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Vol.78  「おばあちゃんとチキンナゲット」  (2005/02/15)

料理上手のおばあちゃんは、何だって作ってくれた。
若竹煮、聖護院大根と鶏肉の煮物、甘いきつねうどん。
おばあちゃんがあまりにもおいしいご飯を作るので、
母は、自家製パンやらグラタンやら、新たな得意分野を開拓せざるを得なかった。

入院して、別人のように小さくなってしまったおばあちゃんに、
中学生だった私は、放課後、電車に乗って毎日会いに行った。
ある日、塾の休み時間用に買っておいたチキンナゲットを、
おばあちゃんが、「食べたい」と言った。
やせすぎて入れ歯も出来ない状態だったが、おばあちゃんは、
それはそれはおいしそうに、歯ぐきだけでナゲットを食べた。
なぜだか、涙が出そうになった。

それ以来、私はお見舞いに行くたびにナゲットを届けた。
マスタードやケチャップで、食べ比べをして。
今思うと、衰弱しきったおばあちゃんの味覚がそれほど敏感だったとは思えない。

おばあちゃんが亡くなった日。
私はおばあちゃんの布団の中で一晩眠った。

病室を後にする度に、おばあちゃんの目が、
「一人にしないで」と言っているように思えたからだ。
私は「また、ナゲット買ってくるね」としか言えなかった。
塾に行かなければならなかった。

「病院食は口に合わない」と、散々周りを困らせたおばあちゃんだったが、
本当は、もう何も食べられない状態だったのだという。

もうずっと、私はチキンナゲットを食べていない。
おばあちゃんと一緒に食べるものと、決めている。
   
 
 
    
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