鳴り、煙突から黒い煙が噴き出て、目の前で激しい蒸気音とともに動き出すと、その迫力に驚いていました。
さて、山々や田畑の風景が美しいことで知られ、元は城下町で交易の中心だった遠野は、「民話のふるさと」とも呼ばれます。「カッパ」や「座敷わらし」など、いろいろな不思議な言い伝えや物語が残っているためです。その一端を知ろうと、まずは市内をまわりました。「カッパ淵」では「遠野物語」で有名なカッパ伝説がどうやって生まれたかを伺い、キュウリを餌にカッパ釣りに挑戦。続いて、やはり「遠野物語」に登場する、恋愛の祈願が書かれた無数の赤い布がいっぱいの神社「卯子酉(うねどり)様」。さらに「熊に注意」という立て札を気にしながら登山道を上がり、江戸時代の飢饉の犠牲者を供養する仏像が岩々に彫られた「五百羅漢」、高さ2メートルもの巨石の上に、3メートルの巨石が積み重なった不思議な「続石(つづきいし)」を見学しました。
夕方は、いよいよホストファミリーとの対面式です。自分がお世話になるのはどの人なのか、子どもたちは一列に向かい合った大人たちをみて不安いっぱいの様子でしたが、名前を呼ばれると元気よく挨拶し、さっそく大きな荷物をもってファミリーに連れられ、車で家に向かっていきました。
2日目、3日目は、それぞれのホストファミリーごとに、農作業を中心に計画を立ててもらい、各自さまざまな体験をさせてもらいました。遠野でも例年より残暑が厳しく、熱中症などに注意しながらの作業となりました。
レタス農家に滞在した中学生男子は、毎朝4時に起床。レタスはとても繊細な野菜なので機械化が難しく、広い一面のレタス畑に入り一個一個手作業で収穫します。レタスの切りとり方のコツや葉のとり方を教えてもらい、なんと2日間で600個を収穫。ファミリーの農家仲間と一緒にトラックに乗せてもらい、隣の北上市まで「朝採りレタス」の出荷にも行きました。
合鴨による自然農法を行っている農家で過ごした小学生男子。早朝から合鴨に餌をやり、草むしりのお手伝いにと汗を流しました。ファミリーのお母さんと一緒に白菜の苗を植え、鹿防止のため共同作業でネット張りも。3日目には、なんと手作りの五右衛門風呂に。教えてもらいながらバランスが難しい一輪車で薪を運び、その薪を斧で割って水を沸かし、緑に囲まれて午後のひと風呂、という楽しい時間も過ごしました。
シイタケが大好物の中学生男子は、願ってもいなかったまさかのシイタケ農家にステイ。栽培する菌床が並ぶビニールハウスにこもって朝3時から作業し、早々に出荷する日々。シイタケの栽培は興味をもって勉強していたと言いますが、本職の“実地研修”を受けてどんどん詳しくなり、訪問時には、作業段階別に並んだ菌床について楽しそうに説明してくれました。しいたけの天ぷらやバター炒めなどの料理も教わり、帰京後さっそくお土産のシイタケを料理して施設のみんなにふるまったそうです。
このほか、山の上の一軒家のブルーベリー農家に滞在した小学生男子は、ブルーベリーの収穫や肥料撒きに加え、珍しいヤギの世話も体験。中学生女子は、庭の畑で色づいたトマトやナス、ピーマンなどを収穫しては、袋詰めをして直売所に運び込んでいました。もう一人の中学生女子は、帰省中の孫の女の子たちと仲良くハウスで野菜を収穫したり、馬を見に行ったり。鹿が畑に侵入しないように、どうやって電気柵を張るといいのか、自分でも考えながら手伝いました。
炎天下でじゃがいも掘りをせっせと手伝っていた小学生男子。ふだんから読書が好きで、虫の知識をファミリーに話して、とても感心されました。地元の伝統のお祭りを見学したり、収穫したたくさんの野菜を巧みな包丁さばきで調理したりした小学生男子も。いずれも、訪問すると楽しそうに今日やったことを語ってくれました。
また、B&Bにステイした中学生男子もいます。得意の料理の腕をいかして滞在中のお客様用の朝食や昼食を用意したり、宿泊客が映画撮影のクルーだったことから、その手伝いをして交流したり、一味違ったステイを楽しんだようでした。初日の午前中、ちょっと熱を出して寝込んだ小学生男子は、ホストのお母さんがつくってくれた冷やし中華を食べて復活。連日、草むしりや水やり、種まきをがんばりました。
それぞれ丸2日間の作業を終え、4日目。この日は特別学習として、2011年3月の東日本大震災の被災地、大槌町(おおつちちょう)を訪れました。朝、遠野駅から貸切バスで出発。約1時間で町内に到着しました。
大槌町は、震度計が振り切れてしまって記録が残らず「震度不明」。高さ10メートルの津波に襲われ、町民の10人に1人が犠牲になりました。役場庁舎にいた町長をはじめ職員40人近くも亡くなって行政が一時マヒするなど、壊滅的な被害を受けたところです。全域を土で平均2メートル以上嵩上げして今なお再開発の工事が進んでいます。
被害の象徴となった旧役場庁舎は、「震災遺構」として残すか残さないか、長い議論の末、この年の3月に取り壊され、今は草地。まずはそこでみんなで説明を聞き、お線香を手向け、黙とうを捧げました。次いで海に向かい、井上ひさし原作の人形劇「ひょっこりひょうたん島」のイメージの元となったという蓬莱島へ。大小2つの丘からなり文字通り浮かぶひょうたんのように見える小島ですが、陸地とつなぐ300メートルの防波堤、鳥居や灯台が倒壊。3年を経て再興され、復興の象徴となりました。ひょうたん型の屋根の大槌駅にも行きました。津波で線路が流されて長く不通だった区間ですが、8年後の今年3月、ようやく三陸鉄道として再開。流失した駅舎も建て直しました。ちょうど三陸鉄道の短い列車がホームに入ってきて、みんな歓声をあげていました。
この後、隣の釜石市へ移動し、やはり被害が大きかった鵜住居(うのすまい)町にある「いのちをつなぐ未来館」で学習。子どもたちは興味のあるコーナーをのぞいて、震災の生々しい写真やビデオを見入ったり、折り鶴を折ったり、津波の発生の仕組みや防災の説明の展示をみたりしました。
昼食をはさんで大槌町に戻り、復興活動をしてきた「吉里吉里国」(きりきりこく)を訪問。震災で壊滅した町、基幹産業の漁業の先行きが見えないほど変わり果てた海を目の当たりにし、唯一残っていた森林から地域を再生しようと立ち上げられた組織です。代表の方から、震災当日の出来事や、生々しい避難生活の様子、さらに現在取り組んでいる、森を育てる林業の話を聞きました。林業で使うチェンソーや大鋸(おおが)という大きな板のようなのこぎりをみせてもらったあと、小雨になった外に出て、志願した中学生が1人、薪割り指導を受けました。
夕方、遠野に戻り、ホストファミリーのみなさん全員との「さよならパーティー」が開かれました。料理もそこそこに、ファミリー対抗ゲーム「たたいてかぶってジャンケンポン」でトーナメント戦が開始。子ども同士が足じゃんけんをし、勝った方の大人が「ピコピコハンマー」で相手を叩き、負けた大人はザルで頭を防御する、というルールですが、大人の方がみんな、子どもたちがびっくりするほどムキになって叩くので全員大笑い。
飛び入りの演しものにも多数参加してくれました。男子中学生はキレキレのK-POPダンスを披露。ファミリーのお母さんと滞在中に特訓して大正琴のデュオを聞かせてくれた女子中学生。お父さんが蒸気機関車を声帯模写、男子中学生が警笛、お母さんが車掌のアナウンスを受け持って、見事なチームワークでSLが出発したり、スピードを上げたりする光景を再現したファミリーも。また、女子中学生は仲良しの小さなお孫さん姉妹と一緒に、クイズと賞品を考えたスペシャルくじ引きでみんなに手作りの品や野菜をプレゼントしました。
一人ずつ、ファミリーへのお礼を綴った「感謝の手紙」を壇上で発表したときは、子どももファミリーも明日のお別れを思ってしんみり。最後にSMAPの「世界に一つだけの花」を合唱、温かく、楽しい時間を共有した最後の夜となりました。
いよいよ最終日。車で送られて遠野駅に集まり、列車を待つ間、ファミリーとずっと話し込んでいる子もいました。列車が到着してみんな名残惜しそうに乗り込み、駅のホームから懸命に手を振り目頭をおさえるファミリーの皆さんに見送られ、遠野を後にしました。
遠野でお世話になったホストファミリーの皆様、現地アレンジをお願いした認定NPO法人
遠野山・里・暮らしネットワークの皆様、協力していただいた全ての皆様にこの場を借りて深くお礼申し上げます。
参加した子どもの感想(一部抜粋)
日程:2019年8月17日(土)~21日(水)
場所:遠野市(岩手県)
主催:テレビ朝日福祉文化事業団
共催:(福)東京都社会福祉協議会 児童部会
後援:(公財)原田積善会
協力:認定NPO法人 遠野山・里・暮らしネットワーク
「高校生の海外生活体験の旅」は、1998年に始まった児童福祉事業のイベントで、今回が19回目(シアトルでは10回目の実施)になります。約1週間の海外生活を通して異文化を体験し、ホームステイによるホストファミリーとの濃厚なコミュニケーションを通じて英会話力を高めることが目的です。
書類選考・面接による審査を実施した結果、今回は男子5名、女子5名の計10名が参加。滞在したのはワシントン州シアトル。海と湖に囲まれた美しい都市で「エメラルドシティ」とも呼ばれており、世界の航空・宇宙産業の中核をなすボーイング社をはじめ、マイクロソフト、アマゾン、スターバックスなど、世界に名を知られる大企業の誕生の地でもあります。特にアマゾンの経済効果は大きく、企業城下町とも呼ばれています。
出発日。参加する10人は成田空港に集合。出国審査を終えて搭乗ロビーで待機する間も英語の復習をしていて、緊張感がこちらにも伝わってきました。高校生たちと「言ってることが分からなかったら何て聞けばいいの?」、「Pardon?でいいと思うよ」などとやりとりをしていると搭乗時間となり、16時間の時差があるシアトルに向けて出発。参加者のほとんどが海外は初めてですが、それぞれが明確な目的を持ってこの旅に参加しているだけあって、期待感が9時間のフライトの疲れを上回ったのか、到着した頃にはこれから出会う人々やアメリカの生活体験に目を輝かせていました。
空港から、まずはお世話になる教会「メープル・バレー・チャーチ」でオリエンテーションを受け、ホームステイ先での注意事項などの説明がありました。①アメリカでのシャワーの使い方。家庭にはそれぞれお湯を溜めるタンクがあり、そのお湯をキッチンやお風呂で利用します。そのため、一人の人が長時間お湯を使ってしまうとタンク内のお湯がなくなり、お湯が再び溜まるまで水しか使えず、後の人に迷惑がかかるのです。②自分の部屋の扉はなるべく閉めないこと。部屋の扉を閉めていると、何か問題があるのかとホストファミリーが心配するからです。③食事の準備などは自分で積極的に手伝うこと。朝食などは自分で冷蔵庫から適当に取り出して好きな時間に食べるという習慣なので、待っていても朝食は出てきません。それはホストファミリーの家はお客様としてではなく、家族の一員として迎えるからです。これから直面する生活上の文化の違いをレクチャーされ、みんな熱心に聞いていました。
引き続いて各ホームステイ先のご家族と対面しました。今年は、とりまとめ役の教会が変わったことから、ホストファミリーも初の顔ぶれが揃いました。
さて、翌朝、ホストファミリー宅での初めての一夜を過ごして教会に集合した高校生たちは、食事、風呂、習慣など日本との様々な違いに少し驚いたようでした。その日の午前中は、パイクプレイスマーケット(観光名所の市場)のフードバンクでボランティア活動を体験しました。生鮮食品、缶詰、パンなどを市場からもらってきて、低所得者の人たちに配布する活動です。参加した高校生は運搬カートの中に次から次へと食料が盛られる度に、こんなにも沢山の貧困者がいる現実に驚いていました。このような活動は日本ではあまりなく、とても貴重な体験でした。
この日は夕方から最初の英語の授業があり、自己紹介を兼ねたゲームをしながら楽しそうに学んでいました。
3日目はボーイング社の広大な飛行機工場を見学し、そのあと再び2回目の英語の授業。この日は「フォニックス」(phonics)というレッスンでした。日本ではあまり馴染みがないのですが、アメリカでは幼稚園から英語の読み方の授業があり、「フォニックス」はそこで使われる教育法です。アルファベットの綴りと発音のルールを学習してさまざまな単語や文章を正しく発音できるようにするもので、例えばアルファベットのbを「ブ」、aを「ア」、tを「トゥ」と教えます。これを組み合わせると、「bat=ブアトゥ」となります。日本では「バット」と発音することの多い単語ですが、フォニックスのルールを使えば、より英語らしい発音になります。この日はさらに日本人の苦手な「R」と「L」の発音の違いも練習しました。ホストファミリーの発音が聞き取れなかったと言っていた高校生もいましたが、アメリカ人でも幼少期から発音の基礎を学んでいることを知り、それを体験したこの発音練習の授業は大変貴重な体験でした。
次の日はシアトル・マリナーズvsタイガースの大リーグ野球観戦。野球場に着くと、あるホストファミリーの家族の娘さんが、高校生の為にと輪ゴムで作ったミサンガを10人分プレゼントしてくれました。思いがけない素敵なプレゼントに感動し、その日以来、高校生たちは腕や鞄にそのミサンガをつけていたのが印象的でした。
また、翌日はそれぞれのホストファミリー宅で終日過ごしました。魚釣りに出かけたり、ショッピングに出かけたりとそれぞれの休日をホストファミリーと一緒に満喫していたようです。
6日目は、早朝から遠足。「タコマ富士」の愛称で親しまれているワシントン州のシンボル、レーニア山に向かいました。バスで3時間半ほどかかりましたが、高山植物が美しく花を咲かせている自然の中を散策しました。雲一つない青空の下、清々しい空気を感じながらのトレッキングは本当に素晴らしい思い出となりました。レーニア山からバスで帰ってくる途中、身体障がい者のホームレスが座っているところでバスが停まり、運転手が声をかける出来事も。説明によれば、この方は戦争によって障がいを抱えることになり、仕事をすることができずに路上で暮らしているとのこと。そこで高校生の一人が、たまたま持っていたホストファミリーと一緒に作ったブルーベリーケーキをホームレスに差し出しました。日本で生活していると目の当たりにすることは多くはありませんが、ホームレスにも様々な理由と事情があるのだということと、そのような状況の人々に対して救いの手を差し伸べることはアメリカではごく普通にあるのだということにみんな驚いていました。
早くも最終日、3回目の英語の授業を終え、歴史あるワシントン大学も訪れました。夕方、ホストファミリーを招いて「さよならパーティー」を開催。各自、日本から用意してきたホストファミリーへのプレゼントを披露するなどして、お世話になった感謝の気持ちを直接伝えました。全員で「東京音頭」を踊りながらの「椅子取りゲーム」は大変盛り上がり、ホストファミリーからも「とても素敵なパーティーだった」との感想をもらいました。
いよいよ帰国日。いろいろな思いがこみ上げ、ホストファミリーとの別れ際に思わず涙してしまう高校生もいました。「もっとシアトルにいたい!」、「もう一度シアトルに来たい!」という声が多く聞かれ、「ホストファミリーから『あなたは新しい家族』と言われた事がとても嬉しかったんだ!」と目を潤ませながら嬉しそうに話してくれた高校生もいました。最初こそみんな遠慮がちに見えましたが、シアトルでの1週間の体験を終えて、自信が表情に溢れていました。
ホームステイという形で初めての米国生活を経験した高校生たち。後押ししてくれた関係者に感謝しながら、この旅で知り合った人々の思いやりや優しさを一生忘れないでほしいと思います。そして、この貴重な体験が今後の人生に大いに役立つことを祈っています。
≪参加高校生の感想(抜粋)≫
≪参加ホストファミリーの感想(抜粋)≫
日程:2019年7月24日(水)~8月1日(木)
場所:アメリカ ワシントン州シアトル市
主催:テレビ朝日福祉文化事業団
共催:(福)東京都社会福祉協議会 児童部会
後援:(公財)原田積善会