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Vol.79  「ランチ」  (2005/03/30)

「考えたって、意味ないやん」

友人は、パンをほおばりながらつぶやいた。

「ずいぶん投げやりね」
「だって、いちいち考える暇なんてないやろ」
 
昼休みのランチ。
1時間で互いの近況報告をするには、あまりにも歳月が流れていた。

私たちは、学生時代によく話をした。
友人は今、報道記者としてアジアの国々を取材している。
スマトラ沖の大地震では、被災地で観光客を取材したという。

「ロビーの階段の前で、食事に降りてくるのを待ってた」

部屋の扉をノックしたら、すぐに会えただろう。
時間と予算が限られた状況で、どうして偶然を待ったのか。

食事の後、しばらく時間があるので書店を巡った。

「好きな写真家って、いる?」
「セバスチャン・サルガド」

初めて見た、セバスチャン・サルガドの写真集。
報道写真家が戦地で撮った、子どもたちの表情だった。

「何を見つめているんやろ」
 
目の前の現実を見つめることで、精一杯。
立ち止まってしまっては、先に進めない。
各国を取材する友人は、「いちいち考えない」と繰り返すことで、
あふれ出す感情にふたをしているのかもしれない。

投げやりに「意味がない」と言うけれど。
投げた言葉を、きちんと後から拾いに行っている気がした。
 
「考えたって、意味ないやん」
 
だが、意味がなければ、そんなことは考えない。
 
また、時間がある時にでもランチを。
今度はテラスでも、寒くない。 
   
 
 
    
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