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国民投票をキーワードに
政治と有権者、そして、この国のこれからを考える
ide koya reporter


「政治家自身も痛感している永田町と国民の距離」


  「渡辺宣嗣です」
「こんばんわ。宮崎緑です」
「朝まで生テレビ、本番3分前のスタジオです。今日のテーマは国民投票」
「議員というのは私たちが選んだ代表。でも、最近の国会を見ていると、住専の処理法などは、多くの国民が望んでいることとは逆のほうに…」

東京・六本木のテレビ朝日のスタジオ。モニターテレビが並ぶ副調整室の中に、いつもの二人の声が響いて、とくに緊張した様子もなく、深夜のバトルはあっけなくスタートした。朝生は今回で111回目。生放送とはいえ、格別の緊張があるわけもない。しかし、放送の様子を初めて見る当方としては、ちょっと拍子抜け。

まず、司会の蜷川真夫さんが穏やかな笑みをたたえつつ、元外務大臣の柿沢さんに尋ねる。

 
蜷川 どうなっているんですか
「どうも最近の永田町は国民との距離があるんじゃないか。国民から見えにくい。柿沢さん、どうなっているんですか」

柿沢弘治 私たちも隔靴掻痒
「選挙制度が変わったのに、まだ選挙が行われていない。最近の永田町が国民から見えにくい、不透明感があるというのは、そのせいだと思います。確かに、国会で私たちが活動していても、何か隔靴掻痒というか、そういう感じがしますよね」

蜷川
「ズバリ、選挙はあるんですか、近々」
柿沢
「年内にあると思います。私は10月解散、11月選挙だと思っています」


  左近正男 社民党の次の選挙は厳しいだろうと
「私も選挙は年内にあると思います。私、いま、4期目なんですが、3年前の選挙で、社会党は消費税反対、安保反対、基地反対などを掲げていたわけですが、そういう基本政策がこの3年間で180度変わってしまった。選挙で公約したこととはまったく反対のことを、私ども、やっているわけで、申し訳ないことだと思っていますし、次の選挙では厳しい審判をいただくんじゃないかと思っています」


高市早苗 とにかく早く解散するしかないですよ
「うちの党も大概、評判悪いですよね。永田町にいても、民意が政策に反映していないのがよくわかります。ほとんどの党が前の選挙のときの公約を守っていない。新進党も前の選挙のときには、まだ存在していなかったんですから、衆議院選挙の審判を受けてない。
与党のほうは3党の政策の食い違いが表面化するのを恐れて、政策決定にムチャクチャ時間がかかる、決まったものも妥協の産物で骨抜き、なおかつ重要法案は先送りです。いまのような状態だったら、基本政策以外は党議拘束をはずして、みんなが自分の信念と良心に忠実に投票したら、案外、民意を反映すると思います。でも、とにかく、もう早く解散をして、キチッとみなさんに審判をあおぐしかないですね」
 


  松あきら 国会ってこんなにメチャクチャなの
「国会に入ってみて、こんなにメチャクチャなのかとびっくりしました。国の決算なんか二年度前のものをやっているんですから。普通の会社で二年も前の決算をしていたら笑われちゃいますよ。だから、私は高市さんの意見に賛成です。それぞれの先生が自分の信念に基づいて、どんどん意見をおっしゃるべきだと思います。一日も早く解散をして信を問わないと、もっとメチャクチャになりますよ」


  パネリストの国会議員は口を揃えて「今の永田町は民意を反映していない」「一日も早く選挙を」と言う。しかし、三つも内閣が変わっても、選挙がなかったというのが今の日本の現実だ。ならば、国会や議員にまかせてないで、国会議員の選挙よりももっとストレートに国政に反映させることができる国民投票について、真剣に考えてみようというのが、そもそも今夜のテーマ。日本でも国民投票を導入しようと呼びかけているジャーナリストの今井さんが、いま、なぜ、国民投票か、説明する。  


今井一 日本の政治はほんとに水準が低いですよ
「最初からケンカを売る気はありませんが、このテレビを見ていた人々は、ここまでのやりとりでもうウンザリしてると思う。橋龍がどうしたとか、小澤がどうしたとか、新進党がどうしたとか、そんなことには、もうウンザリしているんです。松さんが、いま、おっしゃったように、ほんとに水準が低い。人格も低い。しかし、いま、われわれが求めるべきことは、政治家の水準の是正とか、政治家の人格の是正ではなくて、新たな制度の導入だと思う。
日本の場合、いったん多数派が決めたら、世論や国会での審議とかに関係なく、それで決まってしまう。消費税のときも住専のときもそうでした。ところが、ヨーロッパではそうではない。国民が拒否権を発動できる。毎日新聞の調査でも、国民の多くが重要な政策課題については国民投票ができるようにしてほしいと望んでいます。日本にも国民投票の制度があれば、大多数の国民が嫌がるような法案は絶対に通らなくなる」


柿沢 みんなが反対したらできない…でいいの?
「しかし、今井さんはそう言うけど、みんなが嫌がっても、どうしてもやらなくてはならないというような問題はどうするのか。そこのところをよく考えていかないといけないと思う」


今井 国民は自分たちで決めたいんです
「住専のときも政府はそう言ってた。だけどね、国民はそれでもいいと思っているんですよ。どうせ、最後にお尻を拭くことになるのは、いつも自分たちなんだから、それなら自分たちで決めさせてほしいと思っているんです。それに、民主主義は時間がかかるんです。今回の住専の問題にしても、どれだけ議論をしましたか」


八幡和郎 対案なしの国民投票はまずい
「どういう問題が国民投票に向いているのか、よく考える必要があると思う。とくに対案がない場合はよくないと思う。いやなものはいや、というだけではいけない」
 


  坂東真理子 国民投票は伝家の宝刀
「問題によっては国民投票もいいと思います。住専や公的介護保険のようなテクニカルな要素の大きな問題はむずかしいでしょうが、夫婦別姓の問題とか、PKO問題とか、エネルギー政策などのように、それこそ基本的な問題であって、対案を明確に浮かび上がらせることができるような問題についてだけは可能かなと思いますね。しかし、その場合でも時間もコストもかかりますから、伝家の宝刀で現実にはなかなか使いにくいんじゃないでしょうか」


堀紘一 消費税5%を国民投票にかけたら、みんなが反対
「しかし、消費税5%に賛成ですか反対ですかと聞かれたら、みんな反対するでしょう。どうするんですか。それを国民投票にかけるんですか。で、みんなが反対だったらやめるんですか。(新潟の巻町では8月に原発建設の賛否を問う住民投票が行われるが)巻町の住民投票も問題があると思う。巻町の人の気持ちはよくわかりますが、原発は巻町の人だけの問題ではない。すぐ近くの新潟市の住民の意思はどうなるんですか。さらに、それ以前の問題として、原発というものに対して、あるいは電気を使わないようにするというようなことに対して、日本の国民の全体のコンセンサスができてないわけですよ」

今井
「いや、住民投票はそういうことを話し合うためにも、すごくいいきっかけになる。巻町の住民もこの2年間でものすごく勉強してますよ」
 


  玉城義和 沖縄の県民投票は問題提起
「地域と国策ということで言うなら、沖縄の基地は率直に言って50年間、ほとんど見向きもされないできた。沖縄では県民投票条例ができましたが、県民投票によって、こういう問題がありますよと提起することは非常に大きな意味があると思う。地域の問題を徹底的に議論していけば、普遍的な価値観に結びつく可能性があると思う」


高市 国民投票は憲法違反?
「国民投票でどういう問いかけをするかという問題もありますし、とくに国の場合は、国民投票の結果に法的な拘束力を持たせたら、今の憲法では憲法違反になると思いますね。憲法41条では国会が唯一の立法機関としていますし、前文では日本国民は選挙された代表を通して行動するとしています。代議制民主主義を定めた日本国憲法に抵触すると思います」
 


  竹花光範 日本の憲法では間接民主主義こそ人類普遍の原理と
「日本国憲法は間接民主主義、代議制民主主義を人類普遍の原理とまで言っています。国民投票の結果に法的拘束力を持たせたら確実に憲法違反になるでしょうし、住民投票であっても、法的拘束力を持たせたら、これも憲法違反の疑いが出てくる。また、国民投票を採用しているイタリアやスイスでも、予算や財政法案は国民投票にかけられないことになっていますから、住専のような問題はやはり国民投票はできないんです」


  このあたりで議論の風向きが少し変わってきた。今夜の議論は、国民投票がなぜ必要か、どんなやり方があるのかという話からスタートしたのだが、高市さん、竹花さんの憲法違反の疑いがあるという指摘のあたりから、議論は新たな展開を始めたようだ。スタジオに参加している60人の学生さんたちの表情も一段と真剣になる。みんなの投票でものごとを決めると聞くと、とてもいいことのように思えてしまうのだが、もちろん、そんなに単純なことではすまないのである。国土庁の八幡さんがさらに追い討ちをかけ、ジャーナリストの高野孟さんが反論。そして、科学者の志村史夫さんからも過激な意見が飛び出した。  


  八幡 国民投票が偽善になることも
「対案なき国民投票がいかに馬鹿馬鹿しいことになるか。いい例がある。ヨーロッパの国の中には国民投票で原発をやめることにしたところもありますが、その後どうしたかというと、フランスの原発の電気を買ったりしているんです。つまり、原発は是か非かの国民投票のはずだったのに、実は自分のところの原発の電気を使うか、それとも他の国の原発の電気を買うか、それを選ぶ投票になってしまったわけです。投票した人々はそんなことは考えずに、原発に反対だから反対投票をしたんでしょうが、こういう偽善性を克服しないと説得力がない」


高野孟 国民に問いかける方法を考えたい
「でも、それは国民投票そのものの問題ではないでしょう。そうなりがちなことは認めますが、国民投票という制度の問題ではなくて、どういうふうに国民に問いかけるか、その基本的な方法ができていないということなんですよ。さきほどの消費税5%の問題にしても、ただ賛成か反対かと言われたら、ほとんどの人が反対と答えるに決まってます。でも、そうではなくて、それぞれの政治勢力が国の財政全体のプランを描いて、国民に負担のあり方を問うというような方法だってありうるわけですよ」
 


志村史夫 国民は真面目に投票するのか
「私はちょっと根本的なことを言いたい。日本の国民は本当に国のことを思い、自分たちの住む地域のことを思う国民だろうか。原発にしてもゴミ処理場にしても、本当に必要なものであるなら、誰かが泥をかぶらなければならない問題だと思うんですが、そういう教育がなされているだろうか。また、もっと言えば、現在の選挙制度そのものに疑問があると思う。今の政治家を誰が選んだんですか。国民が選んだんですよ。20歳になれば誰でも選挙権が得られるような、そういう今の選挙法ではこうなるのも当然だと思う。
日本にはいろいろは資格がありますが、資格なしでなれるのは大学の先生と議員なんですよ。政治家にも資格が必要だと思いますよ。どこか僻地のようなところで尽くしてくるとかね」


  この後、国会議員の党議拘束をはずすのは、どんな場合が適当かという問題をめぐって、ひとしきり意見の交換があったが、午前2時、CMタイムとなってで水入り。だが、どうやら、このあたりで今夜の仕掛けが見えてきた。「国民投票」はキーワードなのである。国民投票について話しているうちに、国会議員、政治、マスコミ、有権者、日本の民主主義などが見えてくる。今夜は何かの結論を見出すための4時間というよりも、示唆的な4時間、思考の手がかりを示す4時間になりそうだ。  


2時台へ..


表紙6月のテーマ

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