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11月16日 「同じ月を見ている」

寒くなってくると空が澄んでいて、夜空に浮かぶ月もいつもより美しく見えたりしますね。
皆さんの記憶の中に月と共にある記憶というものはいくつ存在するでしょうか?

「あの日あの時の月はたしか…満月だったなぁ」そんな月との思い出はありませんか?

わたしはどちらかと言えば、太陽よりも月が好きなタイプです。(太陽が嫌いなわけじゃないのですが。)月は黙っているけれどいつも見守ってくれている気がします。寡黙だけど理解ある友人、そんな存在です。そしていつも見るたびに形を変えていて、日によっては大きく見えたり赤く見えたり…となかなか表情のある一面もあったり。嬉しいことがあった日、悲しいことがあった日、何があったわけでもないのに急に心が虚しくなった日、見上げるだけで心が満たされていくのがわかります。月はわたしにとって一緒にいても飽きることのない、腹心の友です。

今日ご紹介する映画もそんな月をモチーフにした、静かで熱い思いのある物語です。

「同じ月を見ている」

10歳のときに出会った恋人・エミの心臓病を自分の手で治したい一心で医者を志した鉄矢。医者になってエミと結婚するという夢の実現を目前にした彼にひとつの知らせが入ります。もうひとりの幼馴染みドンが刑務所を脱走したという知らせでした。平穏な日々がドンによって崩されてしまうのではないか。鉄矢の心に暗い影がかかり始めます。

このドンという青年は不思議な力を持っています。人の心の中を絵に描き出してしまう力。ほとんどしゃべることもなく、それでいて周りの人を安心させる力。

この物語の主人公は誰だろう?と考えると、ヒロインのエミと答えたくなりますが、本当はドンなのかもしれません。登場人物のすべての人々が形こそ違えドンの力で変化していくからです。
生きていくのに必要な嘘やいつの間にかまとってしまった悲哀と引き換えに、置き忘れてきてしまった子供のような純粋な気持ちに気がつかせてくれるのがドンの存在。ありがたくもあり、やはり恐ろしいものでもあります。ドンの静かな瞳の中を見ていると、自分の心の弱さと鏡で向き合っているかのような恐怖を覚えます。

このドンを演じるのは「頭文字D」や「ベルベット・レイン」と日本でも出演が続いている香港の若手映画俳優エディソン・チャン。ドンの瞳の奥に広がる心情表現には鳥肌が立ちます。静かな湖畔に立っているような気分なんです。エディソン・チャンの演技はやはり一番の見所といっていいのではないでしょうか。


キャストの話では、もうひとつ大きな話題を呼ぶのが鉄矢を演じる窪塚洋介。この映画は彼の退院後復帰第一作となります。窪塚洋介自身は原作を読んだとき、ドンを演じるつもりでいたそうですが俳優になった当初の「どんな役柄でも演じられる俳優になりたい」という気持ちを思い出して、今までの自分では絶対にやることのなかった鉄矢の役に挑戦したということです。そんな窪塚洋介の新しい演技にも注目です。

その他にも物語の淵を固める強力なキャスト陣も目が話せません。
特に感動するのはドンに魅了され更生の道を選んだボッタクリバーのマスター・金子役を演じる山本太郎。彼の最期のシーンは壮絶です。
彼の台詞にあった「キレイな心ほど、すぐ汚されてしまう」という言葉は物語を象徴しているともいえます。


月の魅力といえばその光と共に存在している影なのではないか、と考えることがあります。光るからこそ存在する影。それは人間の表と裏と似ている…。影や裏といった表現をされるようなもの…例えば辛い記憶や寂しさ虚しさ、そういったものとどう向き合って生きていくかがとても重要になってくるのと一緒で、この映画では月、すなわちドンがもたらす影とどう向き合っていけばいいのかということが強く意識させられます。


最後にもうひとつ。
この映画を締めくくるのは久保田利伸が歌う『君のそばに』。
これがまた素晴らしいんです。物語全体を包むように優しく響く歌声が、映画館を出た後までずっと余韻を残してくれます。

自分の心に素直になりたい夜に観てください。心がきれいに洗われる映画です。


松井さんに撮っていただきました
♪作品データ♪

『同じ月を見ている』 11月19日公開
配給:東映
原作:土田世紀(小学館 ヤングサンデーコミックス)
脚本:森淳一 
監督:深作健太

出演: 窪塚洋介、黒木メイサ、エディソン・チャン、山本太郎、岸田今日子、松尾スズキ、他
主題歌:久保田利伸『君のそばに』(SMEレコーズ)

「同じ月を見ている」公式サイト:
http://www.onatsuki.jp/

 

 
 
    
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