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11月29日 今回は、『西洋鏡〜映画の夜明け〜』をご紹介。

 
舞台は1902年、清朝末期の北京。
初めての「西洋鏡(=映画)」を持って、英国人レイモンドがやって来た。人生を映画に賭けて北京にやってきたレイモンドであったが、「西洋人の魔術だ」と、自らの伝統、中国独自の文化に誇りを持つ中国人には最初は受け入れられない。

 


しかし、泰豊写真館で働くリウという青年だけが、ひとり「西洋鏡」に魅せられ、
レイモンドの映画小屋に足繁く通う。リウは優秀な写真撮影師で、未知のものに対する知識欲や好奇心が人並み外れて旺盛。当時の北京は、写真がまだ珍しいとされていた時代である。
そんな中で目にした、信じられないような光景(…自分と同じような人間が、スクリーンの中で喋ったり、走ったり、泣いたり、笑ったり、自由に動いて、生きている!!…)に、
リウはこれまでに味わったことのない感動を覚え、レイモンドとともに「映画の普及」
という夢を追い求めていくのだが・・・。

当時、中国では伝統文化である「京劇」が衰退の色を見せ始めていた時期でもあった。
そんなときに登場した「西洋鏡」。「西洋鏡」は次第に人々を魅了するようになるが、
「西洋鏡」が「京劇」から観客を奪っているという側面も否めない。

自らの行動は「京劇」の衰退に拍車をかけ、中国の伝統を壊そうとしているのではないか。リウの心の中にはそういった罪の意識との葛藤が生まれていた。
しかし、それでもやはり、「西洋鏡」への想いは断ち切れないほど大きくなっていった。

「100年後にも、今の北京の人々の生活を記録として残したい。」
その一心でリウは夢を追い求めた。そして、ついにリウが撮った初めての映画とは…。

人は新しいものを求める傾向にある。新しいものには何かわくわくするような可能性と
希望に満ちているからである。そして何より、新しいものには勢いがある。
近代化の波は、人々に喜びと希望というエネルギーを与えたに違いない。

一方で、これまで自分たちの生きる基盤となってきた古い思想や文化に対しての尊敬の念や愛着もある。考えなしに新しいものに飛びつくのは危険である。また古きを守るだけでは進歩がない。新しいものと古いものとの両方の良さを考え、見極め、受け入れること。それができたから、この映画の中には、最後、北京の人々の喜びに満ちた笑顔がある。

近代から現代に移るにつれてその作業は
難しくなり、今に至っては、人々に考える隙を与えないほど矢継ぎ早に新しい物質が上から
降ってきて、人々はそれをただ機械的に受け入れるしかない。あらゆるものの価値が見えにくい世の中である。これはとても怖いことなのではないか。

 


新しいものは確かに良い。でも、その前に、切なこと、忘れてはならない心がある。
その心があって、初めてほんとうの価値が見える。
「西洋鏡」は、そんなことを考えさせてくれる映画だ。

■作品データ/『西洋鏡』
監督・製作・脚本:アン・フー
出演:シア・ユイ、ジャレッド・ハリス、ユイフェイ、ほか
配給:ギャガ・コミュニケーションズ/2000年/アメリカ・中国/115分

※2003年新春第2弾 有楽町スバル座他、全国東宝洋画系ロードショー

文化大革命も体験したという、中国出身のアメリカ人女性監督アン・フー、『太陽の少年』でベネチア映画祭主演男優賞にも輝いているシア・ユイと、名優リチャード・ハリスの息子、ジャレッド・ハリスといった主演の二人…
見どころもいろいろありそうなちょっと気になる映画です。

   
 
 
    
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