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12月20日 今回は、『モーヴァン』をご紹介。

 
クリスマスの朝、目覚めたら、恋人が手首を切って自殺していた。
オープニングから度肝を抜かれる映画である。
主人公のモーヴァンは、死んでいる自分の
恋人の傍で、時折彼を確かめるように遺体に触れ、押し寄せる悲しみをただ静かに受け
入れる。部屋に残されたのは、彼からのクリスマスプレゼントの、革ジャン、ヘッドホンステレオ、音楽テープ。
パソコンの中には、彼が書いた小説と、
モーヴァンへのメッセージ。
「この小説を出版社に送ってほしい」…

モーヴァンは、彼の遺体を部屋に放置したまま(!)数日を過ごし、何度もメッセージを繰り返し見る。「I wrote it for you」「Be brave」…。
彼が選んだ音楽。モーヴァンはヘッドホンを片時も離さず音楽を聴くようになる。
「ヘッドホンをすれば、現実はユメになる」
「音楽」というフィルターの向こう側、現実から一歩引いたところから、
実はモーヴァンは、冷静に、現実を見つめていたのかもしれない。

彼女のとった行動の数々。ヘッドホンをして彼の音楽を聴きながら、
彼の遺体を風呂場で処理し、丘に遺体を埋める。何ともエキセントリックな光景だが、
そこにはモーヴァンの彼への深い愛が見える。そんな2人きりの葬式。
そのときのモーヴァンの至福の表情たるや…!

更に、彼の小説を、約束どおり出版社に送る。ただし、著者名を、彼の名前でなく、「Morvern Callar」と、自分の名で…!!(確かに「I wrote it for you」って書いてあったけど)
更に、更に…と、ここからはモーヴァンの痛快独壇場!モーヴァンは、ヘッドホンから流れる音楽に力を貰い、自分の人生を、見事、自分の手で切り開いていく。
モーヴァンの一連の行動には、一見理解し難いものがある。
最愛の彼を亡くした悲劇のヒロインは、普通はもっと激しく泣き叫び、どん底まで落ち込むはずだ。それどころか、彼女は彼の死を利用して、うまく自分の人生の糧に変換していくのである。ある種、ドライで道徳観が欠落した女に見える。
でも、ただの冷血女ではない。むしろ痛々しいほど繊細で、常に何かに飢えている感がある。同時に怖いほど冷静な面があり、自分の問題は自分で解決するという自己完結的な強さと、すぐに行動に移せる瞬発力も持ち合わせている。
そう!モーヴァンの魅力はモラル云々を超越したところにあり、その「一匹狼的ミステリアス」なところがたまらなくカッコイイのだ。

最愛の人との別れは耐え難い。そのときは自分も一緒に死にたいと思うだろう。
でも、現実、残されたものには人生の続きがある。
生きている限りは生きることに貪欲でありたい。
これが、恋人の死という悲しみを味わった上でモーヴァンが出した答えなのだと思う。
そんなモーヴァンをとても正直で潔いと思う。悲しみを幸せに変える力を持っているモーヴァンの強さに、どうしても!惹かれないわけにはいかない。

■作品データ/『モーヴァン』
監督:リン・ラムジー
出演:サマンサ・モートン、キャスリン・マクダーモット、他
配給:アーティストフィルム/2002年/イギリス/93分

※2003年春、渋谷シネマライズほか全国ロードショー

来春公開予定の『モーヴァン』。イギリスの新進女性監督リン・ラムジー(『ボクと空と麦畑』)、主演はサマンサ・モートン(『ギター弾きの恋』『マイノリティ・リポート』)と、今旬な顔がそろって、今年のカンヌ映画祭で上映されるや絶賛を浴びた話題作です。

佐分アナいわく「私、ヒロインのモーヴァンに惚れました。共感というよりも、憧れというか、 何だか異性を好きになるような感じで。こんな気持ち…、ま、まさか!これって、禁断の…?」…同性に惚れた?どーいうことですか!????

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