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2月7日 とおりみち まわりみち

会社に勤めだしてから、ときどき歩くとおりみち、がある
ただのみち、なのに、わたしをいつも励ましてくれる

このみち最短ルートではない
そこがいい!

まわりみち
マイナスイメージに捉えなければ、
なんて余裕があって良いことばなんだろう!

最短、最新、最高を求められる仕事の後くらい
まわりみち、だっていい
無駄があったっていい
かえりみち、はわたしのためだけにあるのだから

いつも通るたび見とれていたブティック
最近店をたたんでしまった
一度で良いから
入ってみればよかったな
いつもメインのウインドウに飾られる
毎週木曜日に変わるマネキンのコーディネート
楽しみだったのに
今は空っぽのお店
次はどんなお店が入るんだろう

ちょっと歩くと小さな工房が見えてくる
手作りのアクセサリーのお店
痩せた男性がせっせと手を動かしている
ピノキオのジョゼッペ爺さんを思わせるずり落ちたメガネ
いつも小さなテレビを仕事場に置いている
ときどきテレ朝をつけて大笑いしているのを見ると
うれしくて飛び跳ねたくなる
‘どうもありがとう’

ここらはわくわくスキップゾーン
つまずいたって、後ろを振り返って照れたりしない
だって心がはしゃぐんだもん

花壇の花、
また新しい花になっている
先月まで植わっていた、
あの鮮やかな緑の葉は何ていう名前だったんだろう?
しなやかな手触りが心地良い葉だった

階段の真下に来ると
ヒルズのタワーがそびえ立つ
ビルとビルのあいだから見えるタワーは
時折、朝モヤで煙っている

城塞のようなタワーを眺め階段を駆け上がる
ここまでくると「あ、ロッポンギだ」なんて思う

春が近くなると強い香りを放つ白い花が脇に咲いている細い道を通って
宮殿のような柱と柱の間から見る朝日とか夕日が好きだ
並木なのにそこだけ色づくイチョウの木も良い

帰り道はキャンバスに描いたような
ぽっかり浮かんだ月を見上げるのが習慣になっている
ガラス張りの建物が怪しげな光を放つ
このゾーンは低くて伸びのある哀しい曲が合う

ビル風で震える恋人をそっと引き寄せる
そんな優しい光景のうしろに
そびえ立つ東京タワー

わたしはいつも
東京タワーに声をかける
朝なら‘おはよう
東京タワーの見え具合で一日のテンションが決まっている気がする
言うなれば東京タワー占い

くっきり、ハッキリ赤いラインが見えると
なんだかいいことがある気がするのだ

ところで夜の東京タワーはなぜあんなに美しいんだろう
パリのエッフェル塔より断然キレイだと思っている
キラキラとジュエリーのようで
そのままリボンをかけて
誰かにそっと渡したいほどに…

毛利庭園を抜けながら
季節の花を確かめる
梅だ、桜だ、もみじだ
あたまでっかちに一年を感じ取るのを予防する最終ラインだ
空気で季節の変わり目がわかるようになりたいから

夏は朝が早いほど得した気分になる
蓮の花
つんとした顔で真っ直ぐ気取って咲いているのを
独り占めしたみたいな気分になる

とおりみち まわりみち わたしのかえりみち

ただのみち、なのに、わたしをいつも励ましてくれる
外国なんかに行かなくたって
自分探しは毎日出来る

聴く音楽や通る車の音によって
同じみちでも色を変える

泣いても、笑っても、どんな夜にも朝が来て
そうしてわたしはいつものみちを歩く

まわりみち、だっていい
あさのみち、はわたしでいるためのお化粧のような時間なのだから
かえりみち、はわたしのためだけにあるのだから

さあ、ドアをくぐって、今日も元気に働きましょう
 
 
    
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