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5月25日 今回は、「ロスト・イン・トランスレーション」をご紹介!

 
ソフィア・コッポラ監督の2作目。
東京で出会ったアメリカ人の男女の、束の間の切ない恋を描いた作品。

ウイスキーのCM撮影で来日したアメリカの映画スター、ボブ・ハリス。
微妙に歯車の狂いかけている家族を残して東京に来たボブは、慣れない国に一人でいることに不安を覚え、眠れない日々をすごしている。
別の部屋には、カメラマンの夫の仕事に同行して来た若妻、シャーロットが。
忙しい夫にかまってもらえない彼女はいつも一人ぼっちで、寂しさは募るばかり。
ホテルの部屋の窓から見える東京の景色を、ただただぼんやりと眺めるしかなかった。

この2人が、ある日ホテルのバーで偶然に出会い、お互いの心を開いていくことで、
いつしか強固な絆で結ばれていく。しかし同時に、帰国の時は迫っていた。
二人は、残されたいとおしき夢のような時間を、思い切り楽しんで過ごすのだが・・・。

・・・冒頭で、「束の間の切ない恋を描いた」と書いてしまった。ついうっかり。
もちろん、切ない恋といえばそうなのである。
でもこれでは、この2人の関係をうまく説明し切れていない。
もっと深い心のつながりが、この2人にはある。

東京という街には、強烈な疎外感や孤独を覚えさせる、独特の冷たさがある。
たとえば歌舞伎町や渋谷のネオンサインの、しらじらしくて空しくなるような明るさや、外の喧騒から一転、ホテルの部屋のしん、と静まり返った感じや、シャーロットが眺めていた窓の外、高層ビルが立ち並ぶ、無味乾燥な街の景色とか。
観ていると、ふうっと、色の無い空虚の漂う要素が、至るところにある。

ボブとシャーロットは、東京という街がそうさせる、「孤独」を共有していたから惹かれあった。
だがそれだけではなく、2人はそれぞれに感じていた孤独の「原因」、つまり、人生における根本的な苦悩と正面から向き合っていた。
ボブは結婚25年目。仕事でもプライベートでも「中年の危機」。結婚2年目のシャーロットも、夫との関係が、恋愛という夢から結婚生活という現実へ変わりつつある。
2人とも、この先の人生に、不安や迷いを抱いていたのだ。

その不安から逃れるようにゆきずりの恋愛に溺れる、というのは、現実でもありがちなパターンだ。
しかしこの2人は、東京という異国で唯一心を開ける存在として始まったものの、肉体的な繋がりを持つこともなかった(そもそも年が親子ほども離れているし・・・)。
そうではなく、二人は、一緒に過ごして話をして、お互いの心をほどいていくことで、それぞれの人生の迷いから抜け出す手がかりを見つけることができたのである。
もはや、単なる恋愛とは違う。
友達も恋人をも超えた、魂と魂をつなぐ、特別な糸で繋がれた関係だ。

だからこそ、この2人の別れ、ラストシーンは、単なる恋愛映画よりも切なくて切なくて・・・
穢れなく美しいのである。

かけがえのない相手と出会えたという、何物にも代え難い最高の幸せ。
しかし、必ず訪れる別れ。
幸せな「時間」は束の間で儚いけれど、その「記憶」は永遠に色あせることはなく、一生、互いの心の中に、鮮やかに存在しつづけるのだろう。

■作品データ/『ロスト・イン・トランスレーション』
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、ジョバンニ・リビシ、他
配給:東北新社/2003年/アメリカ/102分

※渋谷シネマライズ他で公開中

■『 ロスト・イン・トランスレーション』公式サイト
http://www.lit-movie.com/#

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◇近況◇

このあいだ、近所に小鳥屋があることが発覚しました。
「○○小鳥店」。
鳥店、ではなくて、小鳥店。
なんとも、こころ惹かれるかわいらしいネーミングであります。
しかし、なぜか、
「小鳥店」と書いてあるのに、
ウサギがいるらしい、とのこと。
近々、この小鳥屋に偵察に行き、
もしかしたら、文鳥かウサギを我が家に連れ帰るかもしれません。

   
 
 
    
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