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Vol.63  「パンタグラフ」  (2004/04/20)

散々探したプラスチックの弁当箱は、大きなサラダボウルの中に隠れていた。

卵焼き、ミニハンバーグ、プチトマト。
白いご飯の割合がどんどん追いやられる。

入りきらなかったおかずは、そのまま朝ごはん。
本当は全部詰め込みたかった。

昼下がりの車内は、ぎゅうぎゅうどころか、がらがらだ。

急行の通過待ち。
おもむろに携帯電話をぱかっと開く。
小さな窓の外へ、親指で懸命にしたためた文言。

私はなんでも、詰め込もうとしているのだろうか。

数十文字にまとめなくてもいい。
絵文字で無理にはしゃがなくてもいい。
弁当箱のおかずみたいに、ぎゅうぎゅうに詰めなくてもいい。

今日はこんなに晴れているよ。

たったそれだけのこと。
携帯電話を折り畳む。
例えばこの電車に乗って、会いたい人たちに会いに行く。

車窓越しには、たんぽぽの斑点が伸びて走る。
   
 
 
    
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